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山田 武

スレ78 目の痛みにはあの台詞



 スクールライフは少し変わった。

 翌日すぐには変化が無かったのだが、正式な通達が届いたからだろう……新しい序列者がどんな者なのか、その真相を知らない者たちが様子を窺いに来たのだ。

 ──もちろん、ソイツらと友好的に接する必要はない。

 レイルのように王子様を演じるともかく、『悪逆従者』と呼ばれている俺に優しさは必要とされていないからだ。

「──このように、錬金術は理論だけを理解してもダメです。完成後のイメージをしっかりと固めることが、より品質を高めるために重要なこととなります」

 俺たちXクラスは現在、錬金用の工房で授業を受けていた。

 そこはそのために造られた場所ということもあり、特殊な魔道具や貴重な素材のサンプルが大量に置かれている。

 我らの万能教師ことキンギル先生は、座学だけでなく実技もバッチリ教えることができるようだ。

 今も実例を見せるように魔法陣に魔力を流し、ポーションを生みだしている。

「……そっか、これがこっちでのポーションの作り方なのか。術式もそうだが、使う機材もアレなんだな」

「お前の国だと違うやり方だったのか?」

「ん? まあ、そうだな……ちょっと特殊なヤツが多かったんだ」

 俺の呟きを聞いたのか、ブラストがそう訊ねてくる。

 魔法で創造したり、迷宮を介して召喚したり……もちろん普通に作るヤツもいたが、それはそれで不思議な光景だったな。

 魔力を感じ取る才能をアッチでは持てずにいたので、いま覚えば仕方ないんだけど。

「けど、知っているだけでやり方を実践できるわけでもない。やったことはないが、なんでもやってみることが大切だよな」

「おう、そうでなくちゃ! それじゃあ、まずは俺からやってやるよ!」

「ブラスト君、あまり気を持ちすぎるのも問題ですよ」

 ノリの良いブラストが、まず誰よりも早く教えられた通りの方法で錬金を始める。

 魔法陣の上に置かれた薬草と魔力の注がれた水──魔力水が入った容器に薬草を入れると、念じるように自分の魔力を籠めていく。

 やがて透明だった水に色が付着し始め、ボコボコと泡を吹きだす。
 薬草の効能が魔力水に浸み込み、俺たちで言うポーションになるのだ。

 だが、泡の数が少しずつ増えていき……まるで沸騰したかのように勢いが高まる。
 それが何を意味するのか、察しの良い者であればすぐに分かった。

「──“魔力壁ウォール”!」

 自分と、それに周囲の者たちを包むように壁を構築する。

 それぞれがそれぞれで対策をしているんだが、俺は従者という立場なので必ずこうする必要があった。

 ボムッという音と共にそれは起きる。
 水蒸気爆発のように唐突に、中身がはじけ飛ぶように炸裂した。

 対策をしていたのでダメージは無かったのだが、目の前でその作業を行っていた張本人は……。

「目が、目がぁ~!」

 張り切って挑み、魔力の制御を怠った結果がこの惨状である。

 クラスメイトはやっぱりかというポーズを取り、キンギル先生は布に状態異常を回復するポーションを浸してブラストの目の上から被せた……あれ、意外と効くんだよな。

「ブラスト君、大丈夫ですか?」

「あっ、はい……大丈夫です」

「今はポーションを眼の上から浸透させていますが、眼が慣れてきたら自分で状態異常回復のポーションを一本飲んでください」

「うげぇ……分かりました」

 薬草を抽出して作っただけのポーションなので、当然味は不味くなっている。

 俺が気になったのはそこら辺だ、アイツらの飲んでいたヤツを分けてもらったらだいたい美味しくてもう一本と言えた。

 渋々ながら、言われた通りにポーションを飲み干すブラスト。

 口に含んだ途端苦々しい顔を浮かべていたことから、やはり味に関しては期待してはいけないことがよく分かる。

 本当なら、とっくに分かってもよかったことなんだが……一度も使わなかったしな。
 これまでの旅、よく一度も回復アイテムを使わずにやってこれたよな。

「イイですか? ブラスト君が失敗したように、錬金術は繊細な技術が必要となります」

「……ふんっ、見ての通りだな」

「どれだけ強大な魔法を使える魔導士でも、錬金術ができなかったという話があります。また、魔法使いとして台頭できなかった者が錬金術師として有名になった話もあります」

「コントロール?」

 ヴィクリー兄妹アルムとファウが補足する。
 まあ、ブラストを茶化しているようだが悪意も無いため先生も窘めず、そのまま説明を続けていく。

「要するに、魔力の量があれば良いというわけではないということです。ファウ君が言うように、コントロールをしっかりと整えることで錬金は正常に起動します。もう一度行いますので、魔力に注目してくださいね」

 魔法陣に流す魔力を見れば、たしかに均一に魔力を注いでいた。
 起動した後はその量を少しずつ増やし、またゆっくりと減らしていく。

 そして、ポーションは完成した。
 綺麗な緑色に輝く、健康ドリンクなどとは似ても似つかない一品である。 

「では、皆さんもやってみましょう」

 そう言われると、俺たちはさっそく錬成用の魔法陣に向き合う。
 そして、魔力を魔法陣に注ぎ──。


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