的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

彼に話は観られてる



 イムが派遣された小国──バスキの王は、重鎮たちを集めて深夜に会議を行っていた。

「異世界人は、もう寝ているな?」

「はい。侍女がすでに確認しています」

「……そうか。では、早速状況を報告しろ」

 すべては、ヴァプール王国が行った儀式魔法によって引き起こされた問題だ。

 ──勇者召喚

 異界の地より勇者と、勇者の従者を召喚するその魔法は、本来禁忌の魔法として全ての国同士で結んだ盟約によって使用を禁止されていた。

 だが、ヴァ―プル王国は何らかの方法で盟約を掻い潜り、魔法を発動させてしまう。
 結果、大量の異世界人がこの世界へと現れて、各国は恐怖に襲われることになった。


 異世界人。
 それは、この世界の者よりも優れた才能を持つ集団である。

 必ず強力なスキルを一つ有し、その中でも選ばれた者は──唯一ユニークスキルと呼ばれる、この世界でも極僅かな者のみしか知らないようなスキルを、この世界へと呼ばれた瞬間から所持している。

 また、成長速度もとても速い、
 この世界の者が積み重ねてきた努力を冒涜するほど速く、そして強くなっていく。

 その強さは、魔王というこの世界最凶の存在と渡り合えることからも証明されている。
 勇者だけでなく、異世界人すべてがその生長速さを持つ。

 かつて、とある国が勇者の従者の反感を買い、単独であったその者に落とされた……などという伝承が語り継がれているほどだ。


 なので、国は勇者たちの力を恐れていた。
 自分たちもまた、その伝承と同じ目に合う可能性があるからだ。

 ヴァ―プル王国は勇者を利用して戦争をする……それは、すべての国が共通して理解していることである。

 ──本来ならば、そのような国は滅ぼさなければならない。

 だがしかし、彼の国には勇者がいる。
 下手に手を出せば伝承と同じ未来を歩んでしまうことは間違いない。
 なので、今は黙って従うしかないのだ。

 ──たとえそれが、自身の国に勇者たちを受け入れるような命令であっても。

 そのため、各国は勇者たちをとても注意深く見張っていた。
 いつ爆発するのか分からない爆弾……それが、彼らの扱いである。

「この国に来た異世界人──イムは、我らの指示を忠実に受け入れています。討伐依頼であろうと採取依頼であろうと……言われれば成果を出しております。ただ、対価として要求した迷宮ダンジョンに再び行った記録がありません」

「ほう。我が国の迷宮はとても簡単に攻略できるはずなのだがな。討伐依頼をこなせているイムならば、問題無く単独で進んで行くと思っていたのだが……」

 イムの居るバスキのダンジョンの一つ『ハイランド』は、極めて階層数の低い小迷宮と呼ばれるものである。

 ギルドによるダンジョンの完全把握ができており、今や産業の一つとして組み込まれているほどだ。

 そのため王は、イムが何度もダンジョンに向かい、急速なレベルアップを図ると思っていたのだが……。

「皆の者、奴は何を考えていると思う? あの国から送られてきた資料を鵜呑みにするならば、行っていないの一言で済むが……あの国のことだ、何かを隠している。ならば、自分たちでアヤツの考えを読み取るしかない」

 ──実際ヴァ―プル王国は、一部の者のステータスを改竄してその国へと渡してある。
 それは、(魅了)であったり(カリスマ)というモノなのだが……この国は知る由もない。

 今宵もまた、王はイムを調べ続けた。
 いつの日か、この国に戦火の炎が飛ばないようにするために。

  □   ◆  勇 者  ◆   □

「それじゃあ、少し休もうか」

 勇者たちはヴァプール王の指示に従って、その地──『エテーナ』を訪れた。

 そこで頼まれたのは、世界に限られた数しか存在しない大迷宮である『アイヴァン』の攻略である。

 本来エテーナ側は、ダンジョンを攻略されたくなかったのだが……ヴァプールがそうしろと遠回しに告げたため、仕方なく勇者たちにそう依頼したのだ。

 そんな事情を知らない……いや、知らなくとも構わないと認識する勇者たちは、現在二十階層の階層主を倒したところであった。

「ユウキ、お前は本当に強いよな。さっすが【勇者】様だな」

「ハハッ、コウヤ。そんなことを言ったらお前も【護闘士】だろ? 僕の攻撃を余裕で防げる奴なんて、もうクラスメイトだとお前だけだよ」

 男同士で、そう話し合う二人。
 唯一スキルを持つ彼らの成長率はクラスメイトの中でも軍を抜いており、今では彼らのパーティーがトップの戦闘力を誇っていた。

「二人とも、早く下に行かない? 私たちは強くならないといけないんだよ?」

「ちょっとアユミ、落ち着きなさいよ。焦っていたら、いつ危険な目に遭うか分からないのよ? 今は魔力を回復させることに集中しなさい。今までの戦いで、だいぶ使ってるんでしょ?」

「…………分かった」

 そうやって話している二人の下へ、二人の女子がやって来る。
 彼女たちもまた、唯一スキルを持ったクラスでもトップの強さを持った者たちである。

 その一人──アユミと呼ばれた少女は、強くなることを望んでいた。
 召喚された地にあるダンジョンで、彼女は一人の少年を失ってしまう。

 クラスメイトの大半は彼を死んだと言っているが、彼女はそれを信じずに生きていると考えている。

 だからこそ、強くなってそれを確かめなければならない。
 そのため、彼女は生き急ぐように強くなろうとしているのだ。

 古くからの付き合いを持つ幼馴染のチヒロは、そうした彼女の焦燥を感じていた。
 なのでこうして宥め、せめて死なないように説得を日々行っている。

「……纏まってないわね、このパーティー」

 そんな光景を少し離れた所で、和弓を持った少女が眺めていた。
 彼女──ツルネが言う通り、今のこのパーティーに纏まりはない。

 もともと彼ら四人は幼馴染で信頼関係はあるのだが、アユミの真の考えを男たちが理解できていないため……団体としての行動に齟齬が起きているのだ。

「……ハァ、早く帰ってアイツをまた弄りたいわ」

 彼女の心に残るのは、一人の少年が弓を射る姿。

 やる気は欠片も無いというのに、放たれる矢の正確さ……それが、彼女の心を決して離さないのだ。

「じゃあ、みんな出発しようか! ツルネ、君もいっしょに」

「……ハァ、分かったわ」

 勝手に名前を呼んでくる彼の性格にうんざりしながらも、彼女はダンジョンの奥地へと進んでいく。

 ──この光景を、その少年が覗いているとも知らずに。


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