最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

227話 銀光月華

 ここは……一言では形容しづらい光景が広がっているが、間違いなく地獄だ。
 明るい赤色の大地はひび割れ、隙間にはマグマに似た赤い液体が流れ、ふつふつと気泡を上げている。檻のような鉄格子があちこちに設置されており、中には誰か居るのだろうが、暗くて見えない。
 そして俺達の目の前にある一際大きい鉄格子。その中にジョゼルはいた。といっても姿は見えない。体格が良く、大きい。座っていても優に三メートルは超えているだろう。


「ハデス……久しいな、どした?」


 無間地獄は他の七つの地獄の苦しみを文字通り永遠に、無限に連鎖して味わう地獄だ。今も俺達にハデスの加護が無ければその苦しみを味わっているはず。
 その証拠に遠くからは無数の阿鼻叫喚が聞こえてくる。修行で弱めの無間地獄は味わったが、あれはトラウマに近い。


「うむ……」


 驚くべきはこの男、ジョゼルは無間地獄を食らっているはずなのに平然と座って喋れていることだ。
 ここでどれだけ過ごして居るのかは知らないが俺は弱めの無間地獄でも数十秒でギブだった。自我も失わずに耐えているというのはにわかには信じられない。とはいえ実物が目の前にいるから信じないわけにはいかないのだが。


「……『狂鬼零刀』についてだ」

「……?   ああ、あの刀か。それがどうした?」

「ここにある」


 レオが一歩前に出て右手に持った『狂鬼零刀』を見せる。
 一瞬驚いたように目を見開いて前のめりになり、そして本物だと分かると無言で目を閉じた。またハデスの手に戻った事への反応だろうか。それとも……


「人間が……普通に持ってやがる……」


 やっぱりそっちか。


「オレにこの刀を寄越したのはお前だろ?   受け取った時、声が聞こえた」

「いや、それは俺じゃねぇ。その刀の吸った怨念が俺を体現してるだけだ」


 これはまた予想が外れた。てことはシャサールさんの時もこいつじゃないのか。


「しかしお前、なんで普通に持てる? 百に近い人間がそれを持ったが、誰も自我を保てるものは居なかったぞ」

「己の信念と心の一本のつるぎがそれだけ脆かったって話だろ」

「……フフ。それで、いったいどんな要件なんだ? わざわざ出向いてきたということはそれだけの用事があったんだろ?」

「オレ達が会わせて欲しいと願ったんだ」

「ほぅ?」

「単刀直入に言えばこいつが欲しい。だがこのままじゃ色々と問題が生じる。だから呪いを解除してほしい」

「そいつは簡単、『狂鬼零刀』ってのは本当の名前じゃない。真の名前を知る事こそが、そいつの呪いを解く一番の方法だ。切れ味求めるばかりで本来の名前を呼ばれなくなったそいつの悲しみが呪いを生み出している だから本来の名前を呼んでやることこそがそいつの喜びになるのさ」


 真の名前、か……


「教えても良いが……おい、お前」


 レオが呼ばれ、視線で応える。


「なぜそいつを欲する」

「直感だ。こいつならオレについて来れる気がした。こいつは無理だったからな」


 未だ腰に下げたままの二代銀月をコンコンと叩き、示す。ジョゼルは暫く銀月を見て、合点がいったように頷く。


「地上にある銀月系統の刀のベースはこいつだ。なるほど、銀月所有者なら本能的にそいつを求めるのもわかる。それに理由もいい……今までそいつを握った者は刀の力に溺れ、自分の力だとおごったばかりに死んでいった……だがお前はあくまで自分が使う側であるということを理解しているし、この刀に溺れてもいない」


 まるで自分で自分に再確認するように話すジョゼルは嬉しそうに笑い、言い放った。


「持っていけ!そいつの名前は『銀光月華』。俺が打った刀の中で間違いない最高傑作! 万物を斬る刀だ!」


 ジョゼルの言葉が終わる頃に俺たちの体が微かに光り、意識を持っていかれそうなほど引っ張られる。ジョゼルは高笑いし、ハデスは複雑な表情を浮かべながらも少し諦めた表情をしている。
 フッと持ち上げられる感覚がし、俺達の体は上昇した。


「制限時間だ。これ以上は保たん」


 ハデスの言葉を最後に、行きとは違って視界が真っ白になって黒い宮殿に帰ってきた。いや、最後の言葉はこうだったか。


「最強の剣士のなれ。その刀に相応しいのは最強の座だ」

「ああ、当たり前だ」

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