的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
燃やしてみよう
クラスメイトはとりあえず、『爆裂野郎』と呼称しておくことにしよう。
そんな爆裂野郎が辺り一帯を吹き飛ばし続けるので、倒した魔物から魔石を回収できていない。
──いわゆる、オーバーキルによるドロップアイテムの減少だ。
普通さ、過剰に痛めつけて良い素材が手に入るわけが無いだろう?
いくらステータスとかが存在するゲームっぽい世界だからって、そういう部分が現実と同じなんだよ。
爆発の威力で魔石は、ドロップアイテムとして形を残すことなく消滅。
最後に残るのは、爆裂野郎へと行き渡る経験値のみ。
……まったく、自己中なヤツだ。
いやー、こんな風にはなりたくないよマジで(ブーメラン)。
「兵士さん、いつもアイツはあんな感じで迷宮を攻略しているので?」
「はい。……ただ、こちらが求めているのはあくまで迷宮内の魔物の増殖を防ぐことですので、目的は果たしておりますよ」
「……なんだか、すみませんね」
「いえいえ」と答える兵士の顔をチラリと確認して、再び爆裂野郎の方へ注目する。
まあ、国によって要求することは異なるからな。
ここまでの狂人を寄越されれば、扱う方法もかなり制限されてしまうだろう。
異世界からの使徒様が物を爆発させるのがお好き……などと知られれば、関係各所からクレームの嵐だと思うし。
「──さて、そろそろかな?」
「? どうかされたので?」
「いえ、だんだんとただの矢だけでは倒せない魔物が増えてきたと思いましてね」
実際、矢の使用数が増えていた。
さすがに魔力を使わない戦闘を続けているのも、少し危険になってくる。
「……本来、この迷宮の魔物には弓矢が刺さりづらいはずですので。今まで当てることのできていたトショク様の実力に、間違いはありませんよ!」
「アハハハ。そう言っていただけるとこちらも気が楽になりますよ。そういうわけですので、小さな魔石を触媒として使わせていただければ……」
「はいっ、すぐにお持ちします!」
兵士はそう言って、別の魔石を回収している者の場所へと駆けていった。
……魔石って、従魔の飯にもなるんだよ。
◆ □ 二十九 □ ◆
「がとりんぐあろー・ふれいむ!」
適当な技名を言って、何本か同時に握り締めた矢に炎の魔力を籠めて放つ。
放たれたそれらは同時に複数の魔物へと刺さり、焦げ臭い香りを周囲に撒いてから消滅していく。
だんだん迷宮内の魔物も強くなり……今回現れた魔物など、浮遊するという意味の分からない力を持ち始める。
丸太に一つ目が付いたその魔物を複数倒して、いったん兵士たちに戦闘を任せた。
「ふはっ、フハハッ! 燃えろモエロもえつきろ!!」
……爆裂野郎が魔石を使い潰して燃やし続けているので、魔石のみを可及的速やかに用意する必要があるのだ。
なので俺はわざと『赤の矢』を連発して、魔物を屠っていった。
「さて、どうしようかな?」
魔物が強くなった分、爆裂野郎が消費する魔石の数も増えていく。
手に入る魔石は少しずつと巨大な物が増えるのだが、それはすべて爆裂野郎へ回されているのが現状だ。
小物は中々手に入らないので、仕方なく自分の魔力を使って(いるという体を装って)いた。
実際には魔力は有り余るほど持ってるし、貰った魔石も使わずに仕舞っている。
──そう、面倒だからサボっているのだ。
爆裂野郎が殲滅しているのだから、本来俺がここにいる必要はない。
俺が居るのは、あくまでお偉い方の話し合いを邪魔されないようにするためだ。
(……まっ、邪魔できないなんて誰も言ってないけどな)
俺がそれを行うことはないと誓おう。
せっかくこの国の者たちが、頭を振り絞って俺をこの場所に封じ込めたんだ。
その行動に敬意を表して、大人しく迷宮の中で怠けていよう。
(だ・け・ど、俺の安住の地を少しでも騒がそうと言うのなら……俺以外の奴がどう動くのか、分かってるんだろうな?)
すでに第三王女とも話し合い、俺の考えの一部は国王にも伝えてある。
そうした手札を使い、俺という爆弾を爆発させないように動くだろう。
成長した第三王女と、どれだけこの国は渡り合えるのだろうか……少しだけ楽しみだ。
「さて、そろそろ戻りますか」
再び矢に魔力を籠めて、さまざまな形をした植物型の魔物を燃やしていく。
……その言い方だと、なんだか俺も爆裂野郎の同類みたいだな。
◆ □ 三十層 □ ◆
「さぁトショク君! ここで君の実力を計らせてもらおうか!」
「……分かった」
ちなみにだがコイツ、今まで現れた中ボス的な魔物は独りで燃やして嗤っていた。
今回それをやらないのは、この迷宮でも珍しい炎に対する耐性が高い魔物がこの階層の主だからである──体が木、背中から大木が生えたヒトコブラクダのイメージだ。
(……コイツらの前で力を見せると、国に力を報告されるのは当然だ。あくまで使えるのは弓と一部の魔法、それと弓の補助スキルぐらいか?)
矢の補充はすでにしており、魔石もいくつか大き目の物を拝借した。
魔力の方も満タンだし……倒せるな。
「それじゃあさっそく──疾ッ!」
魔力で脚力を強化し、ラクダの周りをグルグルと周る。
同時に番えた『赤の矢』を急所に放ち、中てていく。
『グォオオオオオオ!』
悲鳴を上げるラクダを無視して、背中の大木に大量の赤の矢を円を描くように刺す。
「──燃え尽きろ」
少し多めに魔力を籠めた矢が、同時に同じ個所から発火した。
爆裂野郎は外側から爆発を起こし、それによって生じた熱が攻撃のメインである。
なので、それを防ぐ能力を持ったこのラクダには炎が通用しなかったのだが──
「体の内側から燃えれば、そんな能力関係無いだろ?」
今まで俺の代わりに魔物を倒していた爆裂野郎へのサービスとして、あえてラクダが燃えるような攻撃を選択してみたのだ。
「さっ、これで満足か?」
絶叫するラクダを背にそう訊くと、全員が高速で首を振っていた。
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