最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

263話 七人目、そして八人目

「雷帝流   雷斬砲・獄!」


 握ったシュデュンヤーを振り切り、黒雷を海に向けて打ち出す。名前の通り、大砲のごとき雷撃が海を駆け、一定時間で暴発して海面が飛沫を上げる。


「千雷剣・獄ッ!」


 続けて剣を振り下ろし、太い斬撃が細かな雷撃となって海へ降り注ぐ。雷斬砲に比べれば一撃の威力は下がるが、広範囲を数で押しつぶすのはこっちの方が有効的だ。



「雷鋼剣・獄ッ!!」


 海を叩きつける様に斬りつけ、斬撃と雷が海を割って進む。


「ふぅ」


 小さく息をつき、シュデュンヤーを握る腕を見る。
 見かけだけなら特に変化はないし、試した結果この程度の技なら問題なく使える。だが、これが霹靂神や武雷針になったらどうだ。恐らくあの時の違和感は目に見える障害になるだろう。
 しばらくの戦いはこれぐらいで済ませられるといいんだが……


「一体何が起きているだ。今までの無茶のツケが回ってきたのか……?」

「やっぱり本調子じゃないんだね、クロト」


 突然背後から声をかけられ、少しギョッとして振り向くと、エヴァが立っていた。どうやら先程の様子も見られていたらしく、周囲への注意が散漫していた事を後悔する。


「大した事は無い、多少魔力が落ちてるだけで……」

「大したことないわけないでしょ! 心配させたくないのか知らないけどクロトはいつもそう! なんで言ってくれないの……? 一緒に頑張ろうってなんで言ってくれない、言わせてくれないの……?」


 今にも泣きそうなほど瞳に涙をためたエヴァの言葉に、俺の中で文字通り雷撃が走った。俺の独りよがりな自己犠牲でまたエヴァを傷付け、涙を流させてしまった事への怒り、自分の不甲斐なさ、エヴァを愛おしく思う気持ち、感謝。
 様々な感情が入り混じって複雑に絡み合い、最後には結局不甲斐なさだけが残る。


「……ッ!」


 右手を握り、思いっきり振りかぶって自分の顔面に拳をねじ込む。口の中に血が滲み、鈍い痛みが走る。


「クロト……?」

「不甲斐ない少年剣士のクロトはもう死んだ。すまない、エヴァ。もう、俺は一人じゃない」

「……」


 俺の決意に、エヴァは無言で応える。
 俺の力が多少失われているとしても、それでも守りたいものも、やり遂げなければならない事もある。それまでは、俺は死なない。


「クロト! クロト!」


 そこへ、朝から街に出ていたサエとリュウがやってくる。どうやら俺を探してかなり走ったようだ。かなり息が切れている。


「どうした?」

「ギルドの人が探してたよ!!」

「……? わかった、行こう」





「あ、魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルスの皆さん! お待ちしておりました!」

「お待たせしました。それで、用というのは?」


 サエとリュウに連れられて冒険者ギルドに来てみれば、受付の人がニコニコ顔で出迎えてくれる。奥にはギルドマスターと思わしき中年の男も立っている。それほどの事か。
 どうしたのかと聞くと、ニコニコ顔に少し緊張が走り、恐る恐る一枚の紙を差し出す。高級そうな金の刺繍が入った紙で、依頼に使われるような羊皮紙とは違う。一番上には大きな文字で「魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス クロト・アルフガルノ」と書かれている。


「これは……」


 その下に書かれた文字を読む。


――活動当初から皇帝鬼エンペラーオーガの討伐、直近ではハンター事件の解決、ウェヌス盗賊団壊滅、亜竜レヴィアタンの討伐。以上功績を踏まえ、冒険者ギルド本部より、ミスリル級冒険者〈雷撃ライトニングボルト〉のクロト・アルフガルノをオリハルコン級冒険者に認定します。――


「……え?」

「ク、クロトがオリハルコン!?」

「オリハルコンって、え、じゃああの〈風神〉やら〈正体不明の霧〉と同じって事!?」

「よかったね、クロト。むしろ遅いぐらいと思ってたよ、私は」


 リュウとサエは超が付くほど驚いており、エヴァは冷静を装ってはいるが、若干失敗している。すました顔の口角が僅かに上がっている。
 俺自身も紙を受け取ったまま手が動かない。そもそもオリハルコン級ってこんな簡単になれるのか。いや、今までの戦いは決して簡単ではなかったが……


「それに伴い〈凱龍〉のリュウ様、〈海の現身〉サエ様もゴールド級に昇格成されました」

「やっとゴールドね。このまま私もオリハルコンになってやるわ!」


 サエも自分の昇格に嬉しさを隠しきれないようで、大笑いしながら何か話し続けている。


「そういえば、ケルターメンにいらっしゃるお仲間様にも同様の連絡が入っているはずです」

「同様の……?」


 俺のオリハルコン昇格の知らせということか?


「クロトの事?」

「あ、いえ、それとは別で……」





「レ、レオがオリハルコンでありんすかっ!?」


 ケルターメン一行もギルドからの召集を受け、冒険者ギルドに赴いていた。
 シルク・ド・リベルター全員とレオ達三人、加えて三極柱が揃ってギルドに現れた時は冒険者はおろか、受付員ですらギョッとしていた。因みにミストは人目には姿を出さないと引きこもっている。


「はい!〈煌龍〉のエードラム討伐や、その……」

「オレを倒したからだな。ザシャシャ」

「その他いくつかの功績を判断して、です」

「いやん、凄いわレオちゃん!」

「大陸に六人しかいなかったオリハルコンがついに七人か」

「あ、クロト様もオリハルコン級に昇格されましたので、八名です!」

「私も一応ミスリル級になりました!」

「それは良かったです。ミストの協力有りとはいえ、私を倒したのですから、ミスリルでは足りないほどでしょう」

「報酬も出るそうですよ。三極柱が協力的になった事が今後の計り知れない利益になるとかで」

「それはその通りね。私たちのせいで解決してない依頼もこれでだいぶ片付くし」


 この異様な馴染み具合と以前の三極柱から想像もできない友好的な姿勢に誰しもが驚いていたが、これを持ってケルターメンの内部争いも終幕を迎える。


 因みにエヴァは昇格無し。

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