的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

クラスメイトの仇を討とう



 否が応でも参加せざる負えなかった。
 ……嗚呼、時間は過ぎ去ったよ、ガキの夏休みのように。

 現在、大迷宮ダンジョンの入り口で決起集会のようなことをやっているのだが……拒否権を与えられていない哀れな俺はそれを眺めていた。

 日々楽をするために努力していたはずだ。
 うん、毎日同じようなことをして、ずっとクラスメイトのスキルをコピーするのに励んでいたよ。

 そして、気が付けば一月が経っていた……おいおい、時間の経過が早すぎるだろ!
 俺にゆっくりとする時間をくれよ!

 思えばいろんなことがあった……あったけど回想するのも面倒だし、もう諦めよう。

「行こう、みんな!」

『オォーー!!』

 相変わらず“真理誘導”は効果を発揮しているし、クラスメイトのやる気は満々だ。
 今回は編成もだいぶ纏め、集団での行動となった。

 もうクラスメイトの洗脳は終わっているんだし、たしかに纏めておいても問題ないな。

 俺以外の誰がそれを防げているかは知らないけど、ソイツが批判をしようとしても、数の暴力でどうにでもできるわけだし。

 護衛の騎士もしっかり付いており、前や後ろでサポートに入っている。
 クラスメイトは彼らの指示に従って攻撃をし、少しずつレベルを上げていた。

「さて、俺もやらないとな」

 道の奥の方に出現した犬型の魔物へと、構えた矢を射っていく。
 神聖武具術スキルの補正を受けた矢は、曲線を描いてその魔物へ命中する。

 うん、他のヤツの魔法と同タイミングで。
 ほんの少し先に当たったから、経験値は俺の方が多めに来るな。

「ふぅ……」

 集中して疲れた……みたいな感じにして、俺はゆっくり休憩する。
 仕事はしてるんだから、誰も文句は言えないだろう。

「というか、言う気にならないだろう」

 催眠魔法で騎士の方はすでにどうにかしてあるし、クラスメイトはもともと俺に関わらないだろうから……問題ないな。

 面倒な和弓女子に関しては、ユウキといっしょに行動しているのでバッチリだ。
 俺の矢が飛ぶ度に、ちょくちょくこっちを向くのは止めてほしいけどな。

 さて、もうちょっと冒険しよう。

  ◆   □  5階層  □   ◆

 魔物を狩り尽くし、ついに目的地へ辿り着いた俺たちを待っていたのは、ヒ……ヒラリ君を地下へと落とした龍であった。

 だが、彼らの意思は変わらない。

「行くぞ! ヒデオの敵を討つために!!」

『オォーー!!』

 勝手に死んだことにされている彼に多少の同情を感じながら、適当に弓を射っていく。

 龍はクラスメイトの攻撃を受けても、あまり変化は見られない。
 まあ、前回も最終的には落とさないと倒せなかったんだしな。

 龍も時には攻撃をする。
 尻尾を払い、爪を振り、牙で噛み、鱗で攻撃を弾く。

 息吹ブレスは吐かないが、それでもクラスメイトと騎士を相手に上手くやっているよ。
 俺のちっぽけな矢も、丁寧に弾いてくれているし……いや~実に楽だ。

「力を貸し──」

 あっ、ユウキの声はもうどうでもいいや。
 催眠で周りの声を聞こえないようにして、適当に戦闘を行っていく。

 弓を射る、射る、射る──弾かれる、弾かれる、弾かれる。

 弓ってのは本当にありがたいな。
 弓自体で戦うんじゃなくて、それを用いて矢という武器を放つ。

 弓にも矢にも付与が可能だから、通常の武器よりも威力を増すことが可能だ……まあ、今はやらないけど。

 ──────ッ!!

 パカッと龍が口を開けて、周囲にピリピリとした空気が訪れた……と思う。

 威圧による恐慌も状態異常の一つだしな。
 同じ状態異常である催眠にどっぷり浸かっている俺に、それは効かないようだ。

 だから俺には、ちょっといい感じの風が吹いて来たようにしか思えなかったよ。
 しかしクラスメイトたちはそれに竦み、どうやら怯えているようだな。

 あくまで“真理誘導”は思考を誘導するのであり、俺同様に状態異常を発生させるものではない。

 ならばクラスメイトの皆さま方がそうなるのも、仕方が無いっちゃあないだろう。

「────」

 えっと……クラスの女子の一人が魔法を唱えると、全員の状態異常が無くなったみたいようだ──立ち上がり、再び龍へと挑む。

 ……ったく、余計なことすんなよな。
 怯えて今回も撤退になれば、またゆっくり休めたのに。

 彼女の魔法がどういう原理で恐怖を取り除いたかは分からないが、少なくとも俺の催眠は解けていない。
 ……冷静になる魔法とか、そういうのか?

「────、──“──”!!」

 ここでテンションを上げたユウキが、剣を純白に光らせ始める。

 すると他のクラスメイトも武器に変化が起きたり、今までより強そうな魔法を使い始めたり……うん、総攻撃って感じかな?

 なら俺も、少し強めにしておかないとな。

「放て──『水の矢』」」

 青の矢と白の矢を混ぜた水色の矢。
 魔法によって創られたそれを番えて放つ。

 今まで以上に正確に龍の鱗……それも逆鱗に当たったその矢は、龍の中へと浸透し──

 ──────────ッ!!

 ……よりいっそう、元気にしてくれた。

 水色の矢は回復の矢。
 どんな存在であろうと癒し、体を活性化させてくれる。

 これで龍も今まで以上に暴れてくれて、クラスメイトも俺を気にしなくなるだろう。
 逆鱗にてたのはより浸透させるためだ。

 ……えっ、お前なら倒せるだろ?
 うん、その気になれば、そこの龍ぐらいなら余裕で倒せるぞ。

 補助系統のスキルを全開で使い、神聖武具術スキルの力を籠めて白の矢を放てば……あれぐらい一撃だし。

 でも、それを俺がやったら面倒なことばっかりだしな。
 そういうのはやりたいヤツが、無駄にカッコイイスキルでも使ってやればいいんだよ。

 クラスメイトが盛り上がる中、俺は一人、回復の付与を行った矢を龍へと放ち続けた。


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コメント

  • ノベルバユーザー395592

    (´^ω^`)ブフォwww 龍に回復は予想外でした

    0
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