異世界の名のもとに!!

クロル

第8話 演奏者は一人、孤独に堪え忍ぶ

「ヤベーよ、こいつぁヤベーよ!」
 語彙力のない言葉が聞こえる。
まぁボクが喋ったんだけどね。
 ……ところで、ボクがこんなに驚いているのは他でもない、このギルドの建物!
お城のようにも見える、きらびやかな装飾の数々。
因みにこのギルドの建物、酒場はないとか。そもそも受付しかない、らしい。
と、まぁ 感想などはこの辺にして入ろうか。




「おー、これはすごい!」
「お兄様どうなされました? 驚く事ってあります?」
 あー、そうか。この世界の住人だ、こんなのは普通なのか。
 ……だけど、この胸の高鳴りを押さえられない。
いや落ち着け、まずは落ち着こう。
「お兄ちゃん! 早く受付に行きましょう!」
 美鈴も落ち着きが無いみたい。かくいうボクも緊張と興奮が治まらない。
「二人とも ギルドって初めてなんですか? 目がキラキラしています」
「あ、あぁ まぁそんなところかな?」
「珍しいですね」
「そ、そうなのか」
 ボク等は受付の人に言った。
「あの、ギルドの設立を申し込みたいのですが」
「はい。ではまず、この書類にサインを御願いします」
 ボクは書類に目をやった。そこには、ズラーっと注意事項など書かれていた。
ボクはギルドの設立をする方だから、個々のルールは後で作っていけばいいかな。
 ギルド名とメンバーの名前を書き、受付の人に渡した。
「それでは、ここに血で捺印を」
 血………で? え… マジっすか。クソォ、ドウシヨー
「どうしたんですか、お兄ちゃん?」
「ん? あ、いや その えーと」
「あーなるほど、わかりました」
 嫌な予感がする。
「では、手を出して下さい♪」
「遠慮しておくよ、うん」
「さぁさぁ、早く手を出して下さい♪」
 どうしてノリノリなんだよ…。
 ……いや、仕方ない。まず刃物持ってないし。
 ボクは美鈴に手を出した。
「やっとその気になりましたか♪」
 うぅ。……!?
美鈴はボクの手を取り人差し指を………口に入れた。
「な、何してるの美鈴さん?」
 思わず変な声を出してしまった。
瞬間、痛みが走った。
「痛っ!」
「はい、どうぞ お兄ちゃん♪」
 人差し指から流れ出た血で血判した。
ふぅ、一件落着だが、何故こんなことに…。
「美鈴いったい何を…」
「噛んだだけですよ お兄ちゃん♪」
「そういや、美鈴って牙あるんだっけ? それでか」
「よく覚えていましたね」
「まぁ、兄だからな!」
「そうですね♪」
 …自分で言ってなんだが、説得力にかけるよなぁ。
「設立完了しました。それでは、あちらの検査を行ってください」
 よし、ここから本番だ。
「すみません、検査の方を…」
「おう、じゃ この水晶に手を置きな」
 水晶は静かに輝き始めた。…そして輝きは消えた。
検査の人が言った。
「結果が出たぞ、……結果は雑魚だな。…まぁ気にすんな」
 ……ざ、雑魚 ですか。まぁ、そりゃそうだよな。もと引き籠りで、強化してもらったとはいえ、そこまで強くはならないよな。……じゃあ、あのとき体が動いたのはいったいなんなんだろうか。
「「お兄ちゃん(様)?」」
「あぁ 悪い。次どうぞ」
 美鈴は手を出した
「それでは、私は…」
「おぉ! あんた、質が良いぞ! 良かったな!」
 流石だ我が妹よ。
「良かったね、美鈴」
「お兄ちゃん…」
 気にするなとボクは言っている間にクルが検査を済ませた。
「おぉ、あんたもいい質してんじゃねーか!」
 何故だろう、涙が。
「ほんじゃ検査終了だな。クエストがしたいならあっちに行きな、お疲れさん」
「お兄様、ごめんなさい」
「何故謝るんだ? あれ、ボクなんか悪いことしちゃったか」
「いえ、お兄様だけ、あのように呼ばれるとは…」
 えー、もしかして ボクって天使と出会っちゃいました?
……とまぁ、クルは優しいんだな。
「気にしないでいいよ。慣れてる」
「お兄様…」
「お兄ちゃん、クエスト行きましょ」
「そうだな、何する?」
 ボク等は会話しながら、クエストボードまで歩いていった。
存外、やるクエストは早く決まった。
討伐や採取などのクエストではなく、教会でオルガンを弾いて欲しいとの依頼だ。
「お兄ちゃんにもってこいの依頼だね」
「お兄様、オルガン弾けるんですね! よりいっそう、憧れます!」
「あの、ハードル上げないで欲しいです…」
 弾けると言っても多少だからな。






