的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

空間を延ばそう



「……どの国も、頑張ってるんだな」

 目覚めた俺は、朝特有の停止した思考でそう呟く。
 アテラの持つ能力、情報を文字ではなく一種の映像として保存できるというもの。

 それを利用して、錬金スキルで用意した紙に情報を纏めてもらった。
 何度か試しているが、最近はこの方法を特に愛用している。

 使える駒はそう多くないので、情報交換にも苦労していたのだ。

 そこで見つけた便利な能力の持ち主。
 すぐにそれを転用するための方法を探し、即座に使用する。

 クラスメイトの便利スキルを駆使すれば、それぐらい容易いことだった。
 駒たちに憶えさせた暗示術式、アテラをメインサーバーとして行われる情報交換。

 難しいことはどうでもいいので分からないのだが、要は一々視界を共有しなくても知りたいことが知れるようになったんだよ。

「気になったのは、人造なんたらかな? 造れるならその技術、クローンってことになるしな。つまり、食材に困らなくなるってことだ。うん、人間のクローンはロクなことにならないからパスだけど」

 というより、そこまでやると面倒な奴らに目を付けられそうだ。
 クローン技術は程々に、精々遺伝子DNA改変ぐらいが限界かな?

「でも、【聖女】は欲しくて【勇者】とかは要らないのか。あくまで聖人が目当て。そして改造計画……うん、面白そうだ。聖人に必要な因子ファクターがあるのかもな。二つの意味で」

 着替えを瞬間着装スキルで済ませ、寝起きの鈍い思考を精神魔法でスッキリさせた。
 魔法は実に便利だ、こういったかったるい動作をすべて一瞬で済ませてくれる。

「とりあえず、調査は進めるけど今はギルドで金稼ぎだな。細かいことはあそこの国担当の…………少女に任せておこう」

 名前も脳に書き込んだ方が良いのかな?
 やればできそうだが、脳に悪影響がありそうだから止めておこう。

 そこまでのリスクを背負ってまで人の名を憶える気もないし。
 本当に必要な名前なら、憶えている。
 必要性を感じないから覚えていないだけ。

 今日はそんなことを考えて、一日が始まっていった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 やることがないというのも、楽なようで退屈なのだろう。
 地球に居た頃は、いちおうでも学生としての義務をまっとうしていた。

 すると平日は一日の大半を学生としての生活に奪われ、休日という平日に比べたら少ない時間をどう有効に使うかで悩んだ。

 でも、それが良かったのかもな。
 限られた時間だからこそ、それだけ大切に扱えたのだろう。

「さて、今日も働きますか」

 ダンジョンではなく、国の領地内。
 依頼内容は魔物の討伐であった。

「『検索』……うん、いるな」

 調べた周辺の情報を仮想のボードとして表示する──そこまでのスキルや魔法の発動を一つに纏めた暗示ワードを唱える。

 依頼で何度もお世話になった機能だが、可視化しておくと頭の中で情報すべてを処理しなくて良いから楽なんだよ。

「これとこれとこれ、を狙って──射る」

 矢を番えた弓を、適当に構えて放つ。
 三本同時に射った矢は、必中スキルの効果もあってどこかへ飛んでいく。

 マーキングもしっかりとできている、速度の方も速度上昇効果を付与してあるので問題ない。

「……よし、ターゲット消失ロスト

 ボード上の魔物が色を失う。
 それは死亡を意味しており、矢の命中を暗示していた。

「ついでに回収機能まであれば、なおのこと良かったんだが……それは無いんだよなー」

 魔力がもったいないので、歩いて殺した魔物の場所まで移動する。
 本来なら空間魔法で移動するが、何も考えずに歩くのも乙だ。
 
「陽光を浴びて、散歩する……こんな当たり前のこともできなくなったんだよな」

 暗示を解けば、鼻腔からは血の匂いが感じ取れる。
 辿り着いた一匹目の魔物──熊型のヤツは頭に矢が刺さった状態で死んでいた。

 散歩した先で猫や鳥が死んでいる、そんなことも極稀にあったと言えばあったな。
 だが、熊と会うのは……さすがに一度もしたことの無い経験である。

「『回収』。視界に捉えれば解体できるスキルと、手をかざせば仕舞えるスキル。仕舞う方のスキルをどうにかできれば……たぶん、できるか?」

 そうして使用したのは、解体の派生スキルである──(指定解体)だ。
 視界内にある死骸を、魔力に応じて自動的に解体してくれるスキルである。

 ただし、(自動解体)という派生スキルが無ければ使えないという面倒な設定もあった。

 DEXに応じて、解体した際に手に入る素材の品質が変わる……補正をしてからやらないと下がるんだよ。

「空間は俺の手から数センチの所でしか生まれない。なら、俺の認識を弄ればどこでも空間を生みだすのも可能か?」

 イメージしたのは金ぴかの英雄王だ。
 あれは本気になれば360°自分を中心とする空間を展開する。

 関係ないのだが、魔法なんだから何でも有りだというところを見せてもらいたい。

「でも、あれは空間が繋がっているのか。それなら空間を細長く延ばせば…………あっ、意外とイケた」

 真円状の穴は、俺の意思と共に形を変えていった。

 するすると糸を解くようなイメージをしていくと──二匹目の魔物が居る場所まで空間が届く。

「収納も……よし、できた」

 ニュッと自分の場所に残っている細い空間から、回収したばかりの魔物の死骸を確認できる。

 調子に乗って、ボードに回収の意思を籠めてみると──これまた成功であった。

「嗚呼、日々の思い付きって大切だな」

 しみじみとそれを感じ、何か思いつかないかと期待しながら、ギルドに達成報告をするために帰還する。

 結局、今日はこれ以上アイデアが浮かぶことは無かった。


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