的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
暴いてみる
話し合いは表面上、円満に進んだ。
王の心情を読み取り、最も適切な発言が出るように思考を誘導する。
今までは恐れて行わなかった他者の心情操作を、彼女は他国の高級官僚に行っていた。
彼女はこれまで、レンブルク側に舐められるような言動を行い続ける。
すべてはシナリオ通りに、レンブルクは傀儡のように踊らされていた。
(どうにか油断させるところまで来た。王とあの人の予定通り、そろそろ札を切る)
彼女はその後、一つの話題を口に出す。
──『異世界人による被害報告』
その言葉に、レンブルク側が一瞬怯む。
なんてことはない、自国の召喚者が罪になることをしたら……そう、暗に告げただけのことだ。
当然、何も含むことのない白い国であったならば、他愛無い会話となるだろう。
(だけど、この国の召喚者はそうじゃない。あの人が全部暴いている)
レンブルクに派遣された召喚者であるマリクは、炎の見ると興奮する性癖を持つ。
初めの内はダンジョン内で火を放つことで満足していたのだが、欲を出してダンジョンの外でも火を放ち始めた。
人を燃やすなどの対象を指定しての放火に感じるのではなく、火を見ること自体に興奮する性癖なのが幸いし、未だに人的被害は一件も確認されていない。
しかし、物的被害は多大な物となり、国は様々な方法で被害届を出さないように事件を闇に葬ってきた。
ここ数週間の事件だけでも、二桁を超えていたのだから隠蔽も大変だろう。
イムはそうした情報を、従魔や奴隷を使って集めさせていた。
彼女はその情報から作られた資料のごく一部だけを使い、自国に有利な状況を少しずつ形成していく。
もちろん、レンブルク側も否定はする。
喉を震わすことも、指に硬直も感じさせることもなく、表情筋も変わらずに彼女と向き合っていた。
──だが、内面は丸判りだ。
(色は……怯え、恐怖、狼狽、驚愕。何故分かったと思っているし、想定内とも考えている。こっちの王は知らなかったみたいだけれど、大臣の一部だけが知っていた。全部を統一できていない証拠。カリスマが無い)
これまでの経験上、貴族というものはやけに高いプライドを有している。
彼女自身王族であるが故に、そんな貴族たちとは何度も目を合わせる必要があった。
(一枚じゃ足りないなら、もう一枚)
再び、レンブルクに関する秘密を暴く。
──お仕事が上手くいかなかったときは、一度環境を綺麗になさるそうですね。
──清掃の方々はとても優秀で、つい先日も遠出をしていたようで……。
レンブルクを訪れる際、彼女とイムは暗殺者に襲われた。
捕縛した暗殺者から情報を奪い、彼女たちはそのことを知る。
曰く、五分五分の同盟を他国と結ぼうとした者を殺した。
曰く、召喚者の罪を断罪しようとした者を殺した。
曰く、他国の姫と召喚者を殺し、傀儡の魔道具で洗脳して使役しようとしていた。
絞り出した情報には、依頼人やその依頼人の主に関する情報もある。
……パーティーでいただいたお飲物、とても美味しかったですよ。どちらの領地で御作りになられたので? ぜひ、そのお方とじっくり話してみたいです。
その領主こそが、彼女たちに刺客を送った者の主であった。
豊かな農地を持つだけ、そう表に錯覚させて裏で闇ギルドを有する真っ黒な領地。
この場に居た領主は大臣と目を合わせ、彼女に近づいてくる。
(分かっていたけど、本音が漏れすぎ。王みたいに精神まで完全に制御しないと……私の能力は気持ちを見抜く)
領主は複数の魔道具を仕込み、あらゆる状況に陥っても対応できるようにしていた。
中には精神攻撃などを防ぐ魔道具も持っていたのだが、それでも彼女の眼を誤魔化すことはできない。
(そして……来た)
周囲にざわめきが広がる。
突如どこからか現れた黒尽くめの集団に驚き、逃れようとしていたからだ。
刺客の姿に驚くも、他国からの使者を守るために動こうとする重鎮たち。
知らないのは戸惑う王、予定通りだと考える大半の者たちのみ。
真実を知るのは一部の官僚──中でも先に挙げられた領主は、魔道具によって信号を送り指示を出していた。
「バスキ王国第三王女……だな? この国のために死んでもらう」
「え、衛兵よ! 王女をお守りしろ!」
刺客のその言葉に、王はすぐに部屋の外で待機していた兵士たちを呼びだす。
現れた兵士は即座に武器を構え、刺客へと向き合って戦闘を挑む。
(……茶番、考えが粗末。せめて作戦も統一してほしかった)
彼女を傀儡にするという考えは、あくまで最後の手……そう考えられている。
ほとんどの者たちには、恩を売るための茶番だと知らされていた。
(本当は大掃除、すべて私のせいにして行われる粛清。ついでに邪魔な召喚者も殺して、ヴァ―プルにバスキを売ろうとしている……ふざけてる、あの狂った国が思った通りに動いてくれるはずなんてないのに)
一部の者による国盗り、纏められた資料に記されていた、この出来事の目的だ。
すべては何者かの望むままに、盤上の駒はただ動いていく。
そのすべてはすでに二人の狂人に知られ、劇として扱われた。
舞台は盛り上がり始めたクライマックス。
彼女の動きにより、最終章の幕が開く。
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