最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

254話 人に化ける竜

 その後数時間を空で過ごし、俺達は再び甲板に降りた。流石に魔力の消費も無視できず、リュウとの交代に甘えることにした。


「じゃあ頼むぞ」

「何かあったらすぐ呼ぶよ」

「ああ」


 エヴァはやはり船上ではまともに活動できず、すぐに部屋に戻る事となった。もうすっかり夜なので、俺もついでに眠ることにした。
 一人部屋なので、二人で寝るには少し狭いのだが、すっかり二人で寝ることが習慣になってしまったので仕方がない。
 俺の上にエヴァが乗る形で眠りにつく。今度はどうか起こされないことを願うな……





「様子はどう?」

「波、風、共に安定しています。シーサーペントの姿も確認できませんので、今夜は何事もなさそうです」


 エレルリーナが甲板の上で舵を取っていた航海士に状況を聞き、その報告に眉をひそめる。シーサーペントの行動を読み切れない事に加え、最も危惧すべきことがまだ解決していない。


「そう、見張りはリュウさんがしててくれるのね。貴方も少し休みなさい。もしかしたら明日にはレヴィアタンと遭遇することになるかもしれないわ」

「はいっ!」


 エレルリーナ自身も休息と考え事のため船内に入る。


「皆さんの強さは予想以上、レヴィアタンを倒す事だけは信用できる。けれど……」

「エレルリーナ?」

「貴女は……サエさん?」


 ぶつぶつと呟きながら廊下を歩いていると、反対側から現れたサエに声を掛けられる。少しぎょっとした様子だったが、すぐに平然を取り繕う。


「どうしたんですか? こんな夜更けに」

「ちょっとリュウに用事があって……って、エレルリーナ、その腕……何?」


 そんな事より、といった様子でサエが指さしたエレルリーナさんの腕には鱗に似たものが張り付いており、腕全体に及んでいる。片腕だけではあるが、少なくともサエは片腕だけ鱗が生えている人間を見たことがない。


「ッ!? ……いえ、何でもありません」

「何でもないわけないじゃない!」

「お願いします、サエさん。皆さんにはこの事はどうか内密に……」


 深々と頭を下げるエレルリーナを前に、サエはそれ以上踏み込めなくなる。クロトがあの時踏み込めなかった理由を、今体験し、理解した。


「わ、わかった……」

「ありがとうございます」

「……」


 そのまますれ違い、二人とも無言で目的地に向かう。サエの目的地は変わり、リュウのところではなく、クロトの部屋なのだが……





「クロト」


 何か囁かれたような気がして目を開けると、ぼやけ為に金色の何かが見える。眼をこするとドアの前にサエが居た。


「ん、どうした?」


 上に乗っていたエヴァを起こさないように起き上がり、サエの用件を聞く。


「……エレルリーナがレヴィアタンじゃないかしら?」


 突拍子もない話に、サエは寝ぼけているんだと思ったが、その目は真剣。恐らく何かしらの考えがあるんだろう。


「なぜそう思うんだ?」

「さっき廊下でエレルリーナに会ったんだけど、その腕に鱗が生えていたの。皆には秘密にしておけって言われたんだけど……」


 人の腕に鱗。聞いたことがない。だがもしもレヴィアタンに偽装やそれに近い能力があるとすれば……


「詳しい話を聞いてみないと判断はしきれない。リュウの所に行こう、あいつなら七頭のドラゴンにも詳しいだろう」

「わかったわ」





「ええ!? エレルリーナさんがレヴィアタン!?」

「しーッ! 声がでかいわよ!」

「それにまだ確定したわけじゃない」


 リュウにサエの推測を話すと、予想通りといった反応を示した。甲板に海賊団は居ないが、この船の防音設備は皆無に等しい。木造だしな。


「それで、レヴィアタンにそういった人に化けるみたいな力はないか?」

「うーん……俺も海に住む統率力を持つ唯一の亜竜って事しか」


 統率力。恐らくシーサーペントらを操っているのがそれだろう。が、人に化ける説明にはならない。


「あ、そういえば昔は海の亜竜と言えばレヴィアタンとリヴァイアサンっていう二匹が居たんだって それも複数。最初鎧から分離したときは一組のレヴィアタンリヴァイアサンだったんだけど、それから増えたみたい」

「ん? そうなるとなんで今はレヴィアタンだけなんだ? しかも今から討伐する一匹だけなんだろ?」

「うん。俺の何代も前の出来事だから流石にわからないけど、ある時からレヴィアタンただ一匹だけになった。多分何かしらの外敵にやられたんじゃないかな」


 奇妙ではあるが、人に変化はやはりしないのだろう。


「……やっぱり気のせいとかじゃないのか? もしくは奇病とか」

「気のせい……ってことはないわ。でも奇病はあり得るかも。早とちりだったわね」


 サエも不可解な現象を理解できずに居たが、仕方ないという風に首をすくめる。


「リュウ、見張り変わるわ。って言ってももうすぐ夜が明けそう……だ、けど……」

「ん?どうしたの。サエちゃん」


 サエは何か別の事に気を取られるように目をきよろきょろと動かす。だが、サエが口を開くより早く、クロトやリュウにも分かった。
 とてつもない圧力を伴ったものが海底から上がってきている。避けきれない。


「伏せろ!!」


 叫ぶと同時に船のすぐ近くで巨大な水柱が立ち上った。
 何かが海から姿を現した時のそれではない。もっとデカいエネルギーが海底から打ち上げられたんだ。


「来るぞ、奴だ」

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