ストラーンヌィ〜妖物語〜

仇森龍

ストラーンヌィ〜妖物語〜

-前章-


歴史とは何か…
歴史には事実が載っている。しかしそれは事実であり真実ではない。人によって作為的に残った歴史もまた事実。
日本にも謎の期間がある。戦国時代…織田信長が天下目前に部下の明智光秀に倒され、豊臣秀吉が仇を取り、天下を治めた。そして豊臣秀吉は朝鮮出兵を機に没落していき、遂には豊臣家は徳川家康に滅ぼされた。誰もがそう学んだであろう。豊臣秀吉の朝鮮出兵さえなければと思った人もいるだろう。
 しかしその朝鮮出兵が実は秀吉本人も致し方なく行なったとすれば見方も変わってくる。それはある人物が引き金を引いたからである。本書はそんな人物の物語である。




-一章 久三郎誕生-


 波荒れる島…ウミガメが産卵を終え、蒸し暑い日々が続く屋久島。そんな七月の中頃、ある赤子がこの地に生を落とした。彼の名は久三郎。屋久島の地侍、日高義時の三男として生まれた。義時は地侍ながら屋久島で農業をしている。ここ屋久島では地侍は少なく農民や漁師ばかり。特に身分はあれどその壁は薄く地元住民みな穏やかで和気藹々としている。久三郎もそんな地で伸び伸びと過ごしていた。そんな平和な屋久島だが人々が入ることを禁止している場所がある。その地には神ではなく妖が住み着いていると言われている。屋久島の西南に位置する大川の滝…。大川の滝は実は滝の奥に洞穴があり、その先に妖がいると昔から言い伝えられている。久三郎はその洞穴の存在を知っていた。父義時からもきつく言われていたが久三郎が十五の時、好奇心に我慢できず大川の滝に行ったのであった。
久三郎「ここが大川の滝か…目の前まで来たのは初めてだな。この滝の奥に妖が住んどるんだな」
菅四郎「なぁ兄者。こっから先は本当にやばいって。引き返そうぜ」
2つ下の菅四郎は久三郎を止めようとするがその声が聞こえなかったかのように久三郎は洞穴の中に入って行った。菅四郎は追うことができずただただ久三郎が洞穴から出て来るのを祈って待つしかなかった。
ポチャン…ポチャン…(水が滴る音)
久三郎「ったく奥まで着いちゃったよ。妖なんかどこにもおらんやないか。所詮はおとぎ話か…」
(???「誰がおとぎ話だって」)
久三郎「!?。誰だ!?」
妖「誰とは無粋な。主はここが誰の住処だと思って足を踏み入れたんじゃ?このままいきて帰れると思うなよ。まずはお前を殺し、今日の飯の足しにするぞ。」
久三郎「待て!お前が妖だな。少し話がしたい。」
妖「ほう…わしのこの姿を見て話がしたいとな?面白いガキじゃ。なんじゃ言うてみよ。」
久三郎「実はわしには夢がある。この日ノ本の国を統べたい。そしていずれは日ノ本を出て海外の国に行ってみたいだ!しかしわしは三男…家を継げるわけでもなく、そしてこんな島に住んでたじゃ出世することもできん。ならば軍功を上げるしかない!だが島津家に出向いたところで世は秀吉の世…戦もあるかわからない。だから妖!お前の力を貰い受けたい!わしが戦の対象になり、わしの力で島津!豊臣を滅ぼし、新たな日ノ本をつくりたあげたいのじゃ!」
妖「ほう…なかなか気の狂ったガキじゃな。よかろう。わしの力をお前に授けよう。ただし条件がある。わしの身体をお前に授けるがわしの身体は人を喰らわないと朽ちてしまう。つまりお前は今日から化け物となり人を喰っていかないとならない。その覚悟はあるか?」
久三郎「わしが天下を統べるためじゃ!受け入れよう」
…ニヤとした妖はそのまま久三郎の口から体内へと進入していった。身体はバキバキと変わってゆきあまりの体の熱さに意識がもうろうとし、そのまま洞穴を出ていった。意識が戻り気が付いた時には大川の滝の前で寝ていた。周りには人の気配はなく、菅四郎の姿もなかった。あるのは誰のかわからない人間の片腕だけがそこに落ちていた。


