俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ101 ぼくと契約して無能になろうよ



 魔物が人になる……その現象を、俺は一度この目にしている。
 他でもないサーシャ、学園における俺のご主人様(笑)がそうだからだ。

 かつては人であり、その後アンデッドになり──再び肉体を取り戻した。
 しかしそれは、価値の分からない指輪の恩恵によるものだ。

 対して、現状を把握しよう。
 目の前に居るのは透き通った髪色をした、三、四歳ほどの少女。

 限りなく白に近いこれまた輝く灰色の瞳をこちらに向け、己の体に触れている。

「おい、これってなんだ?」

「……たぶん、契約の影響だろうな。よくは分からないが……そうだ、ドラゴンの姿に戻れるか?」

『──できたぞ!』

「人化と竜化は自在に可能。俺が一方的に選べるわけじゃない、あくまで竜騎士としての対等なものか」

 サーシャの場合は俺が支配する感じで契約したので、アンデッドの姿には戻れない……というか、本人も戻る気が無い。

 だがこの契約の場合は、竜の姿になれないと俺も困ってしまうから戻れるのだろう。
 ……俺は幼女に肩車されて、空を翔けたいという願望は無いのだから。

「じゃあ次、さっきの姿のまま翼とか尻尾とかを生やすことはできるか?」

「──うーん………………どうだ?」

「同時にはできないみたいだな。こっちは時間を掛けて練習すれば、いつかちゃんとできるようになるさ」

「おー、やってやろう!」

 そう、俺と違って成長できるんだし。
 俺が同じ状態だったら、一か百かを常時選ばされていたんだろうな……。

 サーシャの時に分かったが、契約したからといって俺の体質までは継承しないようだ。

「だから、魔力をもっとくれよ?」

「ああ、それなら好きなだけやるよ。だからちゃんと、頼んだことはやってくれよ」

「分かった!」

 なんだかやる気が溢れているようで、今から練習を始めるハイト。
 ……言っておかないと、人の姿でいる間は服っぽいものを用意しないとダメなことを。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 魔力を喰ってから片言になっていたハイトが落ち着いた頃、移動を開始する。

 ……自分でもそれは分かっていたのか、瘴気に戻った辺りで頭を抱えていたため時間が掛かってしまった。

[朝政:ドラゴン、人化、至急来るべし]

[従者:り]

 ──なんてやりとりもあって、サーシャをかつて来た荒野に呼び出す。
 俺はそれを俯瞰できる位置から眺め、周囲の警戒をしてから合流する。

「おーい、サーシャーーー!」

 声の出所を探り──すぐに上を向く彼女。
 まあ、ドラゴンが居るんだら当然こうして移動するのが一番だろう。

 あと、新しく用意した幻覚を纏わせる魔法“虚実万化フェイクフェイト”を施してあるので、バレることもないと思う。

「──とまあ、そんな感じだ。チャットで先に説明した通り新人のハイトだ」

「……コイツ、怖い」

「いいか、この鎧騎士──サーシャは俺の護衛なんだぞ。ハイトが俺と闘う竜騎士なら、サーシャは俺を守る守護騎士って扱いだ。それにほら……魔力が繋がっているだろう?」

「……本当だ」

 存在の格というか、実は神器を常時装備しているサーシャの力に竜の本能が屈服を強要していたのだろう。

 まだ伸ばしていた尻尾を、股の下に隠して怯えていたが……俺の言葉で戻っていく。

 繋がりが俺を介して伝わっている。
 自分にとって目の前の存在が、敵対しなくとも良い者だと理解していく。

 俺の後ろに隠れていたが、おずおずと前に進み出る。

「ほら、挨拶だ」

「は、ハイト……です」

[サーシャ、よろしく]

「? なんだ、コイツ……」

 タブレットを操作し、宙に文字を浮かべるサーシャに首を傾げるハイト。
 そもそも文字を読めるか、確認するのを忘れていたな。

 さっき『竜王』であるアイツと言葉を交わせていたのは、竜の言語をアイツが話せるからだし、自動的にチャットアプリが翻訳しているからだ……つくづく便利なのだが、戦闘には直接関わらない利便さだよ。

 言語に関しては、あとで解決することにして……今は俺が通訳をする。

「さっきも言ったが、コイツはサーシャだ。人族ではないから、たぶんさっきの違和感はそれだと思うぞ──で、こっちはハイト。クリアドラゴンの子竜なんだが、わけあって契約をすることになった」

[わけ?]

「そこは説明していなかったっけ? 本当なら全属性の適正だって得られるところを、俺のせいで無属性しか持っていない」

[…………]

 無言である。
 サーシャも同じような感じで、もともとの体質がいっさいの適性を宿していなかったところを、俺との契約で無属性の適性を得た。

 まあ、その前から属性付きの武具とかを創造できるチートスキルの持ち主だったので、不便は無かったらしいけど……現状だけを比べれば同じなので、何かしら感じるモノがあるのかもしれない。

「なあ、アサマサ。このサーシャ……さんって、魔物なんだろう?」

「そうだが、それがどうしたんだ?」

「アサマサは人族どもがいっぱい居る場所に巣があるんだろう? ハイトも、そこに行っていいのか?」

「人の姿で居てくれるなら、別にそれでも構わないぞ。サーシャは学生としているから、いっしょに居られない時もある。そういうときに護衛をしてもらうことになるが」

 サーシャは魔物だとバレていないが、さすがにハイトはバレてしまう。
 なので最初からそういう風に登録しておけば、問題なく学術都市で歩かせられる。

「それでいい。だから、行ってみたい……」

「構わないぞ。暴れないって約束してくれるなら、別に問題ない。まあ暴れようとしてもサーシャがどうにかするだろうし」

[悪・即・斬]

「……みたいだし」

 まずはギルドに報告して、それからいろいろと関係各所へご連絡だな……やり方がいまいち分からないが、そういうときこそアプリで尋ねるべきだろう。


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