最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
241話 事情
「スーサ、様子はどうだ?」
テント群の最奥、エレルリーナさんのテントに入ると、団員達に囲まれるようにしてベッドに横たわるエレルリーナさんとそのすぐ近くに立つスーサの姿が目に入る。
「クロト、皆……奴らは?」
「街へ叩き返したわ! 身の程を知らない奴らだったわ」
「そうか……すまない」
「気にするな。それで?」
見たところエレルリーナさんの顔色はそう悪くはないように見える。少なくとも先程よりはかなり落ち着いている。
「発作が出ただけで、今は収まってる。絶対安全とは言えないけど、これまでの様子を見てもしばらくは大丈夫だと思う」
それは良かった。しかし今度の問題は明日だな。エレルリーナさんの病状がここまで酷いとなるととても航海は無理。
スーサの言う通りここは待っていてもらうのが得策だろう。
「クロト、明日のことについてはこれから考えるとして、一つ頼みがある」
スーサが振り返り、改まった様子で話す。
「レヴィアタンを倒すのではなく追い払ってくれないか?」
スーサの言葉に周りの団員達もざわざわと顔を見合わせる。
そりゃそうだ。街を困らせている元凶を追い払うだけではいつまた同じ状況に陥るかわかったもんじゃない。それに……リュウを振り返るとブンブンと顔を横に振っている。
「それは出来ない。こっちの都合で悪いがレヴィアタンは倒す」
「……そうか」
あからさまに落胆した様子で呟く。初めてあった時に感じた覇気は殆ど無い。何か訳ありとは思っていたがここまでか……
「もし何か理由があるなら……」
「また明日、朝テントまで迎えに行く。今日はもう休め」
有無を言わさぬその雰囲気に、続きを言えずに俺達はテントへと戻った。
戻ってからサエに何で押し切って聞かなかったのかと責められたが、どうにも踏み入っちゃいけないような気がした。その場は何とかごまかしたが、サエもリュウも納得はしていないだろう。何も言わずに側に寄り添ってくれるエヴァが今はとても有り難かった。
◇
日が沈み、辺りが夜の吐息に包まれた頃。
『準備ハ整っタ』
「ああ、行くぞ」
「あ、あの……ここにきて言うのもなんですが、私なんかが本当に大丈夫なんでしょうか。オリハルコンとやりあうなんて……」
まさに攻め込もうという時にリンリが申し訳なさそうに口を開く。
「どうしても不安ならここで待ってろ」
「それもそれで嫌です!」
「なら自分の事ぐらい自分が一番信じろ……危なくなったらおれのところに来い。オリハルコン相手でも守り切ってやる」
『俺もいるしナ』
「……ありがとうございます!」
少しは不安も払拭されたのか自然とリンリの表情に笑みが溢れている。最後の確認の為、それぞれが準備に移ったところでシエラがレオに近ずく。
「珍しくらしくない事を言ったでありんすね」
「クロトならそれぐらいは言うと思った。あいつもおれの超えなければならない壁だ。代わりぐらい出来ないとな」
「変わりんしたね」
「変わってはいない」
何かに満足するようにニコッと笑った後、シエラはレオの元を離れ、リンリの元へ向かう。レオの言葉で多少の不安は払拭したとはいえやはりその動きはぎこちない。
そんなリンリにシエラは後ろから抱きついた。
「シエラ?」
「信じているでありんす」
「……うん! 行ってくる、お姉ちゃん」
完全に緊張が解けたのか先ほどと顔付きが変わった。目には闘志の炎が燃えている。
『行くぞ。相手ハ二人ダガ、〈女帝〉の動きにも注意しテおケ』
「おう」
「はい!」
◇
同時刻、旧冒険者ギルド跡地では……
「ザシャシャ、お前の言う通り暫く身を潜めたが、意味あんのか?」
「意味ならあるわよ。少なくとも奴らは私達に接触するためにはここに直接来るしかない」
「つまり我々の方が遥かに有利。タイミングも場所も、全てを掌握できるわけです」
リエラとサーキンの言葉に理解と不可解という中途半端な顔をしていたが、戦えるなら何でもいいと聞き流す。
「で、どうするんだ?」
「私は戦いには参加しないわ。連中と関わると自信喪失しちゃう」
「そんな相手が……いえ、それもそうですね。セカンドスペルならまだしも、こちらの情報が流れているならば魅了は無意味。それに、我々二人で手に負えない奴がいるかどうか……」
「で、誰とやれんだ?」
「階級はミスリル、刀使いのレオ、〈正体不明の霧〉、そして〈炎刀の巫女〉のリンリ。〈炎刀の巫女〉はともかくレオはかなりの強者と聞いています。私が行きましょうか」
「いやオレが行く……久々に斬れそうだ」
「では私が残りの二人を」
「わざわざ来るのを待つ必要はないわよ。出てきたところを奇襲して〈風神〉諸共やっちゃうといいわ」
「ザシャシャ、そりゃいい」
腰掛けていたベンケイも傍の水天一碧を掴み、歩き出す。サーキンもそれに習い、シルク・ド・リべルターへ向かう。
「ごめんなさいね、〈魔狩りの雷鳴〉。確かに参戦はしないけど、負けるつもりもないのよ。私」