-二章  赤鬼の出現-

菅四郎が姿を消してから早三ヶ月が経とうとしていた。表向きは海に流され、行方が分からずということになっている。探そうにも手がかりがないため、一向に進まない。しかしそんな時でも久三郎の元服の時は近づいていた。
義時「久三郎!お前ももう十五になる。これからは兄たちを見習い、共に日高家を支えてもらいたい。故に先日のように大川の滝に近づくなど以ての外。大人としての自覚を持て!今日からお前は日高久三郎義弘と名乗れ。」
義弘「はっ!兄者たちに引けを取らぬよう日々精進いたします。(はん!こんな家いつか出て俺は日本一の侍になってやる)」
元服の儀式が終え、義弘の心の中は野心に燃えたぎっていた。しかし一つ気がかりがあった。それは弟のことだ。あの夜、妖に人を喰らう人生を送ることになると言われ、気がついたら腕が落ちていたことだ。あの腕はとっさに洞穴の方に投げ入れてしまったが、もしや俺は弟を喰らってしまったのか…
自分の野心のためとはいえ、弟を知らず知らず喰らったことがショックでしかなかった。その日の島はいつもより雨が降っていた。
 翌朝、義弘は義時の言いつけを破り、もう一度大川の滝にやってきた。まだあの腕はあるのか?探しにきた。
ぽちゃん、ぽちゃん…
義弘「あいかわらず陰気臭いところだな。あの腕はまだあるか」
妖(陰気臭くて悪かったの)
義弘「!! 妖!急に話しかけてくるでない!驚くだろうが」
妖(いい加減慣れろ。わしの体はお前と一心同体なのだ。それにわしの声はお前にしか聞こえておらん。そのように反応すると周りのやつもお前をおかしく思うぞ。それになわしもそろそろ腹が減った。早く人間を喰うてくれ。)
義弘「そう簡単にいうな。人が一人いなくなればまた島全体が騒がしくなる。時を待て。」
義弘の独り言が洞穴の中で響き渡る。しかし音は一つではなかった。義弘の後ろから別の誰かの足音が聞こえてきた。義弘はとっさに岩陰に隠れた。
???「確かに義弘の姿が見えたんだがどこに行った?父上の言いつけをまた破りおって。」
義弘は隠れて正解だった。次男の義勝が義弘の後をつけていたのだった。
義勝「父上は、義弘の様子がおかしい。何か問題があれば切り捨てて良い、とのことだったがこれはどうしたものか…丁度新しい剣の切れ味を試したいから切っちゃおうか」
義勝は島の中では随一の剣の使い手だが少し歪んだ心を持っており、まだ人はないがよく島の動物を切ってまわってた。
義弘「まずい兄者に見つかってしまったな。ここはやり過ごして静かに退散するか。ここで兄者を手にかけるとあとあと厄介だからな…(…いや…ここで一度完全に妖化になれば俺ではなく妖のせいとなる…妖化の練習にもなるしいつかは知っておかないといけない…やるか)」
義弘は妖化する決意を固めた。洞穴の中は急激に温度が上がり、滴っていた雫は蒸発してきた。
義勝「な、なんだ!?この暑さは!えええい、尾行は終わりじゃ洞穴から出るぞ」
洞穴をでた義勝は後ろを振り向いた。暗闇の中に何か人でないものがいた。背丈は義弘と同じぐらいのように見えたが、明らかに体全体が赤く、角があった。そして何よりも右手がおかしい。人の形、色ではなかった。
義勝「あれが…島に伝えられてきた妖か?…完全に鬼、赤鬼ではないか!人ではないなら切られても問題はないはず。俺が切り刻んでやる!」
義勝の雄叫びと共に義弘の身体は瞬時に義勝の首を捉えた。首を右手で掴むと、義勝の顔と胴体は引き離された。だがその首は溶けるようにして離れた。妖化した義弘は意識が朦朧とする中、状況を確認することに精一杯だった。 
こと、そして義勝を殺したこと。その三つだけく、角があった。そして何よりも右手がおかしい。人の形、色ではなかった。
義勝「あれが…島に伝えられてきた妖か?…完全に鬼、赤鬼ではないか!人ではないなら切られても問題はないはず。俺が切り刻んでやる!」
義勝の雄叫びと共に義弘の身体は瞬時に義勝の首を捉えた。首を右手で掴むと、義勝の顔と胴体は引き離された。だがその首は溶けるようにして離れた。妖化した義弘は意識が朦朧とする中、状況を確認することに精一杯だった。

思考よりも身体が反応したこと、右手が異常に熱いこと、そして義勝を殺したこと。この三つだけはわかった。しばらくしたら妖化は解け、普段の状態に戻ったが義弘の心中は淀んでいた。妖化が慣れてきたことに対する喜びと二度も血を分けた兄弟を殺した罪悪感。大川の滝では血のついた岩が多く生まれた。その岩の上で義弘はある決意をした。  


続く

コメント

  • 仇森龍

    読んでくれてありがとうございます!
    拙い文章力でかなり読みにくかったかもしれませんが笑
    読みに行きますね!

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  • 花波真珠

    続き気になります…!
    更新待ってます!
    よかったら私の小説も読んでみてください!

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