俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ99 口から飛び出る定番のアレ



「えっと、まずはごめん! 俺の適性魔力は無属性だけだから……その、他の属性はもう手に入らないんだ」

[……いいよ、別に。負けたのはこっちが見誤って挑んだ結果だし、何もしなかったら魔力を注ごうとはしなかったでしょ?]

「それはそうなんだが……事情を知らなかったとはいえ、この先君は無属性と竜固有の魔法だけで生きていかなければならない……それは間違いなく、俺の責任だ」

 竜固有の魔法とやらにも、そのドラゴンが持つ属性の適性が求められる。
 火属性のドラゴンなら火を噴き、風と水の適性を持つなら雨を降らせられるからな。

 だが、無属性ではどうしようもない。
 せいぜい足掻いても、他者へ己の魔力を与えるぐらいしかできないんじゃないか?

 しかもそれ、他のドラゴンもほぼ確実に使えるからな。

「──よし、ここに住めるようにしよう!」

[……へっ?]

「君を坑道の番人ならぬ番竜ということにして、ここで生きられるようにしよう」

[……あんまり嬉しくないな]

 あれ? そう言われると思ってなかった。
 ここに住み着いていたんだし、てっきりドラゴン君も喜んでくれると……。

[実はここに住んでいるんじゃなくて、隠れていたんだ……]

「隠れていた、ドラゴンの君がかい?」

[だから、あんまりここも居心地がいいってわけでもないし……]

 あんまり話したくはなさそうなので、この話はここで打ち止めに。

 しかし、そうなると選択肢がな……逃がしてもその逃げた対象が来たら、それでおしまいになるし。

「…………うちに来るか?」

[うちにって……アサマサの?]

「いや、こういう腕輪が有ってな。たぶん、これでどうにかなるだろう──俺と契約をして、騎竜になってくれないか?」

「騎竜?」

 資料に書かれていたことなのだが、騎竜契約とは竜のみに行われることが許された特別な契約のことだ。

 契約対象が死ぬまで一人としか結べないそれは、ドラゴンを無害にできるらしい。

 ……まあ、残念ながら検証していないということなので、あとは知っている奴に訊いてくれとのことだった。

 なのですぐに個人チャットで確認してみると、[やってみろ]とのことだ。

 契約自体はアキの宝物庫に置かれていた腕輪に補正が入っているので、とりあえずやることはできるだろう。

 だからこそ、サーシャとの契約もできたわけで……。

「騎竜っていうのは、人と契約を交わした竜種族のこと……らしい」

[らしい?]

「人族の言葉が分かるようになるし、魔力の共有もできるようになる……俺の魔力も好きなだけ持っていっていいからさ」

[ま、魔力もねぇ……ごくり]

 わざとらしく、唾を飲み擬音まで出して何かを伝えたい様子。
 うーん、肯定的に受け入れてくれているのか? 全然分からないな。

「契約……してくれるか?」

[魔力……ど、どんぐらい貰える?]

「そうだな──これぐらいだな」

 周囲に影響が及ばない程度に、魔力を掌に生みだして球状に留めておく。

 それを右へ左へ動かすと、ドラゴンキッズの縦に線の入った竜眼は追いかけるように目まぐるしく動いていた。

「たしか、食べられるんだっけ? まあ、欲しければやるよ」

[……な、なら貰うから]

 ふわふわと飛ばしたそれを、ドラゴンキッズは口を広げて待ち構える。
 先ほどと違い、口内からの摂取だが……何か意味があるのか?

 そしてそれは口内に入り、ゴクリと呑み込む音が聞こえる。
 ドラゴンはしばらく瞳を閉じ、経過すること数十秒──凄まじい轟音が鳴り響く。

[うっめぇええええええええええええ!]

「うわっ、なんだよ!」

[さっきのアレも凄かった、だけどこっちはもっとうめぇよ!]

 どうやら美味しかったようだ。
 魔力に味なんかあるのか? とも思うが、それ自体はそれができるヤツを知っているので特に気にならない。

 俺の魔力の味が旨い、という部分が気になるのだ。
 少なくとも普通の人族には、魔力を味で感じ取る感性は無いからな。

 まあ、ある意味不純物がいっさい入っていない的な意味では合っていると思うが……他の適性が無さすぎるせいかもしれない。

「それで、契約は?」

[やる! やるやる! 契約でも隷属でもやるから、さっさとやって魔力をくれ!]

「わ、分かった……ただ、ちょっと時間が要るから待っててくれ」

[できるだけ早く、そして多く!]

 俺の魔力には中毒性があるのか?
 サーシャはそういう反応を示さないし、このドラゴンキッズだけなのかもしれないな。
 まあ、魔力を魔石にでも籠めて調査してもらえばいいか。

 それはさておき、契約の準備を始める。
 これは竜の専門家──『竜王』に中継してやってもらうことだ。

 騎竜とは竜の騎士という意味なためか、契約には竜の王を介する必要があるらしい。

 そこで『竜王』の出番となる。
 アイツがチャットアプリのライブ映像機能で、祝詞を唱えるのだ……魔力は先ほど言った通りこちらに用意された魔力が籠められた魔石を使うことで代用できるので問題ない。

「──よし、準備完了。あとはやってもらうだけだな」

 女神様による謎機能によって、異世界でも使えるようになった俺のスマホ。

 だがチャットアプリしかできないと言われていたのに、賢者様がそれすらも解除……直接的ではないが、充分にチートだよな。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品