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山田 武

スレ66 ボールは相棒



 かつて、一人の男がこう言った。

『戦いってのは慣れだ。初めは震えていた新兵も、時間が経てば平然と人を殺す。だが闘いは違う。あれは究極的にはずっと一対一を繰り返しているからな、責任は自分にだけ存在する……まあ、要するにりたい放題ってわけだ』

 戦いと闘い、同じ響きではあるが意味合いの違うこの二つの字を使った言葉こそが──『戦闘』だ。

 あらゆる行為がそれへ該当し、その用途は多種多様と言えよう。

「──何が言いたいかって? これが序列の皆さまからの洗礼ってことだろ」

 そんな意図を知らない学生を使った、新たな後輩への祝福イジメ

 ずっと一対一の闘いをやらされているようで、裏では俺対他の序列の方々という戦いが行われているのだ。

「おい、嘘だろ……あの従者、もう今日だけで十人は倒してるぞ」「何か細工でもしているんじゃない?」「そうだ、従者の分際で勝てるはずがない!」

 従者、という理由だけでそこまで言われる筋合いはないと思うんだが……強化した聴覚で捉えた会話にツッコミを入れてしまった。

「隙あ──ッ!」

「り、だと思ったら大間違いだ」

 剣士の生徒だったんだが、振りかぶりが少し大きすぎたな。
 剣の柄で顎を叩き、そのまま気絶させる。

「ハァ……疲れた」

 気絶したことで生徒は退場し、辺りの至る所からブーイングが上がる。

 バッシングの内容を聞くのもいいが、先ほど挙げたものでもかなり内容が優しいものなのでこれ以上は聞かない方がいい。

 そして、今度は黄色い声が上がる。
 俺はそれに深いため息を吐く。

「卑怯者め、俺が貴様を倒し新たな序列持ちとなってやろう」

「あーはいはい、畏まりました。どうぞご自由にお攻めくださいな貴族様」

「貴様……馬鹿にしやがって!」

 挑発に弱いお坊ちゃんは、それだけで冷静さを失ってくれるので楽で楽で仕方ない。
 激高と共に吶喊してきた彼の攻撃を紙一重で避け、今度は金的をぶち込む。

「あーっ!」

「すみません、貴族様。私は従者なものでして……貴族様のような素晴らしく美しい闘いというものを、理解できないんですよ」

「あっ、うぐっ……」

「なので悪いですが、もう一発くらって気絶してくださいね」

 止めろ、という声を無視して脚に気を流して強化を行う。
 そしてそのまま蹲った坊ちゃんの股間へ、ドライブシュートを叩きこむ。

「ソL%Cーm・~~~ッ!?」

 理解不能な言語で悲鳴を上げ、そのまま気絶する貴族様。
 そして湧き上がる悲鳴と罵声、卑怯者に対する怨嗟の声がいっせいに上がる。

「レイルも顔を見せなくなったし、本当にどこか別の場所で見てやがるな。ふぅ、いったいいつまでやればいいんだか」

 このままだと、Xクラス以外の全員と闘わなければならなくなるかもしれない。
 サーシャが相手になるとしたら、ほぼ間違いなく負けるんだろうな。

「それで、次の対戦相手は貴方ですか?」

「……僕は君が弱いとは思っていない。けれど、それでも力を見てみたいんだ」

「ええ、それはいいことです。ぶっつけ本番で戦場に出るよりは、こうした場で自身の限界を知ることが大事らしいですので」

 少しばかり適当な敬語でそう言っておく。
 現れた生徒はきっと、貴族ではなく平民やそれに近い身分なのだろう。

 なんだか偉そうな雰囲気がないし、何より貴族に多く見受けられる派手な髪色をしていないからな。

「さぁ、貴方が俺に初めて挑む……真の意味での対戦者だ。盛大に迎えましょう、そしてもてなしましょう──俺程度の若輩でよければ、高みへ至るお手伝いをしようか」

「ぜひ、お願いしよう!」

 一週間、ずいぶんと長かった。
 初めの内は調子に乗った貴族しか参加できないよう、誰かがプレッシャーでもかけていたのかもな。

 だがようやく、普通に根が真面目な奴が参加してくれるようになった。
 飽き飽きとしていた決闘も、ようやく楽しくなってきたな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 それから数日が……なんて都合のいい回避がしたいな。

 件の生徒──『スール』君以降、また飽きる試合ばかりとなってしまった。
 なぜだろうか、少しばかり張り切って筋肉痛になる程度まで叩き込んだのが理由か?

「しかし、よくもまあここまで腐った奴らを集められるよな」

 学園ものと言えば調子に乗った貴族は定番だが……いくらマンモス級の生徒数を誇るとはいえ、一人を除いて対戦相手がずっとそんなヤツというのもレアすぎるだろ。

「まあ、手加減ができるようになったから別にいいんだけどさ」

 魔力の調節もかなり正確にできるようになり、二十ぐらいまでなら自在に搾りだせるようになった。

 さらに言えば新しい虚無と無魔法の開発にできたので、攻撃の自由度をより高めることに成功したぞ。

「ん? なぜか複数の反応が……」

「おい、卑怯者の従者!」

「たしか……俺のストライクショットで搬送された方でしたか?」

 シュートをするふりをしてみると、股間をキュッとする姿は少し面白いな。
 まあ、一度負けた奴らが再びこの場に現れた……数十人単位で。

「卑怯者の貴様に制裁を加えてやろう。これは断罪であり、決闘ではない……複数で挑もうと問題はないよな?」

 周りから賛同の声が上がる。
 いやー、ずいぶんと嫌われたものだ。

「ええ、構いませんよ。知ってます? サッカーという遊びは十一人いないとやれない試合なんですよ」

 本当は互いに十一人だが……まあ、細かいことは気にしない。
 ちょうど相手は全員男──球転がしでレッツ、キックオフ!


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