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スレ60 試合結果は闇の中へ
会場中が魅せられた。
互いにスキルを必要としない、絢爛にして剣嵐な舞の数々に。
「負けるかぁぁぁぁっ!」
猛り狂う獣のように吼えながら、剣を振るうレイル。
しかしその剣技は正確無比のもので、一撃一撃に映えを感じさせる。
「いいや、お前さんは負ける」
明鏡止水──澄み切った邪念無き剣技で、アサマサはレイルを翻弄する。
努力が生みだす結果を許されない彼が身に着けた、弛まぬ修練が表す至高の武術。
そこにはあらゆる人間が到達できる、可能性が秘められていた。
「剣技──『流星』」
怒涛の勢いで放たれた剣撃を、アサマサは自身の剣を以って誘導していく。
洗練された技術を持つ達人だけが成せる、見る者の心を奪う優美な剣閃。
それを他者の剣で行わせ、自身は相手に攻撃を加える。
「ぐあっ!」
「ほらほら、もっと本気を出せよ。技術に頼るか、それとも──」
「対価──ぼくの強化スキル全部!」
「より強大……いや、凶大な力を取るのか」
アサマサがそうボソリと呟いた瞬間、高速で移動を行ったレイルがアサマサに向けて鋭い剣閃を払う。
「だから、これとこれ、それにここの力を入れすぎだ。もっと丁寧に、脱力するぐらいの方が斬りやすくなる」
脚に気を籠め、ヌルヌルと回避しながらアサマサは再び指導を行う。
叩かれる度に『流星』を受けたときのように剣技に磨きがかかり、美しい剣術として洗練されていく。
「というか、精神も面倒だな。とっとと元に戻れ──『魂柔』」
「う……かはっ!」
アサマサは自身の練り上げた気を、直接レイルの中へ流し込む。
たび重なる【貪狼縛枷】の効果で疲弊していた精神が、魂魄単位で癒されていく。
「あ、あれ? アサマサ、ぼくは……」
「気にするな。どうせプラン通りだ」
「プラン?」
「俺の作戦通りだってことだ。お前がそうして暴走するとこから、俺が戻すところまで」
ハッと、これまで自分が何をしてきたかを思いだすレイル。
そして、少ししょんぼりとしだす。
「また、制御できなかったんだね」
「けど、今はできてるだろ? だからまだ、効果は継続している」
「あっ……」
「俺は精神に作用させただけで、肉体には何もしていない。だからお前のスキル……グレイプニルだっけ? は、停止していない」
気絶など、本人が活動不能になれば稼働を止めるスキルが多い。
しかし今回のケースの場合、レイルが気絶したわけでもないので止まらなかったのだ。
「ほら、もう少し剣技を磨け。そして、この恩を忘れるな」
「恩……ですか?」
「お前の師匠は優秀なんだろうが、俺の師匠たちの方がもっと優秀だ。そして今、なんの因果か俺はお前の剣技を磨かなければならない状況にある」
「えっ、どういうこと?」
説明を求めるレイル。
しかしアサマサは沈黙を貫き、すべてを黙殺することを選んだ。
そして剣を構え、自ら前へ出る。
「面倒だし、体で覚えろ。俺の師匠はそりゃあ立派な奴だが……俺に問題があって、剣技は全部その身で覚えた」
「……まさか」
「教え方なんて分からないし、見て覚えてくれ。おっと、ここからは企業秘密にでもしておこう──“闇幕”」
指輪に籠められる限界まで魔力を注ぎ、会場一帯に闇を敷き詰める。
視界が奪われた中、アサマサが別の指輪を嵌めて灯りを生みだす。
◆ □ ◆ □ ◆
不思議そうな顔をしているレイル。
照明を用意したのが、いけなかったのかもしれない。
──それとも今さら……俺が光属性を使ったからか?
けど、どうせ全属性分の指輪を持っているわけだし……隠す必要はないんだよな。
「俺が習ったのは、基本一通りの武術だけだが……レイルは何を使う?」
「剣を主に使うんだけど、だいたい全部使えるようにしてあるよ。ぼくの【貪狼縛枷】の関係上、できるだけ多くのスキルを持っていた方がいいからね」
「いちおうだが、そのグレイプニルってスキルの効果は聞いてもいいか? まあ、言わなくてもいいんだけど」
「大丈夫だよ。対価としたモノを永劫的に消失させることで、支払った分だけ強化が行われるスキルなのさ」
ずっとロスト……ってことじゃあ、きっと無いんだろうな。
そんな俺の表情を見たからか、コクリと頷いて説明を続ける。
「もう一つ、【干天慈雨】ってスキルを持っていて、一度失ったり強く欲したスキルの習得率と成長率が高くなるんだ。ちなみに雨が降っているとより高まるね」
「……何、そのチートスキル」
「チート? ああ、異世界人が使う便利で強力なスキルのことだね。たしかに自分でも、少しばかりチートだと思うよ」
イケメンスマイルでそんなこと言われてしまうと、ほんの少しだけ憎悪が……。
俺なんて、どれだけ強く願ってもスキルは手に入らないし(鑑定)と(言語理解)は戻ってこないのに……。
「まあいいや。この勝負、俺の勝ちってことでいいか?」
「……うん、そうだね。ぼくは自分自身に負けていた。君との勝負は、その時点で決していたんだ」
「自分でそう思うなら、それでもいいけど。あとで足腰が立たなくなるまで、しっかりと学んでもらうからな」
「分かりました──師匠!」
師匠、ね……ずいぶんと懐かしい言葉だ。
俺もよく、そう言わされていたな。
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