最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

233話 強き愛

「私の術が効いてないのかしら?」

「術? 一体何の事だ」


 まさに予想外。といった表情を浮かべた女性は、少し面白そうに口角を上げる。それよりもエヴァさん。そろそろ俺の右腕が氷漬けになりそうなんですが……


「なるほど、これだけ噂になるだけの事はあるのね、貴方。私の術は……説明するよりも見てもらった方が早いか……『貴方達、散りなさい』」


 何か強い言霊の様なものが場に走り、周りにいた人だかりがまるで全員、同時に用事を思い出したように、各々がこの場を立ち去り始めた。蜘蛛の子を散らすとはまさにこの事だ。


「私が目を合わせ、魅了した者を自由に操る術。それが私の術よ」

「魅了……? だからこんなところで注目を集めていたのか?」


 何やら同じような能力を持った冒険者の話を聞いたことがあるような……


「そういう事」

「何のために?」

「この街に居るシルク・ド・リベルターの事は知ってるでしょ? あれがもしかしたら私達に攻撃を仕掛けてくるかもしれないから、その準備ね」


 魅了して操る。美貌。シルク・ド・リベルターと敵対関係。
 ……あ、忘れてた。ついさっき聞いた話なのに。人々を美貌で惑わせ自らの兵隊にする魔性の女。物量戦を得意とするオリハルコン級冒険者、〈女帝〉リエラ・アトラクス。


「へ、へぇ。じゃあ町の人を使って戦争でもするのか? 〈女帝〉は」

「それが私の戦い方だもの。貴方達もいつまでもシルク・ド・リベルターの味方をしていると潰すわよ?」


 ぞわぞわと威圧感が首筋を撫でる。即席に軍隊を作り上げることが〈女帝〉の脅威であるとは聞いていたがこの威圧感はそのまま戦っても強い。


「その自慢の魅了は俺達に効いていないみたいだが?」

「この術の発動条件は私に少しでも心を奪われること……女性でも例外なく、ね。女性でも女性を美しいと思う事はあるでしょ? 貴方達に効かないのは恐らくそれよりも強い愛で結ばれてるからね。この術は私の美貌を勝る絆の前には意味を為さない。貴方達の愛が私の術よりも強かっただけって話よ」


 効果を見たあとに言われると少し顔が熱くなる。そして右腕の氷が溶けていく。エヴァの言った悪い予感はこの事も含まれていたのかもしれない。


「それで、町人を俺達にけしかけるか?」

「そうね。貴方達優しそうだからそれもいいけど……でもやめておくわ。久しぶりにいいもの見せてもらったもの。この術は私の意思とは関係なく発動して魅了してしまうからどんな仲の良い男女も所詮はこの程度と思ってしまう」


 飽き飽きするように言ったリエラからは悲しさの雰囲気が漂ってきた。過去に何かあったのだろうか?確かにどんな男女も無意識のうちに破局させてしまうというのは中々精神に来そうだ。


「貴方達に免じてここは退くわ。シルク・ド・リベルターとの抗争にも参加しない。ほかの二人ベンケイとサーキンが敗れたら私も従うわ」


 手をひらひらと振りながら去って行くリエラを見てどうにも聞いていた印象との違いが気になってしまう。


「とても噂に聞いてた〈鬼帝殺し三極柱〉の一角とは思えない雰囲気だ」

「強い悲しさや虚しさが見えた。確かに威圧感はあったけど……そんなに怖い人じゃないのかも?」


 リエラが術を解いたのか、さっきの命令を取り消したのかはわからないが次第に人も戻って来た。特に何か騒ぎになるわけでもなく、自然に戻って来ているところを見るにあの術のレベルの高さが伺える。


「とりあえずみんなのところに戻るか 一応報告は……どうした?」


 引き返そうとすると、服の端をギュッとエヴァが引っ張る。


「もうちょっとだけ、見て回ろ?」





 リエラの一件の後、エヴァのショッピングに付き合い、シルク・ド・リベルターのテントに帰ってくる時にはすっかり夜になっていた。


「ナ、〈女帝〉ト一戦交エタダ!?」

「よく生きていたな。二人だけで」


 テントの一角で俺とエヴァはレオ、リン、雨刃、ミストに今日の一件を報告していた。


「交えたって言っても殆ど私たちは何もしてないよ。強いて言うなら……」

「とりあえずシルク・ド・リベルターとの抗争には参加しない。他の三極柱が敗れたら従うと言っていた。なかなかでかい収穫だろ」


 何やら顔を赤らめているエヴァが変なことを言う前に話の流れを変えておく。


「デカイドコロジャナイ」

「ある意味最強の一角ともいえるからな」

「おれはその〈鬼斬り〉と戦えればいい」

『一番の不安要素ガ消エタ。後ハ単純ナ力比ベダ。しカし、一人デアのベンケイとヤり合エるのカ?』

「……ぐー……ぐー」

「まぁ……レオなら大丈夫だろう」

「俺達は明日の朝一番に出発する。こっちは任せたぞ」

「ああ」

「任セロ」

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