無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

14話 「死龍王との対峙」

 翔び始めて少し経った。
 しかし、死龍王カースドラゴンの姿は見えない。

「あんまり離れると、迷子になるよなぁ。
 だけど、近すぎると被害が……」

 居場所は分かったものの、迷ってしまう。
 的確な判断をするのは、難しいものである。
 なので、最善策を取ることにした。
 
「ここで待つか。
 って、若干敵が見えるようになってきたな……」

 目を凝らさなくとも、遠くにいる死龍王カースドラゴンの兵士達が見える。
 一万と聞いていたが、それより多いほどだ。
 視界の左から右まで、それらで埋め尽くされている。
 腐敗龍アンデッドドラゴンの身体は腐肉と骨で出来ており、原形を留めていないものの方が多い。
 臭いも、かなりきつい。

「うえ……。
 そういえば、死体ってどうしてるんだろう。
 自分では用意できないだろうし……」

 鼻を押さえながら、率直な疑問を口にした。
 死体だけ、誰かに用意してもらっていると考えた方が良いのか。
 だとすると、グループで活動しているのか。
 だが、死龍王カースドラゴンと組むなんて普通有るのかぁ?
 うーむ。
 謎が深まるばかりだ。

「よーし、近付いてきたな!」

 考えるのを一回やめて、戦闘体制に入る。
 上着で鼻と口を押さえながら。

 我慢しろって?
 だって、臭いんだから仕方がないだろう。
 我慢出来るようなレベルじゃないんだよ!
 それこそ、生ゴミを発酵させたような……。
 おっと、失敬。
 亡くなったお方に失礼だわな。

 分身と共に魔刀を造り出し、きたるべき時に備える。
 刀に魔力を流すことで驚異的な威力や早さを実現しているのだが、消費量は少ない。
 そういえば、魔力を全て使用しきったらどうなるのだろうか。

《死にます。
 魔力容量の上限値までは自然回復しますが、魔力が枯渇すれば死にます。
 アイン様の場合は、枯渇など問題外でしょうがね》

 とのこと。
 魔力を使いすぎたら死んでしまうなんて、ハードすぎる。
 そういえば、魔力=生命力的な等式が存在しているような気がする。
 問題外と言われているし大丈夫だろうが、念のために覚えておかねば……。

 なんて考えていると、更に軍団が迫ってくる。
 空間把握に引っ掛かる範囲だ。
 特に目立った者はいないが、一際でかいドラゴンが何体かいる。 
 全長七メートルほどで、白骨化している。
 見るも無残である。

「よし、行くぞ!」

 限界までスピードを出し、先制攻撃を仕掛けようとする。
 しかし、残り一キロを切ると、変な男が現れた。

「どうもこんにちは!」

 男は丁寧にお辞儀をして、骨をカタカタと震わせる。
 身体中骨で出来た鎧で覆われており、頭には竜の頭蓋骨を被っている。
 かなり小柄で、声は高い。
 一瞬子供かと思ったほどである。

「お前が死龍王カースドラゴンか?」

「ええ、いかにも」

 うむ……。
 明らかに竜の感じがするものだと思っていたが、人形のようである。
 古代龍となると、身体が変質してくるのだろうか。
 なんとも不思議である。

「で、何のために鳥獣族ウィンデンを襲うんだ?」

 死龍王カースドラゴンは、手を上げて首を左右に振る。
 
「何のためでしょうかねぇ?
 そんなのあなたに言う義理はありませんよ?」

 いたずらっぽく人差し指を口に当て、首をかしげる。
 まったく、腹が立つ。
 完全に馬鹿にしてきてやがる。

「さて、私の事を話したんですから、あなたの名前を教えて下さいね。
 勝ち抜けとか許しませんから」

 カタカタと、笑っているのか怒っているのか分からない死龍王。
 話すときぐらい、マスク外せよ!

