俺と異世界とチャットアプリ
スレ91 始まりは傍観と共に
鬼ごっこ……いや、逃走中が始まった。
凄まじい勢いで俺たちを追いかけてくる先輩に、俺たちはあの手この手でどうにか抗おうと策を練り続ける。
おそらくハンターであるクーフリ先輩は、気と魔力による索敵を同時に行えるうえ、五感での感知もできるのだろう。
そのうえ空間属性の適性によって、一定範囲にあるものをほぼ完璧に把握できる。
「──くそぉおぉぉおぉお!」
哀れな男が絶望の声をあげていた。
これで成績のおまけとやらは無くなったわけだし……そもそもその恩恵を求めているのは、勉学が足りないアイツだけだし。
すでにファウが確保されている。
最初の内は気を緩められると思っていたせいで、よくある投入された瞬間に捕まる逃走者役をさせられたわけだ。
そのため残っているのは慎重に動けるフェルとアルム、そして戦闘知識が豊富で特殊な武具が創れるサーシャと平凡な俺だけだ。
……もともとの参加者が少なすぎて、減っている感が無いな。
「……次」
ボソリと呟いたクーフリ先輩は、魔力の高まりを俺たちに感じさせた瞬間──その場から消える。
そして次の獲物の下へ向かい、すぐに確保するのだ。
「いやー、大変そうだなー」
そんな光景を見守る俺。
かなり調子に乗っているのだが、クーフリ先輩が来る様子はない。
「おい、アサマサ! お前だけズルいぞ!」
「やれやれ、負け犬の僻みだな」
「誰が負け犬だ!」
「……卑怯」
捕まった二人は現在、土魔法で簡易的に用意された檻の中に閉じ込められている。
そして俺は、その隣で食事や木の棒で遊びながら彼らやリアル逃走中を観ていた。
──うん、まだ参加してないんだよ。
クーフリ先輩が『やっぱりあとで』となぜか言ってきたので、俺は檻の傍で時間を潰しながら待機しているのだ。
そんな俺の隣には砂時計が置かれている。
砂の量はまだまだ残っているが、これが尽きるか俺以外全員が確保された場合は、すぐに俺の逃走もスタートという流れだ。
「というかブラスト、手抜きなファルはともかくすぐに捕まったな」
「むっ」
「いや、事実だったろう?」
「……油断してただけ」
それがアウトなことは、同じく捕まったブラストも理解しているため何も言わない。
だが俺の言ったことを思いだし、改めて怒りの台詞を発する。
「お前だけ有利にスタートできるなんてズルいぞ! 俺だって、お前と同じように様子が見れたらきっと……」
「いや、仮定で話すなよ。俺だって、正直まだ掴めてない部分が多いぞ?」
「そ、そうなのか?」
「相手は序列二位だぞ? そんな簡単に隙を見せてくれるわけないだろ」
序列二位であるクーフリ先輩、つまりそれは学園において勝てる者がたった独りしかいないということ。
迷宮であった『大賢者』よりも、圧倒的な力を持っているわけだ。
先ほどから転移をする際はわざと魔力を放出しているようだが、その量すらも上手く調整しているため最大量が未だに不明である。
分かっている範囲でも、その量はXクラス全員の総量を超えている……うん、凄い。
「な、なら全員捕まるんじゃ……」
「いや、それは無いだろう。どれだけ相手が強かろうと、サーシャ様なら問題ない」
「マジで!?」」
「そりゃそうだろう。俺はたしかにそれなりに強いけど、俺に武術(の一部)を教えてくれたのはサーシャ様だぞ」
模擬戦でサーシャの戦闘力を知っているブラストなので、俺の言葉にしっくりときているようだ。
ただ、サーシャの創造能力はいっさい開示していないので切り札なんだよな。
「くそっ」
「くやしいわね」
そんなこんなで時間を潰していると、俺たちの下に二人の確保者が輸送されてきた。
触れられた逃走者は、空間魔法によって自動的に檻の中へ転送されるのだ。
「ぷははははっ、なんだよフェルとアルム。お前らまで捕まったのかよ!」
「……いい気味」
「アンタらねぇ……」
「ファウ、お前のは自業自得だ」
捕まったのはフェルとアルム、どちらも努力はしたようだが……さすがに時間経過で少しずつ探知能力を高めていたクーフリ先輩には敵わなかったようだな。
「おー、二人ともお疲れさん。サーシャ様がここに来るまでゆっくりとしていけよ」
「アサマサ、アンタも余裕そうねぇ」
「そりゃあそうだ、俺は自分の主をしっかりと信じているからな」
「たしかに……相手が序列者といえど、可能性はゼロではないか」
アルムもサーシャの力の片鱗を認識しているため、そういった考察ができている。
ただ、武術抜きで考えるのが今回のゲームなので、俺と同等の推測ではないだろう。
「俺だって、さすがに無策で挑むなんて無謀じゃないぞ? だからこうして、しっかりと準備はしているんだ」
「……これでか?」
「何か問題があるのか?」
俺だって、ただ魔力を解き放てば勝てるとは思っていない。
どれだけ強固な結界を張ろうと、内側に転移でもされてば即捕縛だからな。
「だけど、さすがにこれは……」
「どんな物だろうと、使いこなすことを強要されていたからな。たとえこういう物でも、有効的に活用するんだよ」
数十分後、サーシャがこの場に現れる。
そして──俺の出番となった。
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