無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

08話 「一難去らずにもう一難」

「何でこんな身体にぃぃぃぃ!!」

 無事、魂から再現した身体へと移し終わったが、アルヴァスには不満しかなかった。
 あの頃の栄光を、もう一度あの身体を。
 そう願って移り終わると、人間の。
 それだけなら、まだいい。
 なんと、幼児になっているではないか。
 泣けてきても仕方がない。

「まぁ、最適化された結果だし仕方がないだろう。
 それより、そこの精霊さんと話をつけてくれ。
 助けられた恩は、顔に表れぬ。
 というからな」

 構っていても面倒なので、そうそうに話を切り替える。
 ことわざっぽい事を言ったが、適当に今浮かんできたことを話しただけである。
 説得力が出てくるから。
 しかし、自然とアルヴァスの顔から目を背ける。
 
 なぜなら、アインは完全な悪人にはなりきることが出来ないからである。
 どこまでお人好しなのかと。

「分かったのである……」

 渋々アインから離れ、エリアーヌへと向かうアルヴァス。
 一歩一歩が小さいため、多く足を地面につける。
 えっさえっさと、その姿からは古代龍だということを想像できない。

「なぁ、エリアーヌ。
 我だが覚えておるか?」

「誰であるんですの?
 私は、貴方と会った記憶など御座いませんよ?」

「な、何!?
 この我が分からんというのか?
 アルヴァスだぞ!
 古代龍アルヴァス」

 胸を張って、自身の存在を誇張するアルヴァス。
 本人には申し訳ないが、その姿は可愛くしか見えない。

 なぜなら、小さな身体を精一杯伸ばし、威張ってるからだ。
 思わず応援したくもなる。
 アルヴァスちゃん頑張ってーー!
 なんて感じに。

「アルヴァス様は、そんなチビではないのです。
 もっと大きくて、威厳があるのです!」

 対するエリアーヌは、顔を真っ赤にして怒っている。
 慕っているアルヴァスを、馬鹿にされたと思っているのだろう。
 逆に馬鹿にしていることには気付いていないようだが。
 何だか、二人を見るのは面白い。

「チビ…………だと!?
 貴様、我に助けてもらった恩を忘れたのか?
 この精霊ごときがぁぁ!」

 アルヴァスがとうとうキレだした。
 それにしても、精霊ごときとは。
 精霊ってスゴいんじゃないの?
 知らないけど。

精霊エレメンタルとは、自然界の魔力が自我を持って固定化され、魂を得た妖精フェアリーの上位種です。
 基本的には、妖精フェアリーが長い年月を経て魔力を蓄積して魂を昇華させた者です。
 世界に干渉可能な精神体を伴った肉体、特異体ユニークボディを持つことが特長ですね。
 その中でも彼女は、風精霊シルフのようです。

 補足説明を致しますが、精神体と肉体は異なるものです。
 精神体は、物体には干渉できません。
 肉体という身体を得て初めて、その行動で世界に干渉できるのです。
 肉体は、干渉は可能ですが、行動をするのと同時に世界に干渉を受けます》

(聞いてないんだけど……。 
 取り合えずありがとな)
 
 感覚共有というのは、考えていることが筒抜けになってしまうらしい。
 気を付けなければ。

「精霊ごとき!?
 何て事を言うんですの?
 しかもアルヴァス様だと嘘をついてまで。 
 さては、貴方はスパイですね!」

 勘違いがさらに深まり、エリアーヌの怒りも増えていく。
 当然、アルヴァスもだが。

「もう我慢ならんぞ!
 我と実力で勝負だ!」

 アルヴァスは、小さなその身体から翼を出現させた。
 翼と言っても、柔らかいあれではない。
 コウモリのような膜のついた翼だ。

 ここで龍らしさをアピールするのだろうか?
 龍と言われれば、納得できなくもないが……。
 とにかく、幼いのである。

「ええ、望むところですわ!
 もう後悔しても遅いのですからね!」

 エリアーヌのポワワンとしたボブショートが、激しい怒りによる風の乱れによって揺れる。
 それは、海月のようだ。
 ホワーン。
 ホワワーン。

 彼女は、自身の身体に風を纏って飛翔する。
 風を操る能力なのだろうか?
 核に聞いてみる。

《彼女の能力は、『大空之女王ザリエル』です。
 主な能力は、

・大空支配
 ……全ての風魔法使用可。
   地面に身体が接していない者の、自由意思を奪う。
   (複数適用は可能だが、自分より高位の魂を持つ者には適用不可)
   空中にいる場合、全ての基本能力値が向上。
 
・女王足るもの  
 ……威圧、言霊の使用可。
   (言霊においては、相手も能力を認識していなければならない)
   絶対服従を使用可。

   "絶対服従"
   ……対象は、空中にいる妖精(フェアリー)か、下位の精霊(エレメンタル)のみ。
     最大百体まで可。
     (魔力容量の上昇に伴って、上限は変化)

――統合能力――

・心之瞳
 ……相手の思考を読み取る。
   また、対象の過去を読み取ることが可。
   (さかのぼるほど、魔力消費量上昇)
 
 です。
 統合能力は、アルヴァス様に名前をもらったからのようです》

(じゃあ、俺はなんで統合されなかったんだ?)