《本当にその通りですよ!
 プンプン!》

 え?
 核なのに感情が……。
 ガリアだけかと思ったが、どうやら核もらしい。
 てか、プンプンて何だよ。

「俺は、アイン。
 アイン・シュターク・バントだ」

「な!?」

 名前を言うと、死龍王カースドラゴンは凍り付いたように動かなくなった。
 十秒ほど。

「あなたが開拓者ですね?
 魔王に言われた通り、好き勝手やらせて頂きます!」

 死龍王カースドラゴンは、一回転しながら大きく後ろにバックステップする。
 そして、いつの間にかそばまで来ていた不死アンデッド兵士・ソルジャーの後ろに隠れた。
 
「さぁ、死者ダンス・オブ舞踏会・ザ・デッドを!」

 死龍王カースドラゴンの言葉が合図となるかのように、腐敗龍アンデッドドラゴンが次々と前進してくる。
 雪崩の如き数が襲ってくるので、一度後ろに大きく下がった。

「いきなり何だよ!
 ったく、名前聞いた瞬間に態度変えやがってよ!
 魔王だか何だか知らねぇけどよ、人様に危害加えちゃ駄目だろうがよ!」

 むしゃくしゃする。
 そんなに俺の名前が知れ渡っている事も驚きだが、魔王とかいう奴が出てきた。
 明らかにやばそうだが、俺を個人指定した上で襲わせるようにするとか、極悪人である。
 会ったこともないのに、なにかしでかしたであろうか。
 心当たりは無いのだが……。
 
 分身と共に刀を構える。
 そして、振り上げる!

「「斬!」」

 斬撃は弧を描き、真っ直ぐと狙い通りに飛んでいく。
 勿論、狙いは死龍王カースドラゴン
 この程度では死なないだろうが、一撃入れておくのだ。 
 二度とこんなことをさせないために。

 そして、突然斬撃は視界から消えた――――と思ったが、そうではなかった。
 腐敗龍アンデッドドラゴンを数十体と死龍王カースドラゴンの肩から先を吹き飛ばし、虚空へと消える。

「くっ…………。
 不意打ちとは、卑怯!」

 いや、不意打ちでも何でもない。
 目の前で刀を振るっただけである。
 
「すまん。
 こんなに弱いなんて、流石に予想外だわ……」

 素直に謝る。
 手加減することも出来たのだが、こんなに弱いとは……。
 それに、さっきは一回相殺されたので、もう学習しきっているはずであったのだ。
 しかし、かえって相手を逆上させる。

「ふざけるなぁぁ! 
 パペットいの人形劇・オブ・カース

 今度は何かと警戒すると、なんと腐敗龍アンデッドドラゴン達を破壊し始めた。
 気が狂ったのかと思ったが、そうでない様子。
 何やら、ぐちゃぐちゃにした死体を量産している。

「な、なにやってんだよ……」

 あまりにグロテスクな光景なため、アインは目をそらしたくなった。
 しかし、戦闘中なのでそんなことは出来ない。
 最悪だ。 

「見よ、これが私の最高傑作だ!」

 すると今度は、デカイ腐敗龍アンデッドドラゴンを包むように骸でくるんでいく。
 途中、乾燥しきっていない内臓が飛び散ったり悲惨なことになっているが、やめる様子もない。
 それは段々と大きな竜の形を成していく。
 まるで、城のような大きさである。
 見上げれば、太陽が隠れるほどに。
 
 その間、邪魔をさせまいと残った腐敗龍アンデッドドラゴン達が襲ってくる。

「ちっ、数が多いんだよ!」

 相手の動向を探りながらの戦闘は難しいものである。
 現に、この状況が語っている。
 出来ればすぐに終わらせたい所だが、あいつを殺してはいけない。
 何故襲って来たのかが不明だからだ。
 なので、非常に難しい任務と言える。
 
「このままだときりがないぞ……。
 やっぱり、あれを使うしかないのか」

 下には被害が出るものも無し。
 それに、骸を火葬すると思えば良いのだ。
 そう、再現するのは竜の吐息ブレス
 核に命令する。

《再現します》

 これを再現している間は、魔力を消費し続ける。
 そのため、核に使用を控えるように言われたのだ。
 しかし、ようやくぶっぱなせる!

