的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
買い物をしよう
非合法市。
その名が示す通り、非合法的に行われている市場のことだ。
オーニキには各国が禁制品としている品が集まっており、それらをこの都市限定で合法的に手に入れることができる。
もちろん、それをそのままの状態で持ち帰れば逮捕……なんてこともあるんだとか。
「…………」
そんな実に愉快な市は、時間や日にちに合わせて異なる場所で開かれる。
心が真面目なウザい奴らが取り締まろうとするので、売る側も売る側でしっかりと対策しているのだ。
第二王女は俺が見つけだした本日の非合法市の会場を、とても不機嫌そうな表情で歩いていく。
もともとそういう演技をしろとは言っていたが、そうする必要は無かったようだ。
「お客さん、コイツなんてどうですかい? その名も『禍津の腕輪』! 能力値が何十倍にも跳ね上がる代わりに、所有者に状態異常と不幸をもたらすよ」
「だ、そうです。お嬢様、どうしますか?」
「…………」
「分かりました。店主、それをください」
わがままなお嬢様の代わりに、雑務を行う従者のように振る舞う。
お金を入れておいた袋から数枚の金貨を取り出すと、それを店主に渡す。
「毎度あり。お兄さんも苦労するねぇ」
「いえ、お嬢様は優しいお方ですので」
「そうかい。まあ、金が有ったらいつでも来てくれや」
「ええ、お世話になります」
腕輪を空間魔法で仕舞い、店から離れる。
すると第二王女はこそこそと、俺の耳元に小さな声で苦情を告げてきた。
「おい、どういうことだよ……」
「何がだ? 来たばっかりだろ」
「なんでオレらが、こんな場所で買い物をしているんだ!」
器用に怒鳴ってくることに少々感心しながら、その質問に答えてやる。
「非合法、とは言うがそれも扱い次第だ。正しい使い方をすれば万病に効く薬になる素材だってあるし、上手く利用すれば戦力強化になる呪いの装備だってある。清濁呑めないのは王族として失格だと思うぞ」
「んなっ!?」
「あーあ、第一と第三王女だったら気にしないだろうになー」
「う、ぐぐぐぅ……」
こうなることはなんとなく分かっていたので、途中から外に声が漏れないように結界を構築してある。
唸り声を上げる第二王女に、誰も変な者を見たという視線は向けてこない。
「ほら、行きますよお嬢様──まだまだ買うべきものがありますので」
「…………」
言われた通り、お嬢様と言われたら黙っていてくれるのは非常にありがたい。
無遠慮に発言をし、そこから俺の作戦を誰かにバラされては困るのだ。
──こういうところは、王女の中で一番扱いが楽だから役に立つ。
辿り着いたのは奴隷を売る商店。
さすがに露店では売れない品なので、普段は隠している店だが……この日だけ、表に暗号とはいえ看板を出してくれるのだ。
「おや、いらっしゃいませ」
「お嬢様が奴隷を欲しています、貴重なスキルを持つ奴隷をすべて見せください」
「…………」
「分かりました。では、こちらへ」
案内された部屋の中には、ある程度清潔感がある奴隷たちが大人しく待機している。
鑑定が使えない者のために、親切に簡易的にステータスを記した札を持たせているのがなんとも言えない商品感を醸し出す。
「…………ッ!」
おっと、第二王女が怒りそうだ。
精神魔法で冷静になってもらってから、怒りに震えていた手に触れて宥める。
……まあ、ちょうどいいし要求するのに使わせてもらおう。
「お嬢様が怒っております。すべて、とお伝えした意味が分かっておいででしょうか?」
「も、もちろんでございます。こ、この後にご紹介しようと思ったのです」
「…………」
「そうですか、ならばよかったです」
俺自身、鑑定スキルに加えて解析スキルも保持者からコピーしてあるので詳しい情報を暴くことができる。
たしかにステータスのレベルや能力値は正しいのだが、スキルに関して一部隠している場合などがあった。
まあ、スキルは勝手に条件を満たせば生えてくるようなものだ、追及されても書かれた時から変化したと言えば誤魔化せる。
必要最低限な情報──何用の奴隷かが分かれば充分だしな。
「お嬢様、お気に召した奴隷はいますか?」
「…………」
「そうですか。奴隷商様、では次の場所へ案内してください」
「わ、分かりました」
ちなみに、部屋に居た奴隷の質が低いかと訊かれればそうではない。
ただ単に、つまらないありふれた奴隷というだけだ。
見た目が麗しいとか、レベルが高いなんてどうでもいいことでしかない。
俺のお眼鏡に叶う者は、いつだって俺の好奇心をくすぐる者だけだ。
「こ、こちらとなります」
「……! …………」
「なるほど、これはこれは」
「まだ奴隷としての躾が行き届いていませんので、もしかしたらお手数をかけてしまうかもしれません。しかし、そういったことに関して私どもはいっさいの責任を取りかねますことを予めご容赦ください」
普通の者にとっては、その注意も必要となるだろう。
前にこれを言っていた奴隷商、奴隷を使って買おうとしている奴を殺そうとしてたし。
まあ、いずれにせよ俺には関係ない──素晴らしい魔法がこの世界にはあるのだから。
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