的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

掃除をしよう



 魔族からの目もだいぶマシになった。
 力こそが尊ぶべきモノと考えられる脳筋国家ともなれば、その国民たちもまた単純な奴らが多いわけだ。

「おめでとう、イム。これで立派な外交官として、魔族にも認められたよ。そして、これからは人類連合の敵決定だ」

「人類連合?」

「ヴァ―プルが提案した、勇者を旗頭とした魔王討伐同盟だよ。勇者の同郷者が裏切ってこっちと内通しているって……面白いよね」

「ヴァ―プルってどこの国だ?」

 え゛っ? と驚く魔王だが……本当に心当たりがないんだよな。
 すぐに召喚をした国だと説明されるが、覚えてなかったのだから仕方ないだろう。

「まあ、そのヴァ―……パープルのことはどうでもいい。それより、例の話は?」

「そっちは了解。すぐに書状でも書いて、イムに持たせるよ……それとも、使いでも用意した方がイイかな?」

「いちいち面倒だから要らねぇ。そんなの用意するぐらいなら、俺が直接繋いでやるよ」

「それも良さそうだけど、今は止めておこうかな。もう少し、準備した方がいいからね」

 文字通り、悪魔的な頭脳を手に入れている魔王の考えなんて俺には分からない。
 思考停止、と言われても構わないが……本当にどうでもいいんだよ。

「帰るときに書状は渡す。だから、イムには少しの間ここに居てもらうよ」

「──ハッ? 嫌に決まってるだろ。それならこっちにも条件がある」

「条件? まあ、言ってみてよ」

 俺がそう言うのは分かっていたのか、間を開けることなくそう言ってくる。

 そう言ってくれることはこちらもなんとなく理解していたので、すぐに自分の望みを伝えておく。

「大使館でも造って、そこを俺専用の住処として提供しろ。そこは外交特権……たしか、法の枠外だっけ? にしておくんだな」

「…………ああ、そういうことね。それぐらいなら、構わない。イムが少しでもこの街に居たいと思えるなら、軽い条件だよ」

 外交特権とは要するに、勝手に侵入することを認めなくする素晴らしいモノだ。

 捕まえられないし、助けを求めれば保護してくれる……たとえあっちの国を追い出されても安心だな。

「けど、犯罪に関しては……」

「そっちはこっちルールで構わない。ただ、日常生活で俺を束縛するな。楽ができるように貰うモノを弄るが、それが法に引っかかっても無視してほしいってだけだ」

「ふーん……建物はすぐに用意できるよ。ただ、そこが嫌なら少し時間が掛かる」

「曰く付きってことか。人が死んだとか、悪霊が居るっていうぐらいならそれでもいい」

 それって、この世界だとプラスにしかならないと思うようになった。
 えっ、なんでかって? それは──

  ◆   □   ◆   □   ◆

 案内されたそこは、問題物件だ。
 そのような表現ができないような、禍々しさが感じられてしまった。

「本物って、あるんだな」

 地球でも怪談として挙げられ、芸能人が調査するような番組がいくつもやっている。

 そういうヤツを演出する施設もあったし、ほとんど淘汰されていたとも言える存在が悪霊といったスピリチュアルな存在だ。

 だが、はっきりと分かった……いや、正しくは分かってしまった。
 死霊系のスキルが見せるのは、怨念渦巻く恐怖の館。

 ──証明してしまったよ、そういうモノは実在するんだって。

「さて、さっさと弱体化させますか」

 ここで便利な神聖魔法と空間魔法を合わせて使う、神聖空間という安直な魔法スキル。
 全力全開でやるとさすがにバレるので、俺の周囲に展開して屋敷に近づいていく。

「おっと……『防音』」

 聴覚を遮断する暗示を施し、怨霊たちが呻く声をスルーできるようにしておく。
 いちいち喚く奴らにキレて、力を解放するなんてことはしたくないからな。

「レッツ探索だー」

 さっき挙げたが、テレビでこういう番組を見たことがあるのでなんとなく言ってみた。

 死霊魔法は死霊を感知することもできるので、探すというより追うと表現する方が正しいよな。



 見つけだしては、空間に取り込んでいく。
 弱らせた悪霊は再利用する価値を見出しているので、成仏はさせずにキープだ。

 また、悪霊でないのならば成仏できるように今は放置しておく。
 異世界転移がある世の中だ、転生という概念もあるに違いない。

 善行を重ねておけば、俺も報われるかもしれないからな……なんて適当な理由は別にしても、善いことをしておけばイイことが返ってくると思っているんだよ。

「一階は探索完了。地下と二階、さてどちらから始めようか……」

 当然というか、王道というか悪霊の数は地下の方が多かった。
 そのため、悩んだのは一瞬であって二階を選択することになる。



 それなりに広い屋敷だが、迷宮のように空間が拡張されているわけでもないので歩けばいつかゴールに辿り着く。

 悪霊が居なくなったのを確認してから、地下へ足を踏み入れる。

「……オゥ」

 だが、さすがに予想していなかった。
 魔王曰く、この屋敷はだいぶ前から生きていた魔族が持っていた屋敷なんだとか。

 年季が入っている分、住民も多いというわけだな……全然笑えないけど。
 視界を埋め尽くす霊体の数々を拝み、そんなことを思いだした。


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