的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
燃やし尽くそう
すでに五十階層に来ている。
「あっはははっははははっ!」
あれ以降、再び爆裂野郎が燃えていた。
ラクダを燃やしたのが不味かったのか、今まで以上に魔石を消費して魔物爆発を行う。
すると、爆発の勢いでドロップアイテムは傷付き消滅。
この国の者たちは、何も得られずに魔石だけを消費させられていく。
いちおう迷宮の中には宝箱があって、それが利益にはなるみたいだが……ほとんど出てこないので、結局は赤字であった。
「……まさに金の無駄遣いだな」
目の前では、爆裂野郎が階層主を相手に爆発を起こし嗤う様子が見て取れる。
一度に大き目の魔石を三個ほど消費し、火柱のような勢いで炎を解き放つ。
しかし、中ボスではなくラスボスだ。
これまでで最大級の一撃を放とうとも、階層主には一瞬火傷のような跡が残るだけで、即座に再生されていた。
「しかしまあ、ファンタジーの集合体だな」
その魔物は、木でできたドラゴンと例えるべきだろうか。
青々と緑を茂らせた巨大な大木、それが何重にも絡まってできたような見た目だ。
兵士によると、名前は『エルダーウッドドラゴン』──老木龍と言うらしい。
その下位の魔物『ウッドドラゴン』は爆裂野郎でも燃やせていたのだが、その上の存在で階層主として君臨する老木龍には……どうやら苦戦するようだ。
「これの小さいのは燃やせたんだ。こっちを燃やせたら……さぞ綺麗なんだろうな……」
猟奇的な言葉を呟きながら、爆裂野郎は何度も何度も炎を生みだしている。
独り言だったので普通聞こえないのだが、老木龍の弱点を探すために感覚を強化していたので聞こえてしまった。
兵士たちはヘイト値を無駄に稼ぐ爆裂野郎の尻を拭うため、必死に戦っている。
爆裂野郎は最大火力の魔法を連発させているだけで、自分が狙われていることには無頓着だった。
自分の欲求を満たすことだけに専念し、他の雑事はすべて兵士任せ。
「──救われないし、報われないよなー」
「何をやっているんだいトショク君! 君も手伝いたまえ!」
「最初に自分一人でやると言ったのはそっちだろう。途中から兵士を盾に使って、今度は俺にも盾役をさせるのか?」
「何を言っているんだ! こういったときは助け合い。日本人なら当然だろう!」
……爆裂野郎、日本人としての倫理観あったんだな。
火を見てブツブツと口を歪めて嗤うような奴に、普通は無いと思うんだが。
「ハァ……。別に構わないけど、その代わりこの迷宮の核を貰っていくぞ」
「そんな物持っていけ! それより早く攻撃しろよ!」
「あいよ。あと、口調が雑になってるぞ」
素晴らしき爆裂野郎様から言質が取れた。
兵士の中で一番偉そうにしていた、俺に一度も話しかけてこなかった兵士がギョッとした顔をしている。
さて、これでまた恩が売れるな。
「それじゃあさっそく──『赤の矢』」
赤色の矢を複数弓に番え──放つ。
上空に向けて放った矢は、勢いを保ったまま老木龍に突き刺さり発火する。
しかし、それも一瞬のこと。
すぐに火種は掻き消され、いっさいダメージの無い状態に戻っていく。
老木龍は今まで爆裂野郎にだけ向けていた見下した視線を、俺にまで向けてくる。
チッ……、微妙に腹が立つな。
「強引に燃やすか貫通させるか……どっちの方がいいか?」
透明な矢を大量に取りだすと、合成スキルで束ねていく。
数十本の矢は一つに纏まり、中に籠められた魔力もまた増大する。
そこに籠められるだけの炎の力を付与し、弓を引き絞った。
「轟炎魔法を付与──燃え尽きろ」
先ほど同様アーチを描くように矢を射り、老木龍の弱点──逆鱗を狙う。
すでに位置は確認済み、必中スキルの効果で確実にその場所へ矢は到達した。
俺がコピーしたスキルの中に、(轟炎魔法)と(業火魔)が存在する。
どちらも爆裂野郎が所持するスキルで、爆裂野郎らしいスキルであった。
轟炎魔法は火属性の魔法の中でも高位に近い魔法であり、業火魔は炎属性のスキルすべての効果を向上させる。
正直名前的に要らないとも思ったが、ある物は取っておいた方が良いと考え、コピーしておいた。
どうせ『赤の矢』を使っていることで、火属性の魔法が使えることはバレている。
ならば、異世界人らしくチート級の一撃を使っても構わないだろう。
────ッ!!
強力で強烈で強熱な一撃は、強圧的に老木龍へ襲い掛かる。
極限まで濃縮された魔力と、スキルによって高められた炎が逆鱗に刺さった。
瞬間、轟々と炎が爆発的に老木龍の全身を焦がすように生まれ、老木龍に悲痛な叫びを強要するように広がっていく。
再生は確かにしている。
だが、それ以上に火の勢いが強かった。
たしかに老木龍の木でできた鱗は、焦げた痕も即座に戻っている。
しかし、すぐさま炎がその部分に干渉し、再び火を付けて燃やす。
拮抗しているわけではなく、炎が優っているのが現状だ。
再生しても焦げる速さが少しずつ上回っていき、悲鳴を上げる声だけが空間内に木霊していく。
「これが……トショク君の炎……き、綺麗、綺麗だ……」
気持ち悪いセリフを語る爆裂野郎がいたような気もするが、記憶から消しておいたので覚えていないな。
しばらくすると声も止み、巨大な炭の塊と魔石だけが残る。
その二つに近づき、俺の担当国に渡されていた魔道具──物が多く入れられる袋に入れて兵士たちの方を向く。
「では、迷宮の核を貰いますね」
ニコリと笑う俺を相手に、全兵士が縦に頷くことしかできなかった。
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