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山田 武

スレ24 宝物庫=物置



 たしかに、破竹の勢いでダンジョンを潜っていたわけだが……まさか、もう最深部の寸前の所まで来ていたとは。

 途中で目的地も通り過ぎてしまったか? というか、やっぱりどうしてセリさんはこんな深い所まで来れたんだ?

 ……二つ目に関してはだいたい見当が付いているが、目を逸らしているだけだな。
 こっちの世界でも巻き込まれる人生になるのは少々ゴメンだと感じるし、気にしないでおこう。

 さて、98階層なのだが……例えると、だだっ広い空間と言うのが一番だろう。
 上と下の階を繋ぐための踊り場を、かなり拡大したようなものか?

 繋ぎの間とも呼べるような場所だな。

「気を付けろよアサマサ。この階層には恐ろしい魔物が──」

(──“無限尖鋭アンリミテッドレンジ”)
「……ええっと、何か言いましたか?」

 セリさんが何かを言っている最中だったのだが、魔物の反応が遠くで感知できたので伸びる剣で貫いた。

 さすが聖剣を破壊した力を帯びた剣なだけあり、まだ相貌も視えていなかった魔物の反応は消え失せる。

「アサマサ、それはいったい……」

「俺の魔法で生みだした剣です。実体を変更できるので、遠距離攻撃にも使えますよ」

「いや、そういうことではなく……」

 なんだか戸惑っているようだが、何か問題でもあったのだろうか。

 あっ、もしかして──

「倒しちゃダメな奴でしたか?」

「いや。ただ、一瞬だったと思っただけだ」

「俺にはこれしか無いんです。長期戦に持ち込まれていけばいくほど、勝てる見込みはより減っていきますので……一撃でできるだけ決めたいんです」

 俺が持つスキルに、直接的な攻撃ができる物は無魔法しか存在しない。
 付け焼刃の武術では、この世界でやっていくことはできないだろう。

 ──せめて、スキルとして認められれば俺も自信が付くんだが。

 まあそれはほぼ無理だろうし、対策を設けられる前に一撃で倒す戦法を取るしかないんだよな。

 小細工ならいくつも用意してあるが、結局俺がやってることは無魔法の応用である。

「──では、セリさんの知る場所へと行きましょうか」

「……あっ、ああ。そう、だな」

 そして、セリさんは光子状になって消えて逝った魔物の下まで向かい──指で示す。

「あの先に先ほど見た印と同じ物があった。視認はしたのだが、魔物がこの階層を守護していてな、近くでは見ていないが」

「たしかに、反応は強力でしたしね」

 魔力を隠しているので本当の力は分からないが、偽装している分だけでも彼女が強いということは分かる。

 なので、本来はここにいた魔物程度なら容易く処分できたはずなのだが……家宝とやらに関わるナニカがあるのか?

 まあ、話したいなら話すだろうし、別に俺が気にすることでもないか。

  ◆   □  99層  □   ◆

 その後、色々あったと纏めておこう。

 ハンコから光が出て隠し扉が現れたり、またその下の階層に魔物が現れたり……その魔物が相手をコピーする魔物だったりだったんだが、正直どれもスキップボタンで飛ばせるようなイベントだったのでカットだ。

 現在俺たちが居るのは隠し部屋──つまりは宝物庫である。
 最初は金銀財宝ざっくざく、的な光景を予想していたのだが──

「……これ、宝物庫って言うより物置だな」

 魔道具や武具が散在した様子が、目の前には広がっている。
 どれもこれも一級品の品ばかりなので、確かに財宝と言うのも間違いではないんだが。

 聖剣や魔剣が一括りに纏めて仕舞われているうえ、適当に傘立てに置かれた傘のような扱いを受けているのが……どうにもシュールに感じるな。

「えっと、セリさんはこの場所で良かったんです……か……」

「──ククッ、フフッ、フハハハハッ!」

「あ~、やっぱりか」

 一心不乱に宝物庫を漁っていたセリさんを見てみると、右手に何かを握り締めて清々しく嗤っていた。

 ……うん、笑いじゃないんだよな。
 やけに笑みが黒いし。

「アサマサ、礼を言うぞ。お前がいなければ私はここまで来ることは無かった」

「まあ、印は俺が持っていたんですからね」

「私の持つこの宝珠には、代々一族の長が受け継いできた力が眠っている。奪われたこの力を探し求め、一族はありとあらゆる場所へと捜索の手を伸ばし……遂に、悲願は達成されたのだ!」

「あ~、それはそれは。大変おめでとうございます」

 その宝珠とやらからは黒い靄が漏れ出しており、セリさんの体がその力を吸収していっている。

 それと同時に、セリさん本来の力が高まっていくのを確認できた。

 俺はその話を聞いて、素直に称賛する。
 一族で……ずいぶんとまあ、長い間頑張っていたみたいだな。



 昔アキから聞いた話の一つに、こんな物があった──

 かつて、最強を誇る魔王がいた。
 初代魔王が力を蓄えて受け継ぐ特別なスキルを有しており、それによって世代を重ねるごとに強くなる魔王であった。

 人類はその時代に起きた魔王の大量出現に酷く疲れ、女神より授かった魔法によって異世界人を召喚する。

 異世界人は世界で初めての勇者として、並みいる魔王を殺し尽くした。
 最強を誇る魔王もまた、勇者の持つ剣により死んで逝った。

 だが、継承されていた力は宝珠となり、しぶとくその場に残り続ける。

 勇者はそれを破壊しようとしたのだが、神より賜った剣で壊すことはできず、仕方なく自身の踏破した迷宮に封印した。

 ……完全にその宝珠だよな。



 そして、それはつまり──

「アサマサよ、魔王であるこの私──セリザレム・ヴァンシュ・ロードアビスの覇道の礎になれたことを光栄に思うが良い!!」

 セリさんが、その魔王の家系だってことになるんだよな。


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