的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

エネルギーを考察しよう



 さて、王城に用意された俺の私室。
 そこにはメイドが一人やってきており、夜な夜な密会を行っている。

「──と報告がございました」

「そうか……下がって良いぞ」

「……はい」

 まあ別に、性的欲求を満たすがための密会ではない。
 そもそも密会って、情報共有とかにも使われる言葉だからな。

「しかしまあ、面倒なことをしているよな。勇者云々は予想していたけど」

 お偉い方の情報を聞きだしたのだが、俺の感想なんてそれぐらいである。

 あとはそうだな……やっぱり和弓女子は勇者パーティー候補者に入っていたし、ヒ……ヒカル君がストレス発散用に使われそうだったことに反応するぐらいだな。

 なお、情報はメイドが知り得たモノではなく、催眠を刻んだ無意識の協力者がメイドに漏らしたというていで運んできた。

 お偉いさんの一人なのだが、虚偽を認めないようにも洗脳したので間違いないだろう。

「導きはやらなくても、やっぱり使いようによっては役に立つみたいだな。催眠を掛けることが導きのトリガーじゃない、あくまでしたいと考えた後、導くことになる」

 メイドとリュウハン君とやらが魅了していた鑑定士以外、まだ導きを行っていない。

 たしかに能力補正は好ましいのだが、必要以上にやってとき、それを他の導士に感知されるのは面倒だからな。

「リュウハン君の魅了スキルを上書きしたとき、誰がそれを使ったが判明したんだから、警戒しておかないと……」

 対策はいくらでも考えられる。
 だがまずはそうなることを防ぐことこそ、もっともいい対策となるだろう。

「付与魔法で催眠魔法を簡易的にしたアイテムの作成をするべきかな? いや、やっぱりここはアレを使うべきだし……」

 今日も今日でスキルをコピーしたが、未だに龍躯強化スキルは反映されない。
 効果が優秀だし、さっさとコピーしたいんだけどな……。

  ◆   □  訓練場  □   ◆

 はあ、別サイドの話?
 いやいや、現実において俺以外の視点を俺が話せるわけないだろ。

 そもそも誰の話をするんだ?
 迷宮の地下に落ちた、イジメられっ子?
 クラス最強の力を手に入れた【勇者】様?
 それとも、裏で暗躍するこの世界の人々?

 ……ああ、俺が引き籠もるために面倒事をやっていく話より、なんだか面白そうだな。

「あれで視点の切り替えもできるなら、試してみるのも一興かも」

 今はまだ試せないが、スキルを集めればいつかはできるかもな。

「まあ、今は手数を増やすか」

 元素魔法で土壁を創り、そこに付与魔法で催眠魔法を掛けていく。
 それにより、他の奴らに俺の居場所は分からなくなる。

 壁を見た者は、もともとやっていたことをやりたくなるよう、意識を書き換えるように設定してあるぞ。
 青年兵士には、俺の存在を関わらない方が良い存在として書き換えを行っておいた。

 ……最初から、アイツは俺のことを嫌悪してたけどな。
 唯一の問題は和弓女子であるが……まあ、催眠魔法でどうにか誤魔化せるだろう。

「まずは……(身体強化)と(龍躯強化)の違いからだな。“身体強化”……体が軽いな」

 予め[ステータス]を展開しながら身体強化スキルを発動する……少しずつ魔力MPが減少しているな。

 魔力消費型のアクティブスキルでもある身体強化には、それを籠めることで能力値を一時的に1.2倍にしてくれる効果を持つ。

 ──通常時は1.1倍になるぞ。

「次はいったん解除して──“龍躯強化”」

 すると、先ほどよりも大量の魔力を消費することでより強化の度合いを高めていく。

 一度説明をしたが、龍躯強化スキルは通常時に1.2倍、魔力消費時は3倍も能力値を補正してくれるスキルだ。

 だがその分消費も激しく、俺の魔力がかなりの速さで減少するのが見て取れる。

「違いはスキルの価値ってこともあるが……やっぱり、消費するものだよな」

 身体強化は低燃費で、龍躯強化は高燃費で身体機能を向上させる。
 一度、そこら辺を調べてみるのも良いかもなしれない。

「魔力は世界に散らばる魔素、それを一度に扱える限界量。両額多くても使いすぎると問題になるとか言ってたっけ? いやまあ、どうでもいいから聞いてなかったけど」

 単純に二つのスキルの違いは、それを扱う者が保有する魔力量が異なる点だ。
 人と龍が持つ魔力の差など、コップと海ぐらいの差があるらしいし。

「……あっ、龍固有のスキルだからか」

 そして、龍だけの能力という部分を思いだし、そこに至る。
 龍躯強化が龍だけのスキル──まあ、種族固有のスキルならば納得がいくのだ。

 魔力の消費が激しいのは、龍で無い身でそのスキルを行使しようとするから──龍が扱う際に、無意識で行う循環を調整する段階を必要とするのだろう。

「もう一度──“龍躯強化”」

 意識をして龍躯強化スキルを発動する。
 ……うん、体の中で変なものが動いてる気がするな。
 魔力を感じた時と似たようなものだな。

 ただ、これをチョチョイと動かすのは……ちょっと難しいな。
 たぶんだが、バトル漫画とかでよくある気みたいなものかもしれない。

 魔力操作と似た要領でやればどうにかなると思ったが、気の流れなんて感じ取ったことがないので全然操れない。

 おまけに龍の方の気――龍気(仮)の方は未だに掴めない。
 龍の気を操れない限り、俺が龍躯強化スキルをコピーするのはほぼ不可能だろう。

「そういえば、重ね掛けはやってなかったよな──“身体強化”と“龍躯強化”」

 体は凄く軽くなった……けど、軽すぎてヤバいぞ。
 こう、動いただけで体がミシミシ逝っちゃう気がする。

 喋るのもヤバそうだし、さっさと解除しておくか。

「……ふぅ。ステータスは……げっ!? 一気に減ってるじゃん。やっぱり、なんでも重ねるとリスクは存在するもんだな」

 こういう場合、足し算ではなく掛け算が使われる……覚えておこうか。
 今まで確認してなかったから、まったく気づかなかったな。

「ふわ~。にしても、今のは今のだいぶ疲れる……少し休むとするか」

 すぐに(回眠)と(意識遮断)を発動して、俺はしばしの休息を取ったのであった。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品