最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

235話 海の街 シーゼロッタ

「意外と……」

「あっさり着いたね」


丘を数回越え、一度野営した後に見えてきた街は、今まで見て来たカサドルやケルターメンと比べるとずいぶん小さな街だ。水平線の彼方まで広がる海と青空、そこから吹いてくる潮風は初めて感じる感覚だ。
 それに今までの街とは街の雰囲気が違う。何というか、キラキラして見える。


「初めて見たがあれが海か……」

「いいものでしょ? まるで私のようだわ!」

「確かに荒れるとどんなものでもなぎ倒す所とか似てるかも」

「リュウ? どれはどういう意味よー!」

「あ……」


 元気が有り余っているのか二人共走って行ってしまった。追う者、追われる者の構図だったのは気にしなくてもいいだろうか……


「でもクロト。街の様子変じゃない?」


 言われてみれば……
 海に面しているからには漁業が盛んとは思っていたが、港には船が多く停泊している。レヴィアタンのせいで漁に出れないのだとしても、それレヴィアタンを目当てに来た冒険者が多くいるはず。海に生息するレヴィアタンを倒すためには船を出す必要があるからてっきり船もすっからかんかと……
 もしかして……


「もうレヴィアタンは討伐されたのか?」

「それだと漁がおこなわれてないのが気になるね。どちらにしても色々聞いてみた方がいいかも」

「そうだな」


 海の街シーゼロッタは町の入口の方が高く、海の方に行くにつれてどんどん下り坂になっている。故に入り口からは町が一望できる。民家は二十軒ほどだろうか。商店もいくつか見える。あとで行ってみよう。
 それより先に行くべきは……


「冒険者ギルドか、港か……」

「港に行ってみよ! 海も見たいし」

「わかった、行こう」





「あ、サエちゃん 見てよあれ」

「そのサエちゃんってのやめなさいよ、子供みたいでしょ。……で、どれ?」


 追いかけっこは体力的に勝るリュウの勝ちに終わり、二人は切り替えて観光に映っていた。あくまで情報収集という名目でだが。


「ほら、あれ冒険者ギルドでしょ?」

「そうね……でも何あの感じ まるで失業者の吹き溜まりだわ!」


 何故か多く冒険者たちが皆揃って肩を落としており、その数はギルド内に収まりきらず、外にまで溢れている。全員が気力をなくしたように暗い顔をしている。


「ねぇ! どうかしたの?」


 冒険者とは、もちろんピンからキリまでいるが基本的に騒がしい。そんな連中がこれだけ集まっているのに、奥のカウンターで資料整理をしている受付嬢のため息が聞こえてきそうなほど静かだ。
 これを「まぁそういう日もあるわよね!」と流せなかったサエは思わず声をかける。


「なんだアンタら。アンタらもレヴィアタン倒して一旗揚げようってたちか?」

「ま、まぁそんなところね!」

「じゃあやめときな。金のあるうちに帰れ」


 外に座り込んでいた男の冒険者はシッシと追い払うように手を払う。


「話ぐらい聞かせなさいよ!」

「……ハァ、俺達……俺達ってのはレヴィアタン目当てで来たこいつらの事な」


 親指で背後のギルド内で項垂れる冒険者たちを指さしながら話を続ける。


「俺達はレヴィアタンの情報を聞き意気揚々とこの街にやって来た。あんたらも同じ冒険者ならわかると思うが、レヴィアタンは超級魔物だ。そいつを倒したとあれば報酬はもちろん階級だって一つや二つ平気で上がる。俺達ゴールド級からすればオリハルコンへの大きな躍進だ。だがこの街に来て、いざ船に乗り討伐に向かおうとした俺達は、思いっきり出鼻を挫かれた」


 男の話によるとこの街の船乗りや漁師たちをまとめているのは一つの海賊団らしい。とは言っても支配的にまとめているのではなく、漁の間海の魔物から漁師達を守る代わりにその漁で捕れた魚の一部をもらうというギブアンドテイクの関係だ。
 海賊たちは町人に手を出すことはないし、むしろフレンドリーに接している。町人たちも彼らを信頼しており関係は固い。というわけでこの街で船を出すには海賊団の船長に許可をもらうのが一番手っ取り早いのだが……


『お前達がレヴィアタン討伐を手伝ってくれる冒険者か』

『ああ、そうだ』

『早く船を出してくれよ』


 集まった冒険者は我先にと海賊のもとに集まった。そんな彼らを迎えたのは巨漢……と見間違うほどたくましい女。海賊団の船長だ。
その巨体と筋肉量をいかんなく晒しながらギロッと冒険者一同を睨む。


『我々が奴を発見したのは一週間ほど前、沖合の辺りだ。それは突然やってきて、一瞬で全てを薙ぎ払っていった。海中から高水圧の咆哮ブレスが放たれ、船一隻が丸々消え去った。乗員は大怪我を負い、今も目を覚まさない者も居る。幸運にも死者は出なかったが、我々は憶病にも逃げ帰ることしかできなかった』


 船長の話を聞き、怖じ気付く者も居たが大半はだから何だという様子だ。


『だからそれを倒すために俺達を集めたんだろ?』

『早く船出そうぜ。さっさと倒してやるから』

『あれがいる限りは漁も出来ん。だから貴様らを呼んだ。だが、これより船に乗せるのはこの私に膝をつかせられた者だけだ。有象無象を連れて行っても負けて終わるだけだ 大事な船も乗員クルーも無駄には出来ん』

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