俺と異世界とチャットアプリ
スレ80 困ったときはヒーローが
学園モノの作品と言えば、飽きることのないイベントであろう。
入学式から騒動を起こし、やがて学園内での地位を高めていく……主人公によっては、そのあとハーレムとか創るんだよな。
「──遠足か……」
[先輩との交流]
「ああ、そういう目的なのか」
つまり、先輩もセットで同行か。
俺の学校だと、遠足は学年ごとに別々で遠足してたんだよな……あの頃は才能の差なんて気にせず、遊べていた気がするな。
「けど、外に行くのか……ふらっと勇者たちに遭わないといいな」
[しっかり守る]
「頼りにしてるさ。ただ、それでもな」
運がいいのか悪いのか、今までは一度としてエンカウントしていない勇者たち。
まあ、初期は修業をやっているので当然だとは思うが……すでに数ヶ月の時を経ているので、外に出ている可能性が高い。
[行き先は森]
「みんなで手を繋いでピクニックってところか? そして、楽しく動物たちと戯れるまでがワンセットだよな」
[間引き]
魔物を放置すると群れを成し、いっせいに暴れ回る特徴がある。
原因はまだ分かっていないらしいが、誰かがそういうシステムだって言ってたな……。
「ちなみに、誰がどこに来るとかそういうのは決まっているのか?」
[クラスごと。AはA、SはSに]
「つまり、Xクラスは誰も来ないのか」
[たぶん]
ブラウン先生曰く、このクラスには序列二位を誇る先輩の他にも生徒が居るらしいんだが……誰一人として、顔を出さない。
引き籠もりだったり、外国遠征をずっとしていたりと自由奔放なクラスメイトである。
[それに、序列十位がいる]
「……面倒事はお任せってことか?」
[会長命令……らしい]
「どんだけ根に持ってんだよ」
序列入りするための洗礼として行われた、集団リンチを覚えているだろうか?
会長──つまり『聖義』である四位の生徒会長の配下もまた、俺に使いを出した。
当然、勝つ理由があったので油断せずに倒したわけだが……恨まれてるんだよな。
ちなみに九位は有耶無耶に誤魔化したらしく、問題ないらしい……世の中やっぱり、要領が良い奴が生き残りやすい。
「ところで、いつやるんだっけ?」
[一週間後]
「なら、支度をしないと……幸い、こっちだと収納魔法に好きなだけ荷物を仕舞える。いちおう従者だし、サーシャの物もできるだけ入れておこう」
[楽しみ]
そういえば、最近はクラスメイトたちが多く会話をしていた気がする。
俺はしていないので意識してなかったが、このイベントのためだったんだろうな。
鎧甲冑に身を包んでいるサーシャにも、クラスメイトは平然と話しかけている。
現代日本であれば、確実にイジメられるような見た目なんだが……異世界は種族的特徴などで違いがいっぱいあるからな。
サーシャはどうやら、遠征中にそんなクラスメイトの女子たちと何かをするんだとか。
フェルならともかく、まさかファウもそのプランに参加するとは驚きだ。
「それじゃあ、街に買い物でも……ああ、それも約束しているのか?」
[そう]
「そりゃそうか。なら、俺の買い物の護衛だけでもしてくれるか?」
[り]
サーシャの従者として学園に通う俺だが、序列に入ってもその立場は変わらない。
どうせなら学生として正式に認定してくれてもいいのに……まあ、今の居場所に居心地の良さを感じているからいいんだけどさ。
「よし、じゃあ行くか」
[り]
お金は序列入りで割引を効かせていることもあり、そこまで貧しくない。
それに、最近迷宮で一儲けしたこともあって財布は温かいのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
買い物は順調に進み、アイテムが揃う。
アキが残してくれた遺産(笑)もあるのだが、あれは貴重すぎて世に出せない物ばっかりで使えない。
なので、アイテムは自作している──今回買っているのは、便利な魔道具を作るための触媒や素材である。
……だって、便利なんだもん。
そうして主に錬金術や魔道具関係の店を巡り、必要な物を買い集めていった。
それなりに散財し、それらを収めて寮に帰還しようとしたそのとき──
『キャー!』
街のどこかで甲高い声が聞こえた。
俺とサーシャは一瞬で意識を切り替え、その現場へ向かう。
(だって、暇だから)
そんな不遜な理由で行った先では、なんとも王道な光景が繰り広げられていた。
「いやっ、放してください!」
「へへっ、こりゃあ上玉だよ。なーに、ちょいとお茶をしてもらうだけさ」
「は、放してください……え、衛兵さんを呼びますよ!」
「……ピーチクパーチク囀りやがって。そろそろ俺の言うことを聞けよ」
ずいぶんとまあ、煽り耐性が低いな。
速攻でキレた哀れな加害者にして被害者を見て、覘いていた俺たち観客はそんなことを思った。
この街で騒ぎを起こすものなら、必ずアイツが現れる──なんだかヒーローの宣伝みたいだが、実際そのイメージである。
俺も初めて見た時はそう思った、というか違和感を覚えずにはいられなかった。
『──そこまでだ、悪党!』
それは演劇のように、舞台のように。
高々な宣言と共に、ソイツはどこからともなく現れる。
『私が居るこの街で、お前のような悪党に悪事は働かせない!』
「な、何者だテメェ!」
『誰かだと? 決まっている──!』
ヒラリとマントがたなびき、気が付けばソイツは男の傍に居た。
そして、流れるように女性をそこから救いだし、安全な場所に移動させてから──
『私は、この街を守る『聖義』の味方! アウェイオンの使者──『ジャスティス』!』
そう、それこそまさにヒーローのように告げるのだった。
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