《理解不能です。
 何らかの機構システムが働いたのでしょう》

(訳分かんない……)

 アインの能力の為だけの、機構システムがあるとは思えない。
 しかし、核がこう言うのだ。
 謎である。

 そうこうしている間にも、二人の決闘が始まろうとしていた。
 時間が無いというのに。
 
「早く終わらせてくれよな……。
 そうだ、セルケイ!
 その腰の剣を貸してもらえないか?」

 時間を有効活用するため、あることを思い付く。
 セルケイは声を聞いてから早足で近づき、腰の長剣を差し出した。

「どうぞ!
 粗末なものですが、……」

「ありがとな」

 セルケイはまだ何かを話しているが、そんなこと知るわけない。
 話を、無理矢理に中断する。
 興味の赴くままに剣を受け取ると、様々なことを思案し始める。

(うんと……。
 まずは、万物創成(仮)を使用っと)

《対象は、剣でよろしいでしょうか?》

 思ったよりも返答が早い。
 これならすぐに済みそうだ。

(そうだが、ちょっと工夫したくてな。
 まず材質は、俺の翼の謎物質で。
 柄の部分は、ルシオの羽を使用してくれ。
 余りに重いと扱いずらいからな。
 あ、強度はギリギリまで上げてくれよ!
 よろしく)

 かなり無茶な要求を押し付ける。
 普通なら音をあげても仕方がないが、アインの能力は違う。
 仮にでも、万物創成なのだ。
 その程度の再現は容易だった。

《はい、再現完了しました。
 今すぐ実行しますか?》

(勿論だ!)

 ふらっと、軽い目眩がアインを襲う。
 もう慣れて来たが、再現する際にはどっと疲れるのだ。
 正体は分からないが、恐らく魔力の使用によってだと思う。
 
 そして、剣の方はというと……。

(うむ、要求通りだな!)

 刃渡りは一メートルほど。
 少しだけ切断面とは反対側に反り返っており、黒光りする刀身には、有無を言わせぬ殺気が宿る。
 剣というよりは、かなり刀身が薄い。
 そのため、別の物のようだがとやかく言うまい。
 見るだけで、魂を吸われてしまいそうなるほど美しいのだから。

カタナというそうです》

(ああ、そうなのか)

 ふむ、変な名前である。
 ぶったぎる!
 というよりスパッと切れそうなので、力がそれほど無いアインに非常に合っていると言える。
 これも、最適化の効果なのだろう。
 
(で、付与効果エンチャントは何か付いてるか?)

 そう、これは彼の一つの楽しみになっていた。
 再現した物に、予想外の何かが宿る。
 これほどワクワクすることは、早々あるまい。

《はい、『魂喰者ソウルイーター』とあります。
 魂を喰らえば、成長するようですね》

(おっわ……。
 こいつ、魂を喰うのか……)

 確かにそんな雰囲気がするけど、流石にやり過ぎな感じもする。
 成長する刀。
 魔刀とでも言うべきかな。

 そして、時間潰しもここまでだ。
 流石にこれ以上は多くの命に関わるからな。

「はい、しゅうりょおおおお!」

 腰から上に向かって、力一杯刀を振り上げる。
 使い方が分からないので、多少変でも仕方があるまい。
 翼から風を出す要領で、斬撃を飛ばす。

――――シャァァッ。

 勢いよく斬撃は伸びていき、二人が争っている間を縫うように飛んでいった。
 空を切り裂く音が、鼓膜に残る。

 案外、この音は気持ちいい。
 なんか、はまってしまいそうだ。
 もう一度二人に向かって刀を振ろうとすると、二人の驚きと、恐怖に満ちた顔が目に入った。
 
「「なぁぁぁぁ!」」

 へなへなと、二人仲良く落下していく。
 風で舞う、鳥の羽のように。
 
「やべっ!」

 怪我はしないだろうが、一応二人を回収しに走る。

「わ、わたしも参りますぞ!」

 セルケイも同伴してくれるようだ。
 人手が多いと、大変助かる。

 そこまで二人との距離は離れていなかったので、すぐに向かうことが出来た。
 

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