俺と異世界とチャットアプリ
スレ89 求めよさらば与えられん
「いや、自由時間だよな」
そのことに気づいたのは、自由時間が開始してからのことだ。
他のみんなは遊びに行き、各自やりたいことをやっているというのに……俺だけ再び森の中へ向かい、狩りを行っている。
とは言っても、一度検分しなければ食べられる食材かどうか分からない。
いつの間にかハルカが作成したアプリの中に、それが分かる機能も増えていたが……彼女はいったい、どこを目指しているんだ?
「おっ、これはいけそうだな」
試しにスマホのカメラに集めた素材を映してみると、毒があるかどうかやどういった調理方法がダメなのかが表示される……いや、本当なんで分かるんだろう。
「時々素材は送っているけど……ここのはまだやってないよな?」
異世界の素材を持ち込んだ者など、俺の知り合いにもかなり居る……何かトラブルがあると、それを使ったりそもそもそのアイテム自体がトラブルの原因な場合がかなり多い。
ただ、使いきりのアイテムはいずれ尽きてしまう……一部の者たちは自家栽培や培養などにチャレンジしていた気がするが、成功する前に尽きてしまう場合が多かった。
そんなとき、俺が異世界に召喚されたということで注文が入ったのだ……普通、異世界に来てまでお使いをするっておかしいけど。
──魔力を持っている素材は、地球で探そうとしたら見つかりづらいのだ。
「あっ、これ錬金に使えそうな毒だな。それにこれも……いや、宝の山だなマジで」
そうしてカメラで映す素材たちは、話に聞いていたレア素材ばかりだ。
楽しみながら素材を調べ、料理に使えそうな物を選別していく。
これ、鑑定を持っていたら分かっていたのかな? なんだか分かる情報が、明らかに多い気がするが……うん、いろいろおかしい。
新鮮な物、という要求もあったが……そもそも“虚無庫”に入れておくと、任意で望んだとき以外、自動的に時間が停まっている。
なので、俺がどのような素材を使ったとしても、それは新鮮な物という条件を見たいしている……なんて詭弁も使えるわけだ。
もちろん、美味い料理を喰ってもらいたい気持ちがあるので、そこは抜からないが。
「とりあえず、満足がいく料理を目指してみようか……けど、こっちの世界と地球で味覚に微妙に違いがあるしな」
これまで食堂などで食べてきたので、ある程度差異も把握してはいる。
だが、俺好みの味付けはさほど変わらないし、何より求められているレベルはそう高いわけじゃない。
「一流シェフを目指しているわけでもないんだし、たまに食べたいなーと思ってもらえるぐらいの味付けを目指しますか」
難しくはあるが、誰かのために料理を作るというのはやりがいを感じることでもある。
何より、それは日本に居た頃から思っていたことだ──誰かのために、才能が無くても友をサポートできる何かをしたいと。
◆ □ ◆ □ ◆
『…………』
「あ、あれ?」
そんなこんなで丁寧に料理を完成させ、晩御飯の時間にそれらを提供する。
米はまだ見つかっていないので、パンに合う料理を並べてみたわけだが……どうして、誰一人として言葉を発してくれない。
最初は西洋のフルコース的なものを用意しようと思ったのだが、育ち盛りの学生に提供するのはどうかという考えに至り──パンに挟んで好きに食べられる、ビュッフェ形式で提供している。
それぞれの料理に食欲増進のスパイスを混ぜているので、女子たちでも満足のいく食事ができると思う。
けど、みんな何も言ってくれないんだよ。
──せめて一言、美味いと言ってほしい。
「な、なあ……どうなんだ?」
『…………!』
「あっ、いえ……お楽しみください」
ギロリと向けられた視線、その威圧感に反応したせいか敬語を使ってしまう。
いやまあ、別にいいんだけどさ……それよりも、早く感想が欲しい。
「な、なあ……アサマサ」
「どうした、ブラスト? その肉にはこっちのソースが合うぞ?」
「マジか……じゃなくてだな。これ、本当にお前が作ったのか?」
「いや、試食しに来ただろ」
まだ二割ほどしかできていなかった頃、匂いに釣られてブラストが試食しに来た。
味が合うかどうか調べてもらったんだが、そのときは普通に反応してくれたぞ。
「おっ、マジでうめぇな……サーシャはずっとこれを食ってたのか?」
「サーシャ様には相応の料理が必要だろ? 俺の料理はあくまで男の雑な料理だし、まだまだ師匠からすれば半人前なんだよ。だからこれじゃなくて、予め用意していた店の物を食べてもらっていたよ」
実際にはアンデッドなので、俺の生命エネルギーや魔力が主なご飯だったな。
まあ、料理を食べることもできるので、今もいっしょに食事をしてはいるが。
「……アイツらが言わねぇから、俺が代表して言うぞ。そのお前の師匠とやらの話は置いておくとして、ハッキリ言って今の今まで一番美味かった」
「おっ、そりゃ嬉しいことを言ってくれる。なんだ、デザートも欲しいのか? それなら今から簡単な物を作ってくるか」
「いや、そうじゃなくてな……」
「──あいよ、デザートは六人か。ブラストも食べるか?」
無言の圧力が追加を要求してきた。
なら、俺もそれに応えるだけだ。
「いや、俺も食うけど……六人?」
「お前も食うなら七人だな。ちょっと待っててくれ、今すぐ始めるから」
何を不思議に思っているか分からないが、料理を求める奴らのために、追加でデザートの作成を始める。
いやはや、しっかりとできていて本当によかったよ。
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