最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

234話 出発早々

「じゃあ、またな」


 別れも簡潔に済ませ、俺達レヴィアタン組は出発した。
 とは言っても三極柱組は作戦会議が夜中まで続き、今はまだ寝ている。ので、見送りに来てくれたのはシエラとリンリ、それにシルク・ド・リベルターのグラブスやボーンマンらだけだ。


「シーゼロッタまで確か二日程度だったわよね」

「何事もなく、行けばだけどな」


 草原に出てまだほんの少ししか時間は流れていない。二日もあればいくらかの障害が立ちふさがるとは思っていたが……
 視界を遮るものが無い一面草原の中、前方に映る多くの影は間違いなく木々ではない。


「あれって、魔物?」

「いや、どうも人っぽい」


 最初はゴブリンの群れかと思ったが、よくよく見れば身なりは統一された黒装束だし、持っている武器もゴブリンがが持っているにしては上等だ。


「あれは……盗賊じゃない? ウェヌス盗賊団が身を引いたから今まで虐げられてきた盗賊団がここぞとばかりに出しゃばってるんだわ!」


 なるほど。ウェヌス盗賊は解散こそしていないが活動は控えるようになっている。思わぬ弊害だったか。


「エヴァ! 一戦交える。行けるか?」

「ま、任せ……うう」

「よし、無理だな。行くぞリュウ、サエ」

「え、ええ。俺も!?」

「ほら、行くわよ!」


 姿をはっきりと捉えられる位置まで接近した所で馬車を止める。盗賊達がニタニタと笑いながら半円形に広がって俺達を逃がすまいと周囲を囲う。数は二十弱。サーベルのような武器を持った者が大多数。奥に二人、弓持ちがいるな。


「おいおい、兄ちゃん達。ここを通りてぇなら俺た……」

「弓持ちからやれ」


 俺の指示で荷馬車の二人が大きく上に飛びながら外へ出る。


「龍鎧装 右腕アーム!! 行くぞ……我龍殲滅弾カノン・オブ・ドラゴ


 リュウの右腕から放たれたエネルギーの雨が弓使いどころか盗賊団の半数を消し飛ばす。


「水術 水刃!」


 サエの右手から放たれた一枚の水刃が残った弓使いを的確に斬り裂き、無力化させる。水術の初歩的な術だが極めればそこらの名刀より斬れるらしい。


「な、なんだこいつら……話全然聞かねーし」

「雷帝流……」

「あの男を仕留めろ!」


 残った半数が未だ何もしていない俺に狙いを定め、にじり寄ってくる。手綱を離し、前板に立ち上がってシュデュンヤーを抜くと同時に攻撃を放つ。


「雷斬砲・獄!!」


 螺旋を描きながら飛んだ斬撃は盗賊を吹き飛ばし、盗賊団は残り数人にまで減った。実力は大したこと無い。まぁあいつらウェヌス盗賊に虐げられてきたんじゃその程度か。


「く、くそが……こうなれば俺が……」

「だ、団長! こいつら、この前記事に載ってた〈魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス〉です!?」

「な、なんだと……じゃあこいつらがウェヌス盗賊を撃退したっていう……」

「み、見てくだせぇ あっちの二人は〈凱龍がいりゅう〉と〈海の現身うつしみ〉! 向こうは〈雷撃ライトニングボルト〉のクロト! 荷台には〈氷姫〉まで……本物だ! 本物の……」


 ご丁寧に全員の紹介までしてくれやがった。この二つ名はシルバー級以上なら自然に付くらしいが、俺達の場合は経歴が経歴だけにメンバー全員がめでたく二つ名を付けられている。レオは〈獅子の牙〉、シエラは〈月女神アルテミス〉、リンリは〈炎刀の巫女〉だったか。パーティ名を決める時に着けたがってた名前が二つ名になって満更でもなさそうだったな。


「か、勝てるわけねぇ! 逃げろ!」


 一目散に逃げる団長とその取り巻きを追おうとするリュウとサエを手で制し、両手を突き出し、向かい合わせに構えた掌間に電流を流す。


「遅い。雷砲!」


 レーザー砲の如く放たれた雷が地面に着弾し、全員纏めて吹き飛ばす。


「他愛ないな。こんなものか」


 シュデュンヤーを鞘に戻し、二人が荷台に乗るのを手伝いながらもふと思ったことを呟く。


「元を知らないから何とも言えないけど……いい? あんた達ウェヌス盗賊に勝ってるのよ? そんじょそこらの盗賊団に苦戦するわけがないの! 大陸中探してもあんた達に苦戦させられる相手なんて両手でギリギリ数えきれないぐらいなんだから!」


 サエが人差し指だけを立てて俺の顔に突きつける。


「両手でも数えきれないんだな」

「そりゃそうよ。帝国には大将軍だっているし、三極柱だっているわ。でも逆に言えばそんな連中と肩を並べるレベルに来てるんだから、ちゃんと自覚しなさいよ!」

「あ、ああ……わかったよ」

「お、俺はそんなことないけどね!」


 ゴンザレスとエリザベスに出発の合図を出し、後方の会話に耳を傾けつつも考えに耽る。
 四魔王、そして大魔人を倒す為にがむしゃらに戦っていたが、気づけばこんなにも強くなっていた。もう少し自覚もしていかないとな。


「よし、遅れた分上げていくぞ!」

「おお!」

「お……おうぷ……」

「と、止めるか?」

「大丈夫……うっ」

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