俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ14 聖剣は高燃費



 訓練場の中央辺りに呼びだされた。
 そこには別の場所で練習を行っていた他の召喚者たちも集まっており、何が行われるのか予想している。

 魔法の練習は唐突に終わり、俺たちは次の段階へと進んだ。
 遠距離戦に対応するための手段を得た今、次に行うことと言えば──

「それじゃあ、自分に合う武器を選んでくれよ。自分の持っているスキルを考えて、一番いいと思う武器を選ぶんだ」

「はーい、なんでもいいんすかー?」

「あくまで今使うのは、練習用のものだ。早い者勝ち、とかそういうわけじゃない。あくまで正しく使えるかどうかを試すのだ」

 そう強そうな鎧を装備した中年の男が俺たちに言うと、召喚者たちはその運ばれた武器へ群がっていく。

「武器か……俺にはどれか一つ、扱いに長けた武器があるわけじゃないからな」

 一通り習いすぎて、今の俺に扱えない武器はない……まあ扱えると言っても、スキルとして認定されるほど上手ってわけでもない。

「しかし、どれを選ぶべきか……なんか、ここが運命の分かれ目と言われても過言でもない気がする」

 怖くて確認できないのだが、もしこの光景がチャットの住人たちに観られていたら間違いなく炎上しているだろう。

 アイツらのほとんどが、武術も何かを教えるついでに教えてくれていたので、きっとその武器が選ばれると思っているのだから。

「魔法だけで戦うって選択肢にして、媒体も杖じゃなくて別の物にしておけば……ギリギリかな? いや、それはそれで魔法に傾注とか言われそうだな」

 こればかりはチャットで相談できない問題だ……だって、問題の種本体なわけだし。
 誰に訊いたとしても──自分の教えた武器が一番、そういうに決まっている。



 そうして悩んでいると、少しご機嫌なリア充君が俺の下にやってきた。

「おや、アサマサ君。まだ選んでいなかったのかい? 君だけだよ、使う武器を決めてないのは」

「……これからの人生を分ける、大切な物ですからね」

「そうかい。ちなみに、僕はこれにしたよ」

 面倒で複雑な回路が刻まれた、模造剣を握り締めていた。
 回路についても教わったけど……おいおいこれって──めっちゃ効率の悪い回路だな。

 昔は回路について見て覚えていたが、流れる魔力をそのまま視れるようになった今ならば、鞘に納めていても理解できる。

「模造聖剣、【勇者】を持つ僕のためにあったような物だよ。実際、他の人が持とうとしても、バリアみたいな物に弾かれてたしね」

「そ、それは凄いだな」

 うん、凄いな。
 そんな無駄な回路で、わざわざ選別の機能まで付けてるのかよ。

 ……ああ、たしかに選別と拒絶っぽい回路もあるな。

 聖剣といっても、別に特別な物ではない。
 聖なる武器とは、特別な材料を使用して魔力回路を作った武器なだけだ。

 魔力を通した時に、純白の光が発生すればだいたい聖なる武器である。
 それ以外の色で光れば、大体のものは魔の武具である『魔○』──○は武器の種類──と呼ばれるぞ。

 要するに、リア充君の持っている剣は高価だが無駄に魔力を使う剣だってわけだ。
 特別な素材は魔力を尋常じゃないほどに消費して、回路を巡らせる。

 そのうえに非効率な回路にしていれば……聖なる武器の燃費を抑えられる【勇者】しか使えなくて当然だ。

「じゃあ、アサマサ君も良い武器を選んでくれよ。例えば……素手とかね」

「──ッ! あっ、それがいいな! アドバイス、ありがとうございます!!」

「へっ? え、あ、うん……」

 キョトンとした様子のリア充君だが、俺にはそんなことどうでも良い。

 そうだ、別に武器を使わなくても良いじゃないか!
 幸い、拳闘術は武器を持っていない時の緊急用として全員が教えてくれた。

 その選択ならば、誰も不幸にならないぞ!

 リア充君、良いヤツだったな。
 今度会ったら、効かないだろうが威圧をしようと考えてたんだが……やっぱりキャンセルにしておこうか。

 とりあえず、それを伝えておこう。
 偉そうな人の前に向かい、会話をする。

「たしか……アサマサだったな。お前はどの武器を選ぶんだ?」

「あっ、はい。俺は素手にしようかと」

「素手……格闘術か?」

「ええ、素手でないといけませんので、特に籠手なんかは必要ありません」

「そうか……なら、良いんだ」

 なんか、凄い引いてる気もするが、別に気にしなくていいか。
 一度ペコリとお辞儀をしてから、元居た場所へ戻ったのだった。

  ◆   □  移動中  □   ◆

 結論から言おう。
 俺は担当無しで武術を練習することになった……in隅っこ。

 何だか魔法と同じような展開になったが、今回に限っては完全な自業自得だし……むしろ、一人で練習したいしな。

 理由はもちろん、格闘術を教える相手がいないから……ではなく、それぞれがそれぞれで教える武器があるので、武器無し担当の者が存在していなかったからである。

 兵士の中にも、格闘術を嗜む者はいるらしい……のだが、そういう何個もできる優れたヤツは当然他の武術も扱えた。

 格闘術だけを専門とした兵士は、残念ながら余っている兵士には一人もいなかった……というわけでこの現状である。

 まあ、これでいろいろとできるよ。
 どれだけたくさんの武器を使っていてもバレないし、どれだけ変なことをやっていても気にされないだろう。

「じゃあ、歩行術の続きだな」

 前は『縮地』の段階で、いきなり足が縺れて吹っ飛ぶという事態に陥ってしまう。

 しかし、チャットで教わったコントロール法を実践してみると、それもしっかりとできるようになった。

「『縮地』……よし、できているな」

 まだまだ50cmほどでしかないが、一瞬で移動できるようになっている。
 教えた本人が見れば、叱咤するレベルではあるが……これでも慣れるのに苦労した。

「さて、そろそろ次に行くかな?」

 そして、今回行うのは『潜蛇』。
 一直線にしか『縮地』と異なり、クネクネとした移動法を取る時に使うヤツだな。

「足に気を籠めて、モノレールのように……『潜蛇』」

 意識して足を踏みだすと、急に重心が崩れて横へ倒れてしまう……やっぱり、そんなにすぐには使えないよな。

 これを教えてくれた忍者は、どこかの忍びの漫画並にいろんなことを見せてくれた。

 ソイツが『潜蛇』を使うと、荒れ地であろうと障害物があろうと綺麗に避け、まっすぐ走った時と同じ速度で進めていたな。

「もう少し、練習が必要だな~」

 再び『瞬歩』で50cmずつ移動しつつ、これからの練習法について悩んでいった。


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