的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

駒を手に入れよう



 偉大なる勇者様が凄まじき一撃を以って、同朋の仇を討ってから数日後……俺は再びだ迷宮に潜り、例の場所へ辿り着いていた。

『……それで、我に何のようだ。わざわざ話掛けたということは、お前にも何か理由があるのだろう』

「いや、お前を従魔にしようと思ってな」

 さて、こちらは現場のイムです。
 クラスメイトからパクった魔法の一つ、空間魔法で夜中にこの場所へと来た俺は、同じくパクった魔物言語スキルを使用して龍と会話をしていた。

 ──というか、これの持ち主って本当だったら心折れているよな。
 なぜならば……倒そうとした魔物の言葉が分かってしまうのだ。

 それはつまり、自分の攻撃で苦しむ反応をする相手を無慈悲に倒さなければいけない。

 俺はスキルを停止できるから問題ないし、催眠でどうとでもなるからいっさい気にしないが……普通のヤツには無理だろう。

 まあ、そうことも考えて、あの国は“真理誘導”を使ったのかもしれない。

 日本人の倫理観にそぐわぬ行動も、誘導されれば平然と行えるようになり、ソイツの精神は安定する。

 ……うん、悪いことばかりでもないのか?

『我を従魔に……だと?』

「ああ、俺は面倒なことが大嫌いだ。だからお前には、俺の代わりに仕事をしてもらいたいんだよ」

『……殺されたいのか?』

 瞳が殺気を帯びている気もするが、催眠状態の俺には良く分からないな。

「いや、お前がダメなら次のお前にそれを聞けばいい。何度でも何度でも俺はお前に訊いてみよう。従魔にならないかとな」

『その眼……お前は狂人だな』

「いーや、俺は面倒なことが嫌いなだけの、ただの異世界人だよ」

 失礼なことを言うなよ。
 俺には重大な責務も無いし、自分がやりたいことをやるだけだ。

 ──だから、やりたくないことは誰かに任せるのが一番だろう。

『……ふむ。どこまでいってもこの話は平行線。だが、このままいくと、我は間違いなく殺される……そのようだな?』

「正解だ。お前は時間が経てば勝手に別個体として蘇るんだろう? なら、お前じゃなくても俺は構わない」

 そう言うと龍は何かを考えるように唸り、俺にこう言う。

『ならば、せめて我に仕えたいと思うだけの力を証明してくれ。これに関しては、どの個体の我であろうと言うと思うぞ』

「ふーん。お前がそう思えばいいのか?」

『……迷宮の守護者には、状態異常の類いは効かないぞ』

 ……チッ。
 証明したように認識させるという考えを、未然に潰されたか。

「まあ、良いや。ならすぐに始めるぞ。夜明けまでに決着を決めたいからな」

『そうか──ならば、全力で挑んでもらおうではないか!』

 龍は大きく息を吸って強力な息吹ブレスを吐き、強烈な勢いでそれが俺に向かってくる。

「んー、面倒だな。『超強化』」

 技を宣言するということは、頭の中でその技を認識するということだ。
 だからこそ、詠唱省略や無詠唱といったスキルが存在するのだから。

 ──ならば、一々言わなくても問題ない。

 俺はそれらの一段階上──キーワードを唱えると、同時にさまざまなスキルを起動できるように催眠を自分に掛けた。

 こうすれば、擬似的な平行起動にもなるのだからな。

 今回使った『超強化』で起動するスキル群は、身体強化系のスキルと魔法の複合型だ。
 一気に体が軽くなり、龍の息吹の速さを視界内でゆっくりな物として認識できる。

 その時間を使い、矢を準備しておく。

「『白の矢』、『強矢』、『強弓』」

 破邪能力を持つ白色の矢を生成し、矢と弓に付与魔法を施す。
 そして、神聖武具術スキルの力を帯びた純白の弓を引き──放つ。

『グアァッ!』

 何の抵抗もなく、目の前を覆い尽くす柱を穿ち──矢は龍へと到達する。
 ザシュッと体を矢に貫かれ、そこから破邪の力が浸透していく。

『グォオオオ!!』

「ああ、悪い悪い──『水の矢』」

 苦しむ龍に回復の矢を放ち、癒してやる。
 うん、だんだんと様子が戻って来てるな。

「もう少し必要か?」

『…………すまない、追加で頼む』

「了解──『水の矢』を三本」

 三本の矢を同時に番え──頭、心臓、尾を狙って放つ。
 三ヶ所から癒しの力を浸透させた方が、良いと思うしな。

 実際それは合っていたようで、みるみるうちに龍は苦しんだ顔から戻っていく。
 龍の顔でも、苦しいと理解できたのは……スキルの影響だろうか?

「よし、これで証明できたな」

『う、うむ……よろしく頼む、我が主』

「ああ、そういうのは別に良いんだぞ」

 堅苦しいったらありゃしない。
 名前が分からないのは良いと思うのだが、俺にそんな器で無いことは自分が一番知っているさ。

『いえ、我自身がそう呼びたいのです』

「あっ、そう。なら魔法陣の中に入ってくれよ。すぐに契約を始める──『支配契約』」

 面倒なので説得は止めよう。
 気持ちを切り替え、従魔契約に必要な魔法陣を展開していく。

 龍は俺の指示に従い、地面に広がる幾何学な模様の上に立つ。

「設置してから訊くけど、支配の契約で問題無いよな?」

『……隷属でなくて、よろしいのですか?』

 ここで、この世界の契約について説明をしなければならない……うん、面倒だ。

 主なものを纏めておくからご自由に──

・同盟:対等な存在になる(5:5)

・支配:主従関係になる(7:3)

・隷属:片方の言うことは絶対(2:8)

 どこかにありそうな設定だが、そこはどの世界も共通のものだろう。
 契約の種類なんて、あんまり多様化できないしな。

「俺は、面倒事を代わってもらう相手を探しているんだ。隷属だとお前の意思は無くなってしまうだろうが。自分の考えで俺のために動いてくれるヤツを、俺は求めている」

『……そうでしたか、申し訳ありません。そういうことであれば、支配を受け入れさせていただきたいです』

 意思なき人形に、複雑な面倒事は務まらないだろう。
 独りよがりな人形遊びならばそれでも問題ないだろうが、俺にはそれは必要ない。

 龍の立つ魔方陣に魔力を籠め、契約を成立させようとする。
 だが、人と龍の差は尋常ではないため、支配するためには少々魔力が足りないのだ。

 それを言えば隷属も難しいのだが……同盟は簡単だが、それでは目的を達せられない。

『我の魔力を貸しましょうか? 主よ』

「いや、自分の魔力でどうにかする」

 異空間収納スキルで透明な矢を取りだし、その場へとばら撒く。
 それらは全て魔方陣の上に刺さり、中に籠められた魔力を陣へと注いでいく。

 透明な矢は魔力の矢──純粋に魔力MPだけを籠めた魔力ストック用の矢である。
 今回みたいな自体のために、予め創っておいたのだ。

 そして、自分の魔力も一気に注ぎ──魔法は成立する。
 俺と龍の間に魔力で編まれた繋がりが生まれ、相互を結び付けた。

「……よし、でき、た。」

『……お休みください、我が主よ』

「そう、する。『おやすみ』」

 眠り関係のキーワードを言ってから、俺は魔力切れによって意識を失う。
 ──ちょうどいいボディーガードもできたし、安心して寝られるな。


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