最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

232話 強者の街

「この人が……ミスト」

『ん? 大半ハ初メマしてカ。噂ハ聞いテいるぞ。〈魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス〉』


 大男のシルエットに霧がまとわりついた様な姿をしたミストは所々が曇ったような声をで呟いた。手短にレオに事情を聞くと、どうやら俺達と合流する以前にミストと遭遇していたらしい。


『アの辺りハ俺の居住区デナ。アまり争い事にもしタくナカっタのデ眠っテもラっタ』

「あまりいい思い出じゃないがな。手を貸すといったか、役に立つんだろうな?」

『少ナくともこの二週間マスターボウに手を出サセナい程度マデ追い詰メタ』

「……ならいいが。話によればその三人組の中に剣士がいるらしいじゃねーか。そいつはおれがもらうぞ?」

『構ワん。マァ、剣士というよりハ切レる竜巻のようナ男ダガナ』


 戦力の心配も、ミストが手を貸してくれるなら少しは安心か。俺達の方も出発の準備を進めないとな。


「俺達は明日の朝にここを出発する。帰りはいつになるかわからないけど、とりあえずまたここに来るよ」

「アア。今日ハココニ泊マッテイクトイイ。何カ必要ナ物ガアレバ言ッテクレ」

「ありがとう、とりあえずは街を見て回るよ。もしかしたら目的の物もあるかもしれないし」

「ワカッタ」


 その後、少しの間世間話を楽しみ、シルク・ド・リベルターのメンバーに顔を出したり、シーゼロッタまでの道のりを確認して過ごした。
 〈鬼帝殺し三極柱〉組は何やら作戦会議をしているらしく、ずっと引きこもっている。〈鬼帝殺し三極柱〉組とは言っても好戦的なレオとミストのほぼ二人なのだが。
 雨刃とリンは己の実力不足を深く感じているらしく、少し乗り気ではない。シエラは元々マスターボウを診るために残っているので戦いには不参加。
 リンリはどうしようか迷っているらしい。


「まぁ、皆が生き残ってくれればそれでいいが……」

「相手が相手だもんね。でもレオだし心配はいらないかも」

「確かにな」


 少し時間が余ったので、予定通り街を見に来たわけだが、やはり賑わいがすごい。
 エルトリア帝国城下町やセントレイシュタンとほぼ同じだけの賑わいがあり、アルバレス公爵領最大の都市というのも名前だけではないと言うわけだ。
 リュウとサエはどこかに行ってしまったので別行動。なので例の如くエヴァと二人だ。


「えーっと、この通りは……」

「二番だって。あそこに書いてるよ!」

「お、本当だ」


 二番通りには武具店が多くある印象。エヴァはそんなに楽しくなさそうだが、ここは我慢してもらおう。


「そう都合良くは無いよな〜」

「ずっと気になってたんだけど、何を探してるの?」

「テンペスターと同等の剣、あとは追加で液状の金属だ」

「何に使うの?」

「リンリに合った剣を用意してやろうかと思ってな。魔力が乗りやすい鉱石は希少だから、そう簡単には見つからないと思うけど。液状の金属はサエの戦闘スタイルを見直した結果だ」

「そういえばテンペスター貸しっぱなしだもんね。サエの方はどういう事?」

「液体を操れるならそれが金属であれば武器を持った相手にも物量戦以外で戦えるだろ? いつでも川や池がある事を期待も出来ないし、そういうのがあったら便利だろうな〜って」

「なるほど……ん? あの人だかりはなんだろう?」


 見れば、数十メートル先にエヴァの言った通り人だかりが出来ており、何やら騒がしい。


「行ってみよ!」

「あ、ああ」


 エヴァに手を引かれ、近づくとどうやら人は冒険者ギルドの前に集まっているらしい。野次馬のように円形に広がった人々の中心に一人の女性が立っている。
 遠目から見ても並々ならぬ美貌の持ち主だとわかる。それと同時にその女性を見た瞬間何かを思い出しそうなのだが上手く出てこない。ピンク色の髪をなびかせ、これまであったどの人よりも強く美のオーラを感じる。


「……っと、どうした?エヴァ」


 気づくと足が勝手に動いており、エヴァにぎゅっと引っ張られて我に返る。


「い、いや、なんでもないんだけど……なんだか嫌な感じがして……」


 エヴァの感はよく当たる。というよりもエヴァの体内にある魔力は人よりも多く、魔力に関連する事へのセンサーが敏感なのだ。


「確かに、只者ではなさそうだけど……」


 キョロキョロと誰かを探すように首を振っていた女性と目が合い、女性がツカツカと歩み寄ってくる。今どき珍しいチャイナ服に身を包んだ女性は俺だけを捉えて近づいてくる。
 エヴァの掴んだ腕から若干の冷気が俺を正常にしているが、これが無ければ見惚れてしまいそうだ。


「……貴方、〈魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス〉のリーダーでしょ。少しお話しましょうか?」

「……STRONGERの効果は絶大だな。あんたは誰だ?」


 至って普通の返しだったと思うが、俺の返事を聞いた女性は驚いたように目を見開いた。何かが思い出せそうで思い出せない。なんだったか……この女性に関係があるのだろうか……?

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