俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ51 嵐を呼ぶ通知音



「……ついに、このときが来たか」

 あれからしばらくして、対抗戦が始まる。
 訓練場とは違う場所、闘技場と呼ばれる広い舞台がイベントエリアとなるようだ。

[ファイト]

「なあ、やっぱり代わらね? 知ってるんだからな、従者に面倒な試合を押しつけておいてやりたい試合だけ参加する制度があるの。登録は関係なく主従は交代できるんだろ?」

[ファイト]

「おい、変えろ。コピペするんじゃない」

 それでも俺は、粘っていた。
 兄妹が勝ってくれるとは思うが、見世物になる勇気は無に等しい。

 困ったときの従者頼りなんだが……この学園だと立場が逆だからだろうか、全然助けてくれない。

[バッチリ観てる]

「……おい、観客気分になるな。せめていっしょに見てろ」

[バッチリ観てる]

「せめて助けてくれよ……」

 隠れて時々スマホを弄っているの、俺知ってるんだからな。
 たぶん、ナツキとかと女子トークでもしているんだろうけど……。

 そこら辺は詮索してないんだから、代わりに助けてくれてもいいのに。

「そこに居たか、アサマサ」
「……見つけた」

「あっ、兄妹。そっちの準備は?」

「無論、整えてある。むしろ貴様を心配してやるぐらいには余裕がある」
「……眠い」

「ファウルムは眠そうだが……それはいつものことか」

 寝ぼけ眼の状態しか見たことないや。
 試合中も半目だった気がするし、むしろ開いた目じゃない方が自然だったか。

「……ギブアップ、する?」

「ちょ、止めて。俺の出番が生まれちゃう」

「何を言っている。貴様が先鋒となり、早々に終わらせるべきだ」

 はい、ここでルール説明。
 三対三の勝負なのだが──勝ち上がり戦をすることになっているらしい。

 勝っても負けてもトーナメント形式で試合は続き、その度に出す順番を変えられる。
 俺は大将としてどっしりと、そしてブルブルと構えていられると思ってたのだが……。

「一番強いのだから、延々と勝ち続ければ問題ない。これで私たちの優勝は決まったな」
「……ん、バッチリ」

「サーシャ様ぁ」

[勝ちなさい、アサマサ]

 これもコピペだ。
 なんとなく、今と似たような状況を思いだしてそう感じた。

  ◆   □   ◆   □   ◆


≪さあ、始まりましたクラス対抗戦!
 実況は2-B所属、ファイルでお送りいたしまーす!≫


 選手たちは舞台に上げられ、クラスごとに列で並んでいる。
 Xクラスである俺たちは──舞台の端っこの辺りだったが。

 放送の内容はルール説明。
 すでに把握してあるので、とりあえず無視する方向で。

「凄い差別っぷりだよな」

「Xクラスは異常者の集まり。掃き溜めとして機能させるため、ここまで分かりやすい差別が行われているのだ」

「この学園、強さ至上主義だったよな? お前らみたいな実力の持ち主を、認めようとしないのかよ」

「……それは嫌味か?」

 あまりに暇なのか、グリアルムが会話につきあってくれる。
 そのことに嬉し涙をこっそり零しながら、話し合う。

「俺は……師匠が少しアレだったからさ。俺の戦い方、少しおかしかっただろ?」

「……というより、絶対変」
「妹の言う通りだ。貴様の師匠は何のため、あの技術をどう伝えたのだ?」

「師匠はさ、使える物はなんでも戦闘に用いる人なんだ。だから用意された物で一定以上の破壊力が出せれば、なんでも使って敵を倒せと教わったな」

「異常だな」
「……異常」

 ケント、お前の世界とは常識が違っていたようだ。
 いや、そもそもお前が行った世界で、ケントの考え方が常識だとも言ってないけどさ。

「──というか、ファウルムが大将になるんだ。てっきりグリアルムがそこに就くかと」

「それでは私の出番が来ぬではないか。一度出ると決まったからには全力で。それこそがヴィクリーの者としての覚悟だ」
「……出たかった」

「ファウルム、なら俺と代わらな──」


≪──それじゃあ、選手宣誓だ!≫


 交代を促そうとしたのだが……アナウンスが突然声を上げたため、伝えられなかった。

 もう一度言おうと思ったが、周りの者が全員前を向きだした様子を見て止める。
 そして、彼らと同じく選手宣誓のために進み出た者を眺めた。

「グリアルム、あの人は?」

「知らんのか? 奴は序列九位だぞ」
「……有名人」

「いや……記憶にない」

 そこにいるのは一人の少年。
 アッシュグレイの髪に一房綺麗な銀色が交じった、顔立ちの良いお顔を持っている。

「宣誓! ぼくたち選手一同は、正々堂々とこの対抗戦を戦うことを誓い、自身の強さを証明することをここに誓います! 選手代表──『グレイル=レイル』」

 まさに堂々とした立ち振る舞いでそれを叫ぶと、全体から高い声が上がる。
 ……イケメンめ、モテモテじゃないか。

「グレイル=レイル、一年目からその圧倒的な戦闘力から序列入りを果たした猛者。まだ奴の本気を見た者はいないとされる」
「…………」

 あっ、ファウルムが寝ている。
 なんか強そうだが、要するにこっちの世界産のチートキャラってことか。

 しかもリア充君が呼ばれたこのとき、ちょうど序列入りというイベントをこなしているとは……うん、リア充君の関係者かな?



(……ん? この通知音は──)

 ここで脳内に、設定したチャットに新規投稿があったことが通知される。
 こっそりとスマホを具現化し、その投稿を見てみると──

『面倒事対処シリーズ』

 どうやら、簡単には終われなさそうだな。


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