最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

231話 新しい選択肢

 テントの中に入るとカーテンに仕切られた細い廊下が続いており、リンは迷う様子もなくずんずん進んでいく。何度曲がっても同じ景色が続いており、頭がぐるぐる仕掛けた時、リンは突然立ち止まった。
 最初は気付かなかったがどうやらカーテンで仕切られた向こう側に部屋があるらしく、入り口の部分のカーテンが少し開いている。


「雨刃、私だ」

「アア」


 中に居るのであろう雨刃と短くやり取りを交わすと、リンが中へ入り、俺達にも入ってくるように手招きする。
 入るとそこは部屋の大きさの割に正面にベッドが一つ置いてあるだけのシンプルな作りで、テントにベッドという若干の違和感を感じるものの、そう変ではない。壁際に立っている雨刃も以前と変わった様子はない。だが、視線がグルッと部屋を見渡し、ベッドに止まった時、思わず足も連動するように止まってしまう。


「嘘だろ……」


 七人のうち面識が唯一無いサエでも名前や姿は知っている。
 〈シルク・ド・リベルター〉のオーナーにしてオリハルコン級冒険者〈風神〉のマスターボウ。その人が全身に包帯を巻いて眠っていた。俺がこれまで出会った中でもかなり上位に入る実力者。デルダインレベルの敵でなければ負ける姿が想像つかない。だが、眼前に横たわるマスターボウは明らかにに大ダメージを受けている。
 包帯越しにも傷が完治していないという事はわかり、それだけダメージが深いという事を表している。


「何があったんだ!? マスターボウがやられるなんて……デルダインの時ですらここまで重症では無かったぞ。一体誰と戦ったらこうなる?」

「戦った相手は同じオリハルコン級冒険者〈女帝〉リエラ・アトラクス、〈鬼斬り〉ベンケイ、〈暗殺王〉サーキン・バトラー。〈鬼帝殺し三極柱〉と言えばわかるだろう」


 そういえばナイアリスから注意しろと言われていた恐ろしく強い三人がそんな名前だった気がする。
 リンと雨刃に話を聞くと、どうやら近々起こるであろう魔族との戦争に戦力として協力を仰いだところ、戦闘に発展。同じくオリハルコン級のミストの手助けにより何とか逃亡に成功したが、見ての通りマスターボウは目覚めないままらしい。


「傷が深すぎるんだ。治療は終わってるのか?」

「これが、町の医者の最大限だと言う。私達の中に癒術を使える者は居ない。故にこれが出来る最大限なのだ」

「ソモソモ町ノ医者ナンテモノハソコマデ練度ガ高クナイ」

「わっちが診るでありんす」

「シエラ、出来るか?」

「何とも言えないでありんすが、もしかしたら……」

「頼む」


 思ったよりも事は大きい。
 力を示さなければ協力をしないというのはシンプルでわかりやすいが相手がそこまで強いと話は変わってくる。とは言ってもその三人の力が借りられれば有利な事に違いはない。国からの依頼というものに関係があるのかもしれないが、少なくとも俺の魔族への敵意を汲み取ってくれた行動に違いない。なんとか出来ればいいが……


「協力してやりたいが、俺達も先を急がなければならない理由がある」


 レヴィアタンの情報はアルバレス公爵領全体に渡っている。急がなければ先を越されてしまう。


「巻き込むつもりは無い。クロト達は旅を続けてくれ」


 って言われてもな。じゃあ、と言って割り切れるものでもない。
 俺としても戦争の時の戦力は多い方が嬉しい。戦争が起こる前に倒すのが最善だが、起こってしまった場合も考えないわけにはいかない。


「おいクロト。おれは竜よりその三人と戦ってみたい」


 またレオは……いや、そういう事か。俺達も今や七人のチーム。何も全員でレヴィアタン討伐に行く必要はない。戦力的に考えても二手に分かれることだって十分可能だ。


「……わかった。二つに分かれよう。レヴィアタン討伐に向かうメンバーと〈鬼帝殺し三極柱〉を叩くメンバーに」

「おれは残る」

「わっちも残るでありんす。このままここを離れられないでありんすから」

「じゃあ私も残ります。海の竜ではお役に立てそうにありませんし」

「お、俺はレヴィアタンを倒す!」

「ま、あんたが行かないとシーゼロッタに行く意味がほぼ破綻するしね。私も行くわ、海なら得意分野よ」

「私はクロトと一緒に行くよ」

「わかった。俺もレヴィアタンの方に行こう。こっちの事は頼むぞ、レオ、シエラ、リンリ」


 レヴィアタンの方は俺、エヴァ、リュウ、サエか。水の豊富な場所でのサエは強力だし、氷を使えるエヴァも頼りになる。リュウと俺は機動力があるから海上でも戦える。
 しかし不安はレオ達の方にある。雨刃やリン達が協力してくれたとしても少し戦力に不安が残る。話ではリンと雨刃の二人ですら歯が立たなかったらしいし……


『俺も手を貸そう』


 歪な声が聞こえてきたと思った直後、背後にでかい魔力を感じて咄嗟に振り返る。するとそこに立っていたのは煙のような靄に包まれた大男だった。


「お前はッ!」

『マタ会っタナ』


 どうやらレオとは面識があるらしい。だが油断は……


「安心してくれ。この人はさっき言ったミストだ」


 こいつがランキング一位の……オリハルコン冒険者〈正体不明の霧〉ミスト……!


◇◇◇


作者です。

少しミストの容姿に関して描写が不安だったので補足しておきます。

ミストは基本霧を全身に纏っており、また実体が掴めません。
体の伸縮も自在で、腕が伸びたり体がでかくなったりする事、見せる事も可能です。(理由についてはこの先の展開で……)

ぱっとイメージできるすごくわかりやすい例えを教えます!
まず歩けば人が死ぬ某名探偵漫画に登場する犯人の黒い影を思い浮かべます。
それに雲のような白くモクモクしたものをまとわりつかせるとミストになります。

少し描写不足でした。すいません。

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