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山田 武

スレ87 常識とは破るためにある


『属性魔法ですか? あれは魔力を扱いやすいイメージで固定して、使っているのです。ほら、本当だったら炎は白色がもっとも高い温度ですが、アニメなどでは赤色。あれはそれが相応しいのだと思われているからです』


 属性適性とは、どれだけイメージした現象とシンクロできるかという度合だ。
 高ければ高いほどその者のイメージは魔法に反映され、より強力な現象を引き起こす。

 逆に低ければ低いほど伝わりづらく、まったくないのならば変換すらできない。
 ──本当に、そうなのだろうか?

 現に指輪という触媒があるとはいえ、俺は適性の無い闇属性の魔力を扱えている。

 これは闇魔法が使える、のではなく指輪が生成した闇属性の魔力を操ることで、擬似的な闇魔法として行使できるという意味だ。

 属性魔力は誰にでも操ることができるが、適性が無い分より多くの対価が必要となるのではないか?

 指輪はある程度抑えられているが、それでも普通に闇魔法を使うよりは魔力を使う。

「虚無、虚空、エーテル、元素、操る、結び付く、対価、変換──“第一質料マテリアル”」

 だからこそ、このイメージとなった。
 膨大で有り余る魔力チートを骨の髄まで酷使することで、ごく少量の自然現象を強制的に引き起こす魔法だ。

 森羅万象が自然現象と深く関わるのであれば、第五元素と呼ばれる虚空の力──エーテルもまたその法則から外れてはいない。

 しかし、その具体的な内容は分かっていない……なら、魔力が歪めればいいだけだ。

「変換。エネルギーを雷に──“虚雷ブリッツ”」

 魔力の一部が現実に影響を及ぼし、電気の力を生みだす。
 それを強引に虚無の力で包み、支配下に置いて──地面に流し込んでいく。

 摂理を捻じ曲げるのが魔法なのだから、これぐらいのことは可能だろう。
 無尽蔵の魔力をその現象に注ぎ込み、ありえないほどの電圧を生みださせる。

 その結果、魔物たちはいっせいに悲鳴を上げる間もなく肉体を光らせた。
 雷は稲光を以って魔物たちを輝かせ、体を焦がし内部をズタボロにしていく。

「うわぁ、えげつねぇ……」

 なんだかやってしまった感があるが、独り精霊魔法……みたいな感じだと思えば、あまり不思議なことでもない。

 あれだって、できる奴にやってもらっているのだ──案外、似たようなことだろう。

「これで一帯の魔物は全滅かな? とりあえず、周囲に敵影は無しっと」

 探知を解除し、ホッと一息吐く。
 呼び寄せた分の魔物は今ので殲滅が終わったようで、ようやく休憩ができる。

 とりあえず“虚無偶像アバター”にあとのことは任せておいて、俺は“虚無庫ストレージ”を彼らが回収したアイテムを入れられるよう展開するだけ。

「ちょっと眠い……一休みしないと」

 低スペックなので、先ほどの開発に一瞬だけ脳の限界を超えかけてしまった。
 容量を超えた効率の悪いやり方は、確実に俺の処理能力を削ることになる。

「制御できるか? “虚無纏装ボイドオプション”」

 使ってみると、強く意識せずとも魔法が維持できるようになる。

 つまり、先ほどの“虚雷”もそうなのだろう──試してみると指先に微弱な電流を迸らせることに成功した。

「よし、これで満足──寝ようか」

 木に体を預けて立ったまま寝る。
 こういった状態でも寝られるようにと言われ続けたので、意識はあっさりと昏い闇の中へ沈んでいく。

 ──俺、魔法使いになりました。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 朝政の様子を監視していたキンギルは、彼の行動に目を疑うばかりだった。

「今のは雷魔法? いや、彼の属性は異質な無属性だけだったはず……どういうことだ」

 朝政の闇魔法が触媒を介してのものだということを、上の者たちは把握している。
 そのうえで序列者としての力があることを理由に、退学とせずに野放しにしていた。

「また異なる魔道具、というレベルではないだろう。あれだけの威力を誇るのであれば、神器の類いということになる」

 神が人に与えた、または地上に置き忘れた遺物──神器。
 現象として魔法を超越した力を発揮するそれは、理から外れた概念とも呼べる。

 たしかにそれがあれば、適性があろうが無かろうが魔法を使うことはできる……だが、神器には固有の反応があり、それを見逃がすようでは監視役として使い物にならない。

「君なら分かるかい──サーシャ君?」

[…………]

 キンギルは朝政を森から離れた場所で監視していた。

 それは朝政の探知範囲から逃れるという理由に加え、中へ向かおうとすると狙ってくるサーシャから逃れるためでもある。

 今もなお、黒塗りの短剣を握り締めたサーシャは、キンギルに素粒子を凍り付けるほどの絶対零度の視線を向けていた。

「異世界人、もしくはその子孫である彼には特異な力が宿っている。まだ誰も見たことがない無魔法の可能性、それだけでも対抗戦で証明してしまった。それに、今代の勇者はすでに一人死んでいるらしい」

[何が言いたい]

「かつての勇者はその力ゆえに、すべてを捨て去りこの世界を去った。彼もまた、同じ道へ向かってしまうのではないかい?」

[ありえない]

 サーシャはただ、そう伝える。
 初代勇者と朝政には絶対的な差があり、それこそが彼を彼のままであることを促す。

 だからこそ、即答で否定を伝えた──そのことを知っているから。

「……そうかい。さて、君はこれからどうするのかな?」

[迎えに行く]

「分かったよ。なら、一つ言伝を頼むよ」

[り]

 そして少しすると、その場にあったはずの痕跡は、何一つとして残されることなく消えたのだった。


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