的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

和弓女子を避けよう



 今日も今日とで訓練場にてスキルを試し、己が物にしていく日々が始まる。
 そう思い、歩いていたはずだった。

「さーて、今日は何をしようかね……」

「待ちなさいよ──イム!」

 俺の名前を呼ぶ声に振り返ると──そこには女子がいた。
 たしか名前は……うん、誰だっけ?

「えっと……どちらさん? というか、どうして俺の名前を知っているのですか?」

「なっ、鑑定スキルを使いなさいよ!」

 あー、思いだした……BGM担当の騒がしい和弓の女子だ。

 青年兵士に名前を言われていたワコとかいう投擲女子しか、頭に入れてなかったよ。
 俺の脳のスペックは、一日一人ぐらいしか人物名を入れられないので仕方ないが。

「鑑定スキルですか? ああ、魔力MPを使いますので遠慮しておきます」

「使いなさいよ! たった1でしょ!」

「俺、資源は大切にしたいタイプなんです。だから不必要なことに無駄遣いしないように心掛けているんで……すいません」

「…………ッ!」

 お~、堪忍袋って本当にあるのかな?
 どこからか聞こえてきたブチッという好感音に、ついそんなことを思った。

「わたしは……わたしは──」

「では、俺はそろそろ行きますんで。えーっと、貴女は貴女で練習頑張ってくださいね」

「ま、待ちなさいよ!」

 さて、そろそろスキル実験を始めようか。

  ◆   □ 実 験 中 □   ◆

 ──コピーしたスキルと自身で習得したスキルの効果は重複する。
 今日の実験で分かったことだ。

 今回実験に使用したのは──(異空間収納)というスキルだ。
 元の持ち主はクラスメイトの……うん、匿名希望(俺が)の誰かさんだ。

 魔力を消費することで専用の収納空間を展開し、そこから荷物を出し入れ可能な能力。

 幸い、そのスキルの持ち主と空間を共有ルームシェアする……なんてこともなく、何度か意識して使用していたら無事習得できた。

 そして、その習得したスキルとコピーしたスキルを同時に発動したらどうなるか──結論から言ってしまえば、別々に空間の穴が生成された、というわけだ、

 両手から異なる場所へ繋がる穴を広げるイメージを浮かべたのだが、それだけで二種類の穴が生まれる。

 片方を消して、荷物を入れて消したあとにもう片方を起動する……なんて実験もしたのだが、荷物は片方からしか出せなかった。

 このことから──スキルごとに固有の空間が用意されていること、俺のコピーは完全な複製ではなく、俺用のスキルをどこからか得ていることが判明したわけだ。

 あとついでに思ったのは──これで存在ごと抹消できる荷物入れが手に入ったことか?


 閑話休題くろれきしのひとく


「んじゃあ、弓の練習を続けるか」

 手に矢が出現するように意識すると、いつの間にか矢が握られている。
 異空間収納スキルを持っていると、そんな便利な機能が使えるのだ。

 あっ、今さら言うが、メニューでも同じようなことができる。
 ただ、そちらは制限付き[インベントリ]みたいな感じだったので止めたのだ。

 こっちもこっちで、隠す必要のある収納には便利なんだがな……。

「引っ張って~射る」

 そんな適当な所作であろうとも、スキルという存在は機能してくれる。

 言葉とは裏腹に体は正しい姿勢で的へと向き合い、俺の考えた通りに弓を引き──的へと矢を放った。

「うん、よしよし」

 二の矢を番えて再び矢を射る。
 照準は先程的に刺した矢、そのもの。
 どこかの魔力チートな主人公のように、綺麗にててみたよ。



 さて、そうして何度か継ぎ矢をして遊んでいると……いつしか矢が出現しなくなる。

 どうやら矢が尽きたようだ。
 仕舞っておくと、残りの本数が分からなくなるのが問題だな。

「……ふぅ、疲れた。そろそろ休も──」

「イム、本当に待ってちょうだい」

「……はあ。今度は何なんですか? せっかく休もうとしていましたのに」

「その敬語、気持ち悪いから止めなさいよ。全然敬ってる感が無いじゃない」

 うん、まったく尊敬の念とか無いしな。
 あ、ヒ……ヒサギ君にタメ口だったのは、彼のお蔭で高校生活をイジメ無しで生活できたかもしれないからだ。

 彼が居なければもしかしたら、イジメの対象は俺だったかもしれない。
 なればこそ、彼へと敬意を表してタメ口で会話をしていたのだ。

 ……えっ、それこそ敬意の念が必要?
 いや、本人が望む口調にしただけだよ。

「いえいえ、知らない人と話す時はとりあえず敬語ですよ」

「クラスメイトでしょ!」

「そうですね。たしかに同じ空間で勉学を共にした関係……ですが、それ以外に何か特別な関係でもありましたか? 貴女と関わった記憶はありませんし……名前も知りません」

「だから、鑑定を──」

「やらないと言ってるんですよ。一方的に名前を知って、貴女は虚しくありませんか?」

「そ、それは……」

 それって、ただのストーカーだろ。
 相手を知りたくて、勝手に情報を漁る。
 できたからやった──そう言うのは、たしかに簡単だろう。

 そんな犯人の供述みたいな理由で起きる小規模な事件は、きっと大量に存在するんじゃないか?

 少なくともそれはそう思う……まあ、それ以上に面倒臭いだけなんだが。

「ご、ごめんなさ──」

「ま、別に良いと思いますよ。コミュニケーションはまず、接触コンタクトを取るところからですしね」

「なら、なんで言ったのよ」

「……貴女が罪悪感を感じるように言っただけですよ。もうこれ以上関わらないでください。面倒ですので」

 うぎぎぎ……と唸る和弓女子。
 今時、そんな風に怒りを表す人ってまだ居たんだな……実に新鮮だ。

「それじゃあ、俺は矢を補填しに行かなければいけませんので」

「あっ……」

 付与魔法の練習にもちょうど良いしな。
 せっかくなので、いろんな効果を付与してみるか。

 ──目の前で俯く女子を放置して、さっさと矢の補充を報告しに歩を進める俺だった。


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