的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

問題を教えよう



「さて、ある程度情報が集まった」

「…………」

「おいおい、そんな目を向けるなよ。俺はお前の国のために貢献してやっているんだ」

「……よく言うな、おい」

 ちなみに奴隷は全員俺の屋敷に送還した。
 そこでまずは身形を整え、それからそれぞれが求める職場で働くことになるだろう。

 そしてその一部は、あのメイドの下で鍛えられることに……ああ、怖い恐い。

「お前に必要なのは情報だろう? だから俺が代わりに集めて来てやった。ほら、咽び泣いて……分かった分かった、さっさと教えてやるからさ」

「チッ、そのまま続けるなら合法的に殴れたのに……」

「そんな簡単に殴られたくはないからな」

 というか、その必要性が感じられないし。
 第二王女の不満そうな顔は無視して、さっさと情報を伝えておく。

「ここに来た俺のクラスメイトは、アキラというヤツだ。まあ……詳しいことはよく覚えていないが、職業は商業系だな」

「……同じ学び舎で勉学を共にしていて、どうして覚えてないんだよ」

「どうでもいいからな」

「どうでもいい!?」

 実際、俺の学校生活を楽にするために必要なヤツの名前しか覚えていないぐらいだ。
 この世界でもヒ……ヒルシ君しか、まだ覚えたクラスメイトの名前は増えていない。

「まあ、それはいいとして。そのアキラとかいうクラスメイトは、俺たちの世界の技術を余すことなく教えているんだ」

「……それの何が悪いんだ?」

「おいおい、ゴブリンに大魔法の使い方を教えて何になるんだ?」

「つまり、意味の無い情報ってことか?」

 そんなたとえがあるんだとか。
 なまじ人型の魔物だからこそ、スライムではなくゴブリンが使われている……なんて考察は良いとして、答えないとな。

「そうでもないさ。ただ、お前たちには早すぎたり不要な技術が多いんだ。魔法があるからな、こっちの世界には。だから混乱するし問題が起きる」

「問題ってなんだよ?」

「そうだな……いきなり刀とか銃を作れって言われて、どういう物かって口で言われるだけで作れるか? しかも、相手は偉い権利を持っているから文句は言えない」

「……最悪じゃねぇか」

 なお、俺は刀の作成に成功している。
 もちろんモドキではあるが、催眠で過去の記憶から作り方自体は完璧に覚えているので鍛冶師が挑戦自体は行っているぞ。

「まあ、今回の問題はヴァ……あの国への流出問題だからそれはどうでもいい。そっちはこの都市に裏切り者がいて、ヴァ……例の国へ貢献しているだけだ」

「もう分かったのか!?」

「……まあ、そうだな」

 簡単に情報網の話をすると、あのメイドに知られてしまいそうだからな。
 魔法で抑え込んでも解除されそうだし、最初から語らないことにしておく。

「要するにここは実験場なんだよ。実際に作られせ買わせて、それがどういう利益を生むのか調べているんだ。俺の世界の技術の果ては、最悪のものばかりだから自分の国じゃ試せなかったんだろう」

「た、たとえばどういうものなんだよ?」

「爆風と熱風と特殊な毒を解き放って、都市一つを再生不可能な状態までズタボロに破壊する……とかだな」

「お前の国……魔法ねぇんだよな?」

 たしかに魔法のような話だよな。
 だけどそれこそが史実であり現実、過去の日本人が味わった悲劇であり惨劇だ。

 あれ云々の話を細かくする気は無いが、改めてそれを喰らう可能性があるこの世界で、その恐怖について考えさせられたよ。

「これは俺の国じゃなくて世界の話だ。魔法は無いが、その分科学が発達していて……科学の説明が面倒だな。要するに、魔力を使わない法則に遵って兵器を造ったんだよ」

 面倒だな、本当に。
 どれだけ平和を目的に作られた品であろうと、結局は暴力に転じてしまう。

 まあつまり……なんだ。
 それこそが人間で、それ以外の生き方ができないのが人間なんだろうな。

「これもどうでもいい話だな。今言ったのは最悪の兵器だが、たぶんこっちの世界で造るのは無理だろう。できたとしても、それを再現した魔法を造るぐらいだな」

「それも充分やべぇよ」

「そうだな……魔法を籠めたアイテムをその兵器として使えるかな? 実際、もうそういう品が売られ始めているらしいぞ」

「……ヴァ―プル」

 何を思っているのか、拳を強く握り締める第二王女。

 あくまでここの商人と予め聞いていた情報からでしかないので、まだ表にも裏にも出ていない兵器はもっとあるだろう。

「確認しよう。俺たちの目的はなんだ?」

「外交としてここに来て、ヴァープルがこの都市で何をしようとしているかを調査する」

「あとはどうでもいいだろう。だから俺は自分が欲しかった奴隷を買ったり、欲しかった素材を集めたりしているわけだ」

「テメェ……」

 さすがにこのやり取りは何回もやっているので、怒ることなく諦めの域に達している。
 なので俺も、さっさと本題を話す。

「原因である俺のクラスメイトは、どうせ良いことをしているんだと思い込んでいる……というか、そう信じさせられているからどうしようもない。だから叩くなら、ヴァ……その国に情報を回しているヤツだ」

「なら、そいつを止めれば!」

「まあ、その場しのぎにはなるだろうな」

 対策を伝えなければ、言葉で語りかけるような手段を取りそうだな。

 だがそれで止まるほど、洗脳を是とする国は甘くはない……それ以上の悪意を以って潰すだけだ。


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