俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ35 鎧騎士は略語がお好き



「……あっ、やっぱり現実は上手くいかないものだよな」

 ここで美少女に……みたいな展開になるのは、やっぱり主人公ぐらいだよな。
 目の前には相も変わらず鎧騎士が立っているだけで、変化はほとんど無かった。

 鎧が綺麗になっているぐらいだろうか。
 俺との戦闘痕が消えたとかじゃなくて、鎧から禍々しい感じが無くなったって感じだ。

 俺の配下になったからだろう……鎧はピカピカな状態になり、無魔法で作った武器と似たような色で輝いている。

「声は出せるか? ……無理か。なら、この魔道具を渡しておく」

『…………?』

「文字を出力できるから、会話ができる。とりあえず、チャットの使い方を説明するぞ」

 毎度お馴染みのスマホを取りだし、鎧騎士に渡しておく。
 ……そもそも、どうして俺以外のスマホが機能するかなんて疑問もあるだろうか。

 俺のスマホをサーバーとして機能させて、異世界と地球を繋いでいるってのも理由の一つだな。

 それによって、俺以外がスマホを使おうとしたとき、俺のスマホとリンクさせていればこちらでも使えるようになるのだ。

「──と、こんな感じだ。できるか?」

『…………(コクコク)』

 首を縦に振ったのちに、スマホを操作する鎧騎士。

 なんだかシュールな光景だが、籠手を着けていても動くスマホってかなりレアなんじゃないか?

 そこら辺は、スマホをくれたハルカたちに訊かないと理由が分からない。
 ただ、魔力が関わってるんじゃないかな?



 スマホをジッと見ながら、入力に四苦八苦している鎧騎士。
 しばらくその様子を見ていると、ついに鎧騎士が入力を終えた。

[こんな感じ]

「そうそう、尋ねているなら『クエスチョンマーク』を入れるのも忘れない方がいいぞ」

[こんな感じ?]

「バッチリだ。これでちょっと時間差はあるが、平時は会話ができるな」

 スマホからホログラムのような物が出現すると、そこから鎧騎士が入力した文字が表示される。

 なかなか使わなかった投影機能だが、一々スマホを確認して『ながらスマホ』状態になるよりはいいと思って使わせてみました。

「さて、いろいろと訊きたいことがある。少し、付き合ってもらうぞ」

[り]

 了解、だよな。
 決して、教えてもいない短縮形を活用したわけじゃ……ない、はずだ。



 質問を始める前に物凄く気になることが増えたが、それでもしっかりと訊きたいことを尋ねることに。

 どうして迷宮に居たのか、さっきの戦闘で使っていたのはどういう理屈なのか。
 ……どうして、『り』だったのかを。

「そっか、『了解』を打ち間違えただけなんだよな。なら、俺の悩みはもう解決だ」

[他には?]

「えっ? ……いや、特には」

 迷宮ダンジョンに居たのは覚えておらず、武器はスキルで生みだしていたそうだ。
 俺のと似たようなものに聞こえるが、性能が段違いとだけ言っておこう。

「ほら、別に知らなくてもやっていけるからさ。教えてくれるなら嬉しいけど、そうでなくともお前が俺の騎士であることに変わりはないんだから」

[り]

「……どうせなら、いつか信用できるようになったとき、ゆっくりと語ってくれよ」

[分かった]

 熟考した後に、そう答えた鎧騎士。
 名前は……あっ、訊き忘れた。

 もう尋ねるような状況じゃないし、いつか必要になったら確認すればいいか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 迷宮の最奥に二人で向かうと、そこには転送陣が設置されていた。
 この迷宮は守護者である鎧騎士を失ったことで、機能を停止する。

「宝も全部持っていったし、もうここに居るべき理由は無い。さぁ、外に行こうぜ」

『…………』

「うーん、大変だな」

 鎧騎士の気分は浦島太郎だ。
 永い時を迷宮の中で過ごし、どれだけの時間が経過したかもまだ知らない……俺には、鎧騎士が居た頃の時代が分からないからな。

 いろいろと思うところがあるのだろう。
 ──それでも俺は、鎧騎士を連れていく。

「お前は俺の騎士だ。俺の行く所はお前の行く所、俺の言う通り黙ってついて来りゃあいいんだよ」

[似合ってない]

「くっ、アイツの真似をしたのが悪かった。とにかく、俺は弱いからボディーガードが欲しいの。俺は最初は強いけど、時間が経つにつれて弱くなるようなもんだ」

[どういうこと?]

 そりゃあ疑問に思うだろう。
 たしかに俺はアイツらによって、ほんの少しだけ人よりも手札が多い。

 しかしそれだけでどうにかなるほど……世の中は甘い物じゃない。

「初見殺し? まあそんな感じだけど、世の中殺すって選択肢を持たないヤツにそれは意味がない。だからお前みたいな強いヤツに、俺を守るってもらう必要があるんだ」

[強かった]

「……それは俺が強かったんじゃない。俺に技を教えてくれた人が強かったんだ。能力値なんてものに頼っていたら、俺は間違いなくとっくに死んでいた。……まっ、そんなことはどうでもいいんだけど。要は死にたくないから助けてくれってわけだ」

 紛れもない本音を、鎧騎士に零した。

 リア充君だって、レベルを上げれば身体能力は間違いなく俺より上になる。
 他の召喚者たちも恐らく、非戦闘職であろうと俺より強くなる。

 成長しない俺に、それに抗う術は少ない。
 アイツらのお蔭で数少ないその方法をやっているものの、いつかはそれも暴かれ、敗北するときが訪れるかもしれないのだ。

「だから頼む! 俺は……俺は殺されたくないんだ!」

[死にたくない、じゃなくて?]

「死ぬのは仕方がない。いつか寿命で死ねばそれでお終いだ。だけどそれ以外で、他人によってもたらされる死なんて御免だ! 状態異常は罹らないようにしているが、圧倒的な力には抗えない。だから……お前の力を貸してほしい!」

 頭を地面に擦り付けて嘆願する。
 騎士に頼る主なんて、この世界にいるのだろうか? ……別にどうでもいいか。

 威厳や尊厳で人は生きていられないし。

[殺されなければいい?]

「そうだ、それだけで構わない」

[死ぬのは仕方ない?]

「生きとし生きる者にとって寿命は絶対だ」

[なら、貴方が死んだらどうすれば?]

「そ、それは……」

 鎧騎士は俺が死ぬと自由になる。
 指輪の効果は永続で、ただ鎧の輝きが俺の色じゃ無くなるだけだ。

 それでも、俺によって連れ出された鎧騎士は、再び地上に居る理由が無くなる……それはないな。

「……なら、守るべきものを守っていてくれよ。騎士は守るのが本懐だろう? 俺がいつか、お前に何かを託す。お前はそれを守護するために生きろ。今は……それでいい」

[り]

「なんでこのタイミングで略すかな……」

 ちょっと気が抜けた俺と鎧騎士。
 二人で魔法陣の上に立ち、この迷宮から出ていった。


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