最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

257話 「印」

 俺、リュウ、エヴァは飛び上がり、高水圧ブレスの脇を通ってレヴィアタンに接近。
 丁度ブレスも吐き終わり、レヴィアタンは未だ健在の船や俺達に少し驚いているようにも見える。


火竜砲カノン・オブ・サラマンダー!!」


 通常片手から繰り出す技だが、両手から繰り出し、それを合わせることで威力を上げたリュウの火炎放射。レヴィアタンがいかに海の魔物でも、熱という特性は無視できない。


「リュウ!」


 エヴァの合図でリュウは攻撃を終え、次にエヴァが攻撃を仕掛ける。


「雹術 武具顕現 天之麻迦古弓あめのまかこゆみ 『雹絶弓龍星大進撃』」


 エヴァの作り出した氷の弓が放った矢は、その数を数十倍に増やし龍を象って降り注ぐ。矢はレヴィアタンの胴体、海面に面している所を重点的に降り注ぎ、海面を凍り付かせる。


「行くぞ、武雷針!!」


 右腕を硬化させ、レヴィアタンの鼻先に突き立てる。
 しばらく拮抗した後にレヴィアタンの鱗を砕き、その破片が飛ぶ。武雷針を解除し、剝き出しになった皮膚を手の平で触れる。


雷撃ライトニングボルト!!」


 落雷の如く轟音が響き、レヴィアタンに電撃が迸る。レヴィアタンは黒い煙を上げながらぐったりと項垂れ、その隙に俺達は船の上に戻る。


「出航だ! 最大速度であいつから離れろ!」

「私も手伝うわ!」


 スーサの指揮の下、すぐさま船は出航した。サエの力もあり、レヴィアタンからはどんどん距離を離している。


「何とかなったな」

「見て、クロト!」


 呼ばれて振り向けば、そこにはプリンセスコートを解除したエヴァが船の上に立っていた。


「あれ、乗り物酔いはどうしたんだ?」

「ちょっとだけマシになってる! まだちょっと気持ち悪いけど、歩いて喋るぐらいは出来るよ!」


 なんで急に……いや、ここは素直に喜ぼうか。プリンセスコートが何かの効果をもたらしたのかもしれない。


「皆様、レヴィアタンと対峙してようですが、ご無事ですか?」


 レヴィアタンが見えなくなってきた頃、エレルリーナさんがやって来た。
 そこへ今までどこに居たのかわからないが、サエの言っていた腕には包帯が巻かれている。


「丁度よかったわ。エレルリーナ、それにスーサ、聞きたいことが山ほどあるわ!」

「ええ、私も話したいことがあります」





 レヴィアタンの海域を抜け、十分に安全が確認されたところで俺達は船室に集まった。


「聞きたい事は色々ありますが、その腕はどうされたんですか?」

「……これは」


 俺達の中で一先ずエレルリーナさんがレヴィアタンだという仮説は消えていないが、少し揺らいでいる。レヴィアタンが姿を消してからエレルリーナさんが現れるには時間が短すぎる。こんな短期間で移動できるのか、というのが疑問だからだ。
 とはいえ未知の力であることに変わりはない。こちらの常識が通用するかどうかすら怪しい。


「そしてスーサ、なぜお前はここに居る」

「それは私にもわかりません。スーサ、どうして?」

「……どうしてもレヴィアタンを殺されるわけにはいかなかった」

「それはエレルリーナさんがレヴィアタンだからですか?」


 間髪入れずにエヴァが切り込む。
 多少の無理があるとはいえ、この仮説は十分に揺さぶりの効果がある。


「それは違います!」

「ではその腕の包帯は? 申し訳ありませんがサエから全て聞いています」

「スーサのレヴィアタンを殺したくない理由と、無関係ではないんですよね?」


 これ以上隠し通すのは無理と悟ったのか、二人は観念したようにぽつりぽつりと事情を話し始める


「まず、リナの病は先天性のものではないんだ。それどころか発病したのは一週間前、私達がレヴィアタンに始めて遭遇した時の事だ」





 古来よりレヴィアタンはリヴァイアサンというオスの魔物と子供を作り、繁栄してきた亜竜で、攻撃的なリヴァイアサンに対してレヴィアタンはとても穏やかで海の神様とされていた。
 だがある時、リヴァイアサンが謎の絶滅を遂げ、それにより繁殖が出来なくなってしまったレヴィアタンも、リヴァイアサンと同じく絶滅の道をたどるはずだった。
 しかし生物の進化とは不思議なもので、メスしか居ないレヴィアタンに新たな存続の道を開拓したのだ。


 それこそが「輪廻生征」。
 レヴィアタンによって「印」を付けられた生物は、レヴィアタンが死ぬ時にその体を巨大な海竜へと変化させ、新たなレヴィアタンに変化してしまう。
 こうして種族を繋いでいく事だけがレヴィアタンの残された可能性。


 だが、当然印を付けられたものにも拒絶反応が現れる。
 レヴィアタンが生きている間は印との強烈な体内戦争で身体は弱り、次第に自力では立てない程衰弱する。
 更に徐々にレヴィアタンの特徴が表れ始め、その姿を海竜に近づいていく。





「もしそのまま放置していたらどうなる……?」

「さぁ、それ以降の記録がないから恐らくは……」


 生き残ったとしても海竜となり、下手すればそのまま死ぬ。
 今までの亜竜にはそれぞれ何かしらの奥の手があった。だが、今回のレヴィアタンはとりわけ質が悪い。


「仮にレヴィアタンを殺さなかったとして、そっちの問題はどうするつもりだったんだ」


 最初、エレルリーナさんを船に乗せたがらなかったのは恐らく船の上で俺達を止めようとしていた。あるいは距離の関係でレヴィアタンの「印」も効果をなさないかもしれないという仮説があったのかもしれない。
 次にレヴィアタンの討伐、ではなく追い払うという変更。これも理由はわかる。だがどれも確信はないし、後者に至ってはその次の問題が解決していない。


「……私にもどうすればいいのかわからない。だけどレヴィアタンを殺せば確実にリナは海竜になる。だから奇跡の回復を信じるぐらいしか……出来ることがない」

「……まいったなぁ」


 正直解決案が思いつかない。そもそも解決案があればスーサがここまで追い込まれるわけもないか……


「私の事を気にかける必要はありません。私がレヴィアタンになった後、迷わず殺してください」

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