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スレ33 剣で鎧は切断できない
それは、禍々しい全身鎧に身を包んだ騎士であった。
不可思議な紋様や派手な装飾があるわけではない。
ただ、戦においてどれだけ戦えるか……それだけを求めた洗練されたデザインである。
鈍く昏い輝きを放つ鎧からは、靄のような瘴気が溢れ出ており……身の危険を感じた。
「会話は……これ、できるのかな?」
『…………』
「うん、これ無理なヤツだ」
ユラユラと、それでいて真っ直ぐにこちらに歩いてきた鎧騎士は、突然その足を止めて直立する。
「……いったい何うぉっ!」
大盾を構え、様子を窺っていたのだが、突然盾に激しい衝撃を受け、俺は後方に吹っ飛ばされる。
背中から地面に打ち付けられるのを受け身で避け、即座に体勢を整えていく。
「ま、マジかよ。全力で固めたはずだぞ!」
構えていた大盾は一瞬で破壊され、空気に溶けていくように消滅していった。
「あれはたしか……槍、だったよな。大盾みたいに消えたってことは、スキルか魔法で生成された物。それであの強度かよ」
大盾を破壊される一瞬で見た物、それは黒い槍である。
細長く三角状の穂を持つ……いわゆる投槍と呼ばれるそれは、俺の防御武器でも最硬の大盾を瞬時に破壊するほどの威力を秘めていたのだ。
よく見ると、鎧騎士は何かを投げたような体勢になっていた。
俺がそれを見た途端、鎧騎士は再びどこからか剣を取りだして──駆けだす。
「やっぱり、面倒だな!」
『…………』
波状に歪んだ剣と、峰に凹凸を持つ剣を生みだして両手に握る。
突き出された十字型の鍔を持つ剣をパリングダガーで受け流し、ソードブレイカーに誘導する。
鎧騎士がそれに気づき、引き戻そうとするのだが、その前にソードブレイカーを動かして──鎧騎士の剣を折った。
本来は折るのではなく行動の制限をするための武器だが、異世界ならばこうして本当に折ることもできる。
だが鎧騎士は自身の剣が折られても、即座に対応してきた。
『…………』
次に取りだしたのは、巨大な戦槌。
両口が平らな形状であるが、片側には凹凸が施されている仕様だ。
そんないかにも重そうな戦槌を軽々と振り回し、攻撃を仕掛けてくる。
「クソッ、不味い……グホッ!」
二本の剣で防いではみるものの、これらはあくまで対剣のために用いる武器だった。
戦槌に対応できるわけもなく……俺は再び空を舞うことに。
「チッ、このままじゃあ……なら、これならどうだ!」
(──“虚無限弾・拡散”)
無防備な状態のままでは、殺される。
なので魔法を発動し、牽制を行う。
数え切れない程の魔力の塊が、鎧騎士に対して放たれる。
初めの内は流れるように躱していた鎧騎士だが、着弾と同時に弾ける様子を見て対応を変えていった。
巨大な盾を何個も用意し、自身の周囲に展開して防いでいく。
壁を魔法で生みださないということは、何か裏があるのか?
確証はないが、なんとなくそう思う。
拡散弾を防ぐ一番の方法である壁を使わずに、鎧騎士はわざわざ大量の盾を用いて拡散弾を防いでいた。
リスクがあるのか? 強すぎる武器を生み出すことに。
たとえば──魔法が使えない、とかな。
『…………』
盾の隙間から、俺を見ている鎧騎士。
宙に浮きながら、鎧騎士の攻略法をじっくりかつスピーディーに練っていった。
◆ □ ◆ □ ◆
地に着いた俺は、魔法を織り交ぜた戦闘法で挑み始める。
武器だけでは勝てないし、魔法だけでも勝てない。
二つを同時に使うと、どっちつかずの中途半端な戦い方しかできないが、それでも片方だけで挑むよりも勝率はある。
主は武器による戦闘、魔法はあくまで補助として使っていく。
隙や死角が生まれたとき、広範囲に作用する魔法を使って鎧騎士を追い払う。
魔法での攻撃はあまり通用しないので、衝撃を生みだす魔法を使っていった。
「ハァ、ハァ……。終わりだ、鎧の騎士」
そして今、俺と鎧騎士は互いに剣を向け合うという状況に陥っている。
アイツらから習った技術をフルに使い、俺は鎧騎士と戦い続けた。
近・中・遠距離、武器、魔法問わずに使えるものは何でも使い、足掻くように動いた結果がこれである。
『…………』
「鎧を破壊することはできなかったが、それでも倒す術はある。意思があるのなら、大人しく降伏してくれ」
『…………』
「やっぱり駄目か」
剣を俺に押し込むような動作で、俺の要求はあっさりと断られた。
ならば仕方がないと考え、剣に意識を集中していく。
あくまで“虚無剣”は魔力が物質化した物であり、本質は魔力である。
故に、剣そのものを媒介として使うことで魔法を発動させることも可能だ。
「剣技──『斬鎧』」
(“無限尖鋭”)
『…………』
極限まで剣の鋭さを向上させ、剣を型通りに振るう。
足腰を強く使い、腕に籠める力を筋力以上に高めた一撃は、本来地球ではありえないとされる武芸──剣による全身鎧の切断を可能とする。
俺をそうやって面倒臭い支度をしてから、魔法による補助が無ければ不可能だが……教えた本人は鼻歌雑じりにやっていた。
……っと、話を戻そうか。
鎧騎士は今まで以上の気迫を以って、横に払うように斬撃を振るう。
速度は俺よりも速く、俺の斬撃を超える速度で体へと迫ってくる。
──そして、互いの剣は交わることなく軌跡を描き終えた。
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