 依頼を受けた教会に来た。
「ほぇー、これまた大きいなぁ」
 そう言って、教会の扉をノックした。
「誰かいませんか~?」
 返事がない。…依頼受けた身だし、入って問題……無いよね……?
「…ほぉー、パイプオルガンじゃないっすか!」
「お兄ちゃんが弾きたがってた楽器のひとつですね!」
 そう、ボクはパイプオルガンを弾きたいなぁって ずっと思ってた。が、こんな形で弾けるとは。
「おー、これはこれは。失礼した。依頼の方々ですな?」
 神父らしき人がやって来て言った。
「はい、そうです」
「一つ聞きたいのですが いいですか?」
 美鈴は聞いた。
「何かな?」
「何故、このような依頼を?」
 確かに。
「長年、この教会は私一人で担っていてな。ある時掃除をしていたのだが、このオルガンの音色を私は聴いたことが無いなと、ふと思ったのだ。残念ながら私には、オルガンを奏でる技量など持ち合わせてはいないもので」
 なるほど。って、駄目じゃん。これボクがやっちゃダメなやつでしょ。
そうだ美鈴に弾いて貰おう。美鈴の方が技量上だし。
「じゃあ、美鈴がんばr…痛いんですけど 美鈴さん?」
 地味に足を踏んでくる。
「お兄ちゃんがやらなくてどうするのですか?」
「えぇ、この状況だよ? ボクみたいな生半可なやつじゃ…」
「お兄ちゃんなら、大丈夫です。私にはお兄ちゃんの方が上手だと思いますし」
「はぁ」
 ボクはため息をして、椅子に座った。
「では、弾きます。曲名は『フーガ ト短調』」
 これはバッハの曲だったかな、確か。
足でも弾かないといけないから難しいが、多少の練習はしてある。
「おぉ」
 そんな声が聞こえた。そんなにすごいものなのか。自分で聴く限りぎこちないが。


 そして弾き終えた。
「お見事」
「流石ですね、お兄ちゃん」
 ボクは安堵のため息をした。
「ありがとう、これで安らかに眠れる」
「「えっ!?」」
 ボクと美鈴は驚きの声をあげた。
「私はさ迷える魂、行き場もなく ここにずっと居たが。幽霊故な、寝ることすら出来なかったのだ。しかし、このオルガンの音色を聴いたことによって、私は安堵の眠りにつけることだろう。すまなかった、黙っていたこと 謝罪する。」
 驚きはしたが、恐れることはなかった。何しろ転生を経験してるんだ。このぐらいじゃ、驚かない。
「楽しめてもらえたようで何よりです」
「では、さようならの前に これを渡しておこう」
 アイテムを2つ貰った。一つは鍵、恐らくこの教会のだろう。もう一つは、指輪。
「これは?」
「鍵は言わずともわかるだろう。その指輪は、自分に害あるものすべて消し去るという指輪だ」
 え、なにそれ強い。
「まぁ、御守りとして持っていくといい」
「では、私は逝くとしよう、ではな」


「…お兄ちゃん、幽霊と会話出来るなんてすごいです」
「んー、いろいろあったからな。こんなんじゃ驚かないよ」
 じゃあ、クエスト達成したし、報告に行くとするか。…なんか、すごい疲れた。


 教会を出ようとすると、手を掴まれた。
クルが頬を赤くして、恥じらいながら言った。
「お兄様! 私と結婚して下さい!!」
「は、はい?」
「へへ、お返事が早いですね お兄様♪」
「いや違うよ!? 疑問系だったでしょ?」
 なにこれ。いったいどうしたら、そんな言葉が出るんだ!?
「お兄ちゃんを取る気ですか!!」
 み、美鈴が怖い。
「問題ありますか?」
「あっります、あるに決まってます!」
「まぁまぁ、仲良く仲良く」
 ここは落ち着かせないと、また長引く。
「じゃあ、なんとか言ってやってください。お兄ちゃん!」
 おかれている状況の大半を理解していないが、ここは言っておこう。
「…クル、悪いが それは無理な話だ」
「そ、そんなぁ。どうしてですか、お兄様…」
 うーん、返答どうしようか。困ったな。
「お兄ちゃんは私のものですから、断られるのは当然の結果です」
 いや、美鈴さんや。ボクは、あんさんのものではないぞ。


 ボクは後ろを振り向きクエスト受付に向かおうとした。何も答えが出ないから、ボクはなにも出来ないから。……ボクは逃げようとした。
「どうしてですか、お兄様! 返事して下さい!!」


 ……あぁそうだ思い出した。ボクは一人だ。仲間は居れど独りなんだ。




「…ごめんね、ボクは独りなんだ」




「意味がわかりません! 私と美鈴さんが居るじゃないですか!」
 クルの言うことは正しいな。ってか、やっぱ仲良いじゃんキミ達。
「はは。それもそうだ、正論だ。…まぁともかく、それは諦めてね」




 ボク等はクエスト受付で報告を済ませ宿に帰るまで、クルは話すことはなかった。





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