テント群の最奥、エレルリーナさんのテントに入ると、団員達に囲まれるようにしてベッドに横たわるエレルリーナさんとそのすぐ近くに立つスーサの姿が目に入る。
「クロト、皆……奴らは?」
「街へ叩き返したわ! 身の程を知らない奴らだったわ」
「そうか……すまない」
「気にするな。それで?」
見たところエレルリーナさんの顔色はそう悪くはないように見える。少なくとも先程よりはかなり落ち着いている。
「発作が出ただけで、今は収まってる。絶対安全とは言えないけど、これまでの様子を見てもしばらくは大丈夫だと思う」
それは良かった。しかし今度の問題は明日だな。エレルリーナさんの病状がここまで酷いとなるととても航海は無理。
スーサの言う通りここは待っていてもらうのが得策だろう。
「クロト、明日のことについてはこれから考えるとして、一つ頼みがある」
スーサが振り返り、改まった様子で話す。
「レヴィアタンを倒すのではなく追い払ってくれないか?」
スーサの言葉に周りの団員達もざわざわと顔を見合わせる。
そりゃそうだ。街を困らせている元凶を追い払うだけではいつまた同じ状況に陥るかわかったもんじゃない。それに……リュウを振り返るとブンブンと顔を横に振っている。
「それは出来ない。こっちの都合で悪いがレヴィアタンは倒す」
「……そうか」
あからさまに落胆した様子で呟く。初めてあった時に感じた覇気は殆ど無い。何か訳ありとは思っていたがここまでか……
「もし何か理由があるなら……」
「また明日、朝テントまで迎えに行く。今日はもう休め」
有無を言わさぬその雰囲気に、続きを言えずに俺達はテントへと戻った。
戻ってからサエに何で押し切って聞かなかったのかと責められたが、どうにも踏み入っちゃいけないような気がした。その場は何とかごまかしたが、サエもリュウも納得はしていないだろう。何も言わずに側に寄り添ってくれるエヴァが今はとても有り難かった。
◇
日が沈み、辺りが夜の吐息に包まれた頃。
『準備ハ整っタ』
「ああ、行くぞ」
「あ、あの……ここにきて言うのもなんですが、私なんかが本当に大丈夫なんでしょうか。オリハルコンとやりあうなんて……」
まさに攻め込もうという時にリンリが申し訳なさそうに口を開く。
「どうしても不安ならここで待ってろ」
「それもそれで嫌です!」
「なら自分の事ぐらい自分が一番信じろ……危なくなったらおれのところに来い。オリハルコン相手でも守り切ってやる」
『俺もいるしナ』
「……ありがとうございます!」
少しは不安も払拭されたのか自然とリンリの表情に笑みが溢れている。最後の確認の為、それぞれが準備に移ったところでシエラがレオに近ずく。
「珍しくらしくない事を言ったでありんすね」
「クロトならそれぐらいは言うと思った。あいつもおれの超えなければならない壁だ。代わりぐらい出来ないとな」
「変わりんしたね」
「変わってはいない」
何かに満足するようにニコッと笑った後、シエラはレオの元を離れ、リンリの元へ向かう。レオの言葉で多少の不安は払拭したとはいえやはりその動きはぎこちない。
そんなリンリにシエラは後ろから抱きついた。
「シエラ?」
「信じているでありんす」
「……うん! 行ってくる、お姉ちゃん」
完全に緊張が解けたのか先ほどと顔付きが変わった。目には闘志の炎が燃えている。
『行くぞ。相手ハ二人ダガ、〈女帝〉の動きにも注意しテおケ』
「おう」
「はい!」
◇
同時刻、旧冒険者ギルド跡地では……
「ザシャシャ、お前の言う通り暫く身を潜めたが、意味あんのか?」
「意味ならあるわよ。少なくとも奴らは私達に接触するためにはここに直接来るしかない」
「つまり我々の方が遥かに有利。タイミングも場所も、全てを掌握できるわけです」
リエラとサーキンの言葉に理解と不可解という中途半端な顔をしていたが、戦えるなら何でもいいと聞き流す。
「で、どうするんだ?」
「私は戦いには参加しないわ。連中と関わると自信喪失しちゃう」
「そんな相手が……いえ、それもそうですね。セカンドスペルならまだしも、こちらの情報が流れているならば魅了は無意味。それに、我々二人で手に負えない奴がいるかどうか……」
「で、誰とやれんだ?」
「階級はミスリル、刀使いのレオ、〈正体不明の霧〉、そして〈炎刀の巫女〉のリンリ。〈炎刀の巫女〉はともかくレオはかなりの強者と聞いています。私が行きましょうか」
「いやオレが行く……久々に斬れそうだ」
「では私が残りの二人を」
「わざわざ来るのを待つ必要はないわよ。出てきたところを奇襲して〈風神〉諸共やっちゃうといいわ」
「ザシャシャ、そりゃいい」
腰掛けていたベンケイも傍の水天一碧を掴み、歩き出す。サーキンもそれに習い、シルク・ド・リべルターへ向かう。
「ごめんなさいね、〈魔狩りの雷鳴〉。確かに参戦はしないけど、負けるつもりもないのよ。私」
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