最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
225話 『狂鬼零刀』
「容体はどうだボーン?」
「命に別状はないみたい。でもダメージが深くて……いつ目覚めるかまでは……」
シルク・ド・リベルターがサーカス公演のために張っているテントの中で、マスターボウの容態を確認しているグラブスとそれを心配そうに見つめるボーンマンが会話していた。今のグラブスはピエロ姿ではなくいつもの爽やかさだ。
「しかし、オーナーにここまでのダメージを負わせられる冒険者がこの街に三人もいるなんて……」
「なるべく早く離れないとやばそうだボーン……」
「それにしてもオーナーがもう少し回復してからでないと。それまでお相手さんが待っててくれればいいけど……」
「今外で雨刃とリンが見張ってるボーン。何かあればすぐに」
「そうだね……」
◇
「こんにちは~」
エヴァは扉をノックし、返事を待ってから扉を開く。
「冒険者さん! この間はお世話になりました。あら、そちらの方は……?」
赤毛の女性、ゼラさんが迎えてくれ、俺とエヴァ、そしてレオが中に入る。本当は二人でいいかと思っていたのだが『狂気零刀』の事もあるのでレオも来てもらった。
「あ、私たちの仲間です。それで、サシャールさんはどちらに?」
「主人は奥に……」
不安そうに案内するゼラさん。恐らくは何故俺達がここへ来たか、その理由がわかっているからだ。エヴァは不安を拭う為、大丈夫ですよと言ってはいるが、ゼラさんにとっては気休めにもならないだろう。
「シャサールさん、こんにちは」
部屋に入るとベッドに寝ていたシャサールさん慌てて起き上がる。エヴァがどうするの?という風にこっちを見るので代わるよという意味を込めて肩をポンっと叩き、一歩前に出る。
「俺はクロト、こっちはエヴァとレオです。シャサールさん、俺たちがここに来た理由は単刀直入に言えば先日の件です」
「ああ、覚悟はしていた。今はだいぶ頭もすっきりして昔の事や、その……俺がハンターだったころの記憶もある。君達は俺の罪を裁きに来たんだろう……どんな罰でも甘んじて受けるつもりだ」
観念したように、それでいてどこか悲しげなシャサールさんを見て根っからの悪人でないことを確認し、少し安心する。もしシャサールさんに家族がいなければ俺はこんな選択はしなかったと思う。まだ見ぬ二人の子供から、父親は奪えない。
「裁くつもりはありません」
「裁くつもりは無い……? 何を言っているんだ、俺は……それにハデス様がそれを許すとは思えない」
「ハデスとも話はつけてあります」
ハデスに話をつけたというのは半分嘘だ。正確にはこれからつけに行く。が、結果が変わることはない。何をしてでもハデスは納得させる。
「……じゃあ君たちはいったい何をしに……?」
「話を聞かせてください。この刀を手に入れた経緯を……」
「……わかった。俺の知る全てを話そう……あれはいつもよりも獄気が強くて、胸騒ぎのする嫌な日だった」
◇
当時黒鬼隊の隊長をしていた俺はハデス様の命で地獄の秘宝の一つを取りに行くところだった。
地獄の秘宝とは言ってもいくつかのレベルがあり、それに合わせて保管されている場所も厳重になっていく。例えばシュデンヤーは最低危険レベルの秘宝で、逆に〈狂鬼零刀〉等の人格にまで影響を与えてきたり、使い手に致命的な悪影響を与えてくる秘宝は最高危険レベルに指定されている。
そういった秘宝の類は俺なんかが入れない場所に保管されている。
今から行くのは最低危険レベルの秘宝が収められている保管庫だ。目的の秘宝は『獄炎の宝玉』という才能に左右されず獄炎を使いこなすことの出来る魔石。だが、その目的は不明だ。ハデス様は勿論、クリュ様も獄炎の使い手。
秘法とは言え使う場面はほとんど無いとも言える。
しかしハデス様は聡明なお方だ。きっと俺では想像もつかない事を考えてらっしゃるに違いない。
僅かな疑問を頭から叩き出し、命じられた『獄炎の宝玉』が保管されている保管庫に入る。
黒い宮殿に似合わない真っ白な部屋。床も壁も天井も……
正八角形の部屋の各角に秘宝が置かれている。そして入口から反対側の壁に次のレベルの保管庫へと続く扉があり、当然封印されているため今は入れない。今思い返せばこの部屋に入った時、確かに嫌な気配を感じた。皮膚がビリビリして、本能的に「ここから出ろ」と身体が警告している様な。
だが不思議とその時、その違和感にはほとんど気づかずに目的の秘宝に足を進めた。
『ほう、あのジジイ以外が入ってくるとは珍しい』
腹の底に響く、不快な声が聞こえ咄嗟に腰の刀を抜く。
