俺と異世界とチャットアプリ
スレ58 無限の剣も創れます
「行くよ──“光球”!」
「無詠唱かよ……◆■▲──“闇弾”」
観衆に無詠唱ができることを教えたくはないので、詠唱擬きを行ってから指輪を介して闇魔法を発動する。
高速で飛んできた球の核を、小さな石粒のような黒い弾丸が貫き破壊した。
「精密だ。“身体強化”の魔法から分かってはいたけど……君はちゃんと、魔法を理解して使っているんだね」
「それなりに、学ぶ時間があったんだよ」
「ここだと理論しか教えてくれないし、何よりまだ入学して一月もしていない君が? 面白いジョークだね」
「いや、好い講師に出会えただけだ」
生徒を想い、殺してでも止めようとしてくれるような偉大なお方だ。
あれ、実は早急に止めなきゃかなりヤバいことになったそうで……被害が俺一人で収まる間に、どうにかしようとしてくれたのだとあとで分かった。
「例えば──こういうのもな」
「おっと!」
殺されそうになった際、キンギル先生が使用した歩行術を再現してみた。
スキルによるものなのか、完全な再現はできなかったが……それでも死角を突けば、それなりに驚かせられる。
そのまま槍をブンッと振り回したが、あっさりとレイルはそれを躱す。
そのまま近づいてしまった愚かな俺を斬ろうとするので、槍を横に構えて防ぐ。
「おっと」
「これで終わ──っ!」
「次はこれだな」
槍を切断されてしまったが、ストックはすでに用意してあった。
グネグネと折れた部分から魔力を注いで形状を変え、武器は槍から斧に変化する。
「どこまで……どこまで君は、ぼくを楽しませてくれるんだ!」
「そういう気はないからさ。ほら、落ち着いて落ち着いて」
「……うん、そうだね。冷静に、暴れないとダメだった」
大きく呼吸を行い、上りかけた血を沈めていくレイル。
暴れて無茶な振り方をされれば、隙はできるかもしれないが危険度が高い。
このまま冷静な判断の下で闘い、降参してくれるのが最善だな。
「そうそう冷静に。狂って勝っても、意識を保ったまま勝った時の喜びが味わえなくなるぞ。どうせなら、勝っても負けてもその想いがあった方がいいだろ」
「君は……どうして闘っているんだい?」
動きを止めるレイル。
実際には魔力を練っていたりとしているので、時間稼ぎといったところだろう。
「どうしてって言われてもな……死にたくないから、仕方なくだな」
「それだけなのかい? 強い人と闘いたい、とか強くなりたい、とか……」
「おいおい、誰もがみんなお前と同じ価値観で生きてるわけじゃないんだ。そんなバトル物の主人公みたいなこと言うなよ」
「バト……?」
音声はどうせ観衆にも伝わっていないだろうし、少しぐらい構わないだろう。
「──ああ、先に言っておくがこれ以降は隠させてもらうぞ」
「隠さなきゃ、いけない主張なんだね。教えてくれるなら、ぼくはそれでも構わないよ」
魔法にもならない闇属性を行使し、口の周りを無害な闇で包む。
これで読唇術に対する策はバッチリだ。
「バカらしい」
「……ん?」
「俺はどうでもいいんだよ、強さなんて。楽しめる友達と、ただワイワイ遊んでいる方がよっぽど時間を有意義に使える。だいたい、お前は強くなってどうするんだ? それが、本当にお前のやりたいことなのか?」
「…………そうだよ」
悩んだ末の回答みたいだな。
けど、元から日本人と価値観を比べようとしているのが間違いだったんだ。
「お前らは魔物が存在する、いわば人とそれ以外で争っている。だから強くなることはいいことだし、その分認められる」
「違うのかい?」
「ご配慮ありがとう。俺たちの世界じゃ、魔物は居ないから人間同士の戦いだ。個人の力なんて関係ない、どれだけ人を殺せるかで勝敗が決まる」
例外はある……が、ここは地球としての一般常識だけを述べておこう。
「回復魔法なんてないし、武技もない。人間は培った技術を破壊と殺戮に特化させ、殺すためだけの力で同族を殺すんだ」
「…………」
「剣も槍も、斧も弓も意味がない。どれだけ腕を磨こうと意味をなさないんだ。たった一発の石の礫が、人の命を奪う。どれだけの達人であっても、無慈悲に死んでいく」
闇魔法を解除して、モザイクを外す。
「──さぁ、準備はできただろう? そろそろ始めようか」
「……君は、ならどんな覚悟で!」
「別に。価値観について話しただけだろ? 俺のやりたいことはもう伝えた、だからそのためにお前を倒してやるよ」
レイルが魔法を準備していたように、俺もまたある準備を拵えていた。
虚無魔法は封印中だが、無魔法に属する魔法であれば使用可能なわけで──
「“構造複製”」
斧を無数に用意し、宙に“浮遊”を施して浮かべておく。
加えて魔力を歪め、斧の形状をまた別の物へ変える。
「お前の番だ。やってみろよ、第九位さん」
「分かった……これがぼくの全力だ!」
凄まじい魔力がレイルから放たれる。
薄い魔力の膜でそれを防ぐのだが、高密度な魔力のためか、風となって会場へ向けて吹いていく。
そして、その名を告げる。
「──【貪食狼枷】!」
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