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山田 武

スレ81 ヒーローショーは民衆の娯楽



 歓声が至る所から上がる。
 そのすべてが、『ジャスティス』──我らが生徒会長の登場に歓喜するものだ。

「おうっ……なんだこれ」

 テレビで見ていた戦隊ものと、こうして現場で見るのとでは全然違うようだ。
 経験はないが、撮影の時とかはこんな感じなのかもしれない。

『お嬢さん、ここは危険だ。すぐに安全な場所まで下がってくれ』

「は、はい……その、あ、ありがとうございます!」

『君のような可憐な少女が、悪党たちの手にかけられなくてよかったよ。さぁ、早く遠くに行くんだ』

「わ、分かりました!」

 ヒーローという概念を知る異世界人としては、そのヒーロースーツから何からツッコみたい要素が満載だ。
 だが、こちらの人々からすればそうではないのだろう。

 誰一人として、その格好に嘲笑の声を向ける者はいない。
 純粋に、悪事を許さない正義の味方に感謝しているようだ……まあ、知らないのかプラスな形で受け止められているのか。

「ふ、ふざけんな! おい、オメェらやっちまうぞ!」

『へ、へい!』

 いつの間にか集まっていた悪党の仲間、彼らと共に悪役はヒーローに挑む。
 さすがに黒タイツに身を包んではいないものの、その纏う空気と台詞セリフ……物凄く雑魚っぽい雰囲気なんだよな。

『ふんっ、纏めてかかってこい』

「や、やっちまえ!」

 そこから始まるのは、当然ヒーローによる一騎無双である。
 番組的に言えば、幹部の怪人も登場していない状況なのだから仕方がない。

「そして、そんな戦いを喜ぶ人々……刺激に餓えてるんだな」

 娯楽が少ない異世界だ。
 どれだけ地球の知識を俺たちが持ってこようと、そのすべてを再現することは不可能。

 だからこそ、はるか昔から求められていたもの──血と闘争を楽しんでいる。

「そういうところから考えると、戦隊も仮面も……女戦士もバトルだしな」

 というか、バトル要素でもないと売りづらいのだろう……って、こういう話は気にしてはいけないな。

 今も会長は、悪党たちと戦っている。
 さすがに光線銃は持っていないし、このような場で剣を使うこともない。

『──残るのはお前だけだ。大人しく、衛兵たちに捕まれ』

「誰が……誰が諦めるかよ!」

『なら、一撃で終わらせてやる』

「うぐっ……かはっ!」

 肉弾戦のみで会長は悪党を掃討した。
 パンチとキック、つまり魔法は使わなかったわけだが……そういえば、必要以上に攻撃魔法を使うのは禁止だったっけ?

『あとはお任せします』

「ハッ! ……おい、すぐに連行するぞ」

 気絶する悪党たちを、衛兵たちは縄で縛りあげて詰所に連れていった。
 会長は一息吐いたあと、観ていた人々と先ほどの被害者に声をかけて去っていく。

「ふぅ……本当に気づかれなかったな」

 かつてブラウン先生に言われた通り、何もしていない状態の俺はどうやら気配がとても薄いようだ。

 常時展開していた“虚無重圧アンリミテッドプレッシャー”を解除し、その当時の状態を再現していた。
 ──意識しているせいか、当時よりも存在感が無くなっていたけどな。

 観るべきものが無くなったことで、人々は元の生活へ戻っていく。
 被害者の少女もまた、本来の目的であった買い物をこなしている。

「ずっと不思議だったんだよな……怪人が暴れた後の街がどうなっているのか」

 正義の味方の拠点が同じ場所だとしたら、現れる場所も大して変わらないだろう。
 つまり、悪党は何度も街に害を及ぼす……なのに人々が減る様子はない。

「信じているんだよな。信じる英雄を」

 彼らが居れば、安全だと。
 わざわざ別の場所に引っ越さずとも、平和な日々で居られるんだと。

「…………」

 そんな正義の味方に目を付けられ、嫌われているっぽい俺っていったい……。
 少々悲しくなるが、アイツらとの出会いにはそういうパターンもあったからもう慣れた気がする。

「帰るか」

 必要な物は買った。
 遠征に向けて支度を始めようじゃないか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そして、遠征当日である。
 俺たちXクラス、そして一学年の生徒たちは、かつて入学式が行われた講堂に集められていた。

 そのときと同様、学園長によるありがたいお言葉が授けられる。

「新たな序列者が現れた! それだけの実力が彼にはあり、それをこの街が認めた。入学式で言った通り、この学園は強さ至上主義。彼はその力を以って、自身が序列に相応しいと認めさせたのだ」

 今回は俺もちゃんと聞いていた。
 ……寝ようと思ったんだが、俺の話題が出たせいでサーシャが起こしたんだけどな。

「彼は従者、そして素性も分からない。だがそれでも、この学園は彼を受け入れる。なぜなら、彼は強いからだ!」

 そんなに力強く言うことでもないと思うんだが……しかし、そう思うのは俺だけらしく周りはいろいろと考えている。

「さぁ、本題に移ろう。君たちは遠征を経て確実に強くなる、彼に挑戦した者ならそこに圧倒的な力の差を感じただろう。彼はこの学園に来る前に単独で迷宮を攻略していた。つまり、それだけの実力があったのだ」

 学園に入学する際、そういえば経歴を書いた気がするな……実績の部分に、サーシャが居た迷宮を攻略したと書いた気がする。

「遠征は君たちの実力を確実に高める。そのサポートには上級生も付く、今は失敗してもいいんだ。迷わず試せ、そして強くなれ! ──これより、遠征を開始とする!!」

 そう言って、学園長は始まりを告げた。
 ……俺にとって、面倒事ばかりのイベントの幕開けを。


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