最初は自分の不注意でこの保管庫に賊を侵入させてしまったのかと危惧した。が、賊の姿は無く、次に思いついたのは秘宝の暴走だ。数ある秘宝の中には人格を持っているものもある。
「誰だ!」
『交換条件だ。力をやるから外に出せ』
奥の保管庫へ通じる扉が勢いよく開き、黒く嫌なものが俺の体を駆け抜けた。
「命に別状はないみたい。でもダメージが深くて……いつ目覚めるかまでは……」
シルク・ド・リベルターがサーカス公演のために張っているテントの中で、マスターボウの容態を確認しているグラブスとそれを心配そうに見つめるボーンマンが会話していた。今のグラブスはピエロ姿ではなくいつもの爽やかさだ。
「しかし、オーナーにここまでのダメージを負わせられる冒険者がこの街に三人もいるなんて……」
「なるべく早く離れないとやばそうだボーン……」
「それにしてもオーナーがもう少し回復してからでないと。それまでお相手さんが待っててくれればいいけど……」
「今外で雨刃とリンが見張ってるボーン。何かあればすぐに」
「そうだね……」
◇
「こんにちは~」
エヴァは扉をノックし、返事を待ってから扉を開く。
「冒険者さん! この間はお世話になりました。あら、そちらの方は……?」
赤毛の女性、ゼラさんが迎えてくれ、俺とエヴァ、そしてレオが中に入る。本当は二人でいいかと思っていたのだが『狂気零刀』の事もあるのでレオも来てもらった。
「あ、私たちの仲間です。それで、サシャールさんはどちらに?」
「主人は奥に……」
不安そうに案内するゼラさん。恐らくは何故俺達がここへ来たか、その理由がわかっているからだ。エヴァは不安を拭う為、大丈夫ですよと言ってはいるが、ゼラさんにとっては気休めにもならないだろう。
「シャサールさん、こんにちは」
部屋に入るとベッドに寝ていたシャサールさん慌てて起き上がる。エヴァがどうするの?という風にこっちを見るので代わるよという意味を込めて肩をポンっと叩き、一歩前に出る。
「俺はクロト、こっちはエヴァとレオです。シャサールさん、俺たちがここに来た理由は単刀直入に言えば先日の件です」
「ああ、覚悟はしていた。今はだいぶ頭もすっきりして昔の事や、その……俺がハンターだったころの記憶もある。君達は俺の罪を裁きに来たんだろう……どんな罰でも甘んじて受けるつもりだ」
観念したように、それでいてどこか悲しげなシャサールさんを見て根っからの悪人でないことを確認し、少し安心する。もしシャサールさんに家族がいなければ俺はこんな選択はしなかったと思う。まだ見ぬ二人の子供から、父親は奪えない。
「裁くつもりはありません」
「裁くつもりは無い……? 何を言っているんだ、俺は……それにハデス様がそれを許すとは思えない」
「ハデスとも話はつけてあります」
ハデスに話をつけたというのは半分嘘だ。正確にはこれからつけに行く。が、結果が変わることはない。何をしてでもハデスは納得させる。
「……じゃあ君たちはいったい何をしに……?」
「話を聞かせてください。この刀を手に入れた経緯を……」
「……わかった。俺の知る全てを話そう……あれはいつもよりも獄気が強くて、胸騒ぎのする嫌な日だった」
◇
当時黒鬼隊の隊長をしていた俺はハデス様の命で地獄の秘宝の一つを取りに行くところだった。
地獄の秘宝とは言ってもいくつかのレベルがあり、それに合わせて保管されている場所も厳重になっていく。例えばシュデンヤーは最低危険レベルの秘宝で、逆に〈狂鬼零刀〉等の人格にまで影響を与えてきたり、使い手に致命的な悪影響を与えてくる秘宝は最高危険レベルに指定されている。
そういった秘宝の類は俺なんかが入れない場所に保管されている。
今から行くのは最低危険レベルの秘宝が収められている保管庫だ。目的の秘宝は『獄炎の宝玉』という才能に左右されず獄炎を使いこなすことの出来る魔石。だが、その目的は不明だ。ハデス様は勿論、クリュ様も獄炎の使い手。
秘法とは言え使う場面はほとんど無いとも言える。
しかしハデス様は聡明なお方だ。きっと俺では想像もつかない事を考えてらっしゃるに違いない。
僅かな疑問を頭から叩き出し、命じられた『獄炎の宝玉』が保管されている保管庫に入る。
黒い宮殿に似合わない真っ白な部屋。床も壁も天井も……
正八角形の部屋の各角に秘宝が置かれている。そして入口から反対側の壁に次のレベルの保管庫へと続く扉があり、当然封印されているため今は入れない。今思い返せばこの部屋に入った時、確かに嫌な気配を感じた。皮膚がビリビリして、本能的に「ここから出ろ」と身体が警告している様な。
だが不思議とその時、その違和感にはほとんど気づかずに目的の秘宝に足を進めた。
『ほう、あのジジイ以外が