「龍の吐息ブレス!」

 え、俺が頼んだのはワイバーンの吐息なのだが……。
 そもそも、見たこともない物を再現できるのか?
 そんな疑問は、無慈悲にも届かない。

「おっ!?」

 口元に展開されると思っていた魔方陣が、俺の前方方向に設置される。
 大きさは、俺の身長の約二倍。
 色は、真っ赤な赤色。
 神々しいまでに光を放つ。

 そして、吐息ブレスは放たれる。

――――ゴオオオオオ。

 広範囲を焼き尽くすその炎は、生身の人間が食らったら即死であろう。
 目の前に広がるのは、次々と腐敗龍アンデッドドラゴンが塵へと還る姿。
 
「おうっ……、おぇぇぇぇ」

 腐敗龍アンデッドドラゴンが燃える度、強烈な悪臭が漂う。
 数が数なので、余計に酷い。
 しかも、熱いので肌がヒリヒリする。
 あの時を思い出して…………はいけない!
 危なかった。

 そんな状態なので、直ぐにひときわデカイ骸の集合体は見えてくる。
 先程よりも固そうで、そのてっぺんには死龍王カースドラゴンが乗っていた。
 身体から魔力が減っていっているのを感じながら、吐息ブレスを消し去る。
 腐敗龍アンデッドドラゴンが三分の一以下に減ったからである。
 これ以上は刀を振るった方が効率が良い。
 
「どうでしたか?」

 大きな声を出しているわけでもないのに、死龍王カースドラゴンの声が聞こえる。
 顔は見えないが、恐らく笑っているだろう。 
 そんな気がする。

「一体何がしたい?
 それと、開拓者とは何なんだ?」

「何がしたいのかは察してもらえればとね!
 だけど、開拓者を知らないんですか?
 話になりませんよ!」 

 人が聞いてんのに、何一つ答えようとしない。
 話たくないなら、

「どうでしたか?」

 なんて聞くなよ。
 本当にめんどくさいやつだ。
 
「フフッ、華々しく散るがいいのですよ!」
 骨吹雪ボーン・ブリザード!」

 竜の腹部がぱかーっと開く。
 外見とさほど変わらないが、混ざりきれなかった竜の頭や翼が残っていた。
 その中の骨を大量に外に出し、俺に向かって鋭い矛先を整える。
 
「死になさい!」

 骨は、吹雪のように俺に向かってくる。
 当然避けようとするのだが、範囲が無駄に広いので相殺することにした。

「デカければ良いってもんじゃないぞ!」

 魔刀を造り出し、構える。
 飛んでくる、骨と骨の間に身体をねじ込むような姿勢で刀を振るう。
 当然力むことが出来ないために威力は弱まるが、それでも十分だ。
 なにせ、骨相手なのだから。
 そんな力を出してしまう方が、勿体無いほどである。

――――バラバラバラッ。
 
 骨が砕けたのは良いのだが、より細かくなって空気中を舞う。

「いい忘れましたが、その骨の欠片には、一つ一つ私の魔力が込められているんですよねぇ。
 身体に触れれば、もう二度と再生不可能になりますよ!」

 嬉しそうに手を叩き、これでもかと挑発してくる。
 世の中変わった奴もいるものだなぁと、軽く受け流すが。

 当然、触れようとなんて思わない。
 死に物狂いでかわす。  
 しかし、粒子レベルまで細かくなった骨は、完全にかわすことができない。
 その証拠に、あちこちが痒くなってきた。
 多分、チクチクと刺さっているのだろう。
 本当にうざい。
 
 魔力の消費が思ったよりも多く、用意していた物を使えるのは多分一度だけとなった。
 隣で一生懸命に腐敗龍アンデッドドラゴンを殴っている分身は、取り込んだところでさして魔力は回復しないだろう。
 
「はぁ……」

 気だるさを感じながらも、倒すことを最優先に行動する。

(この刀をベースに、吐息ブレスを再現してくれ)
 
《完了致しました。
 実行致しますか?》

(頼む)

 予想通りにいけば、素晴らしい攻撃手段が増えるはずなのだが……。
 なんか心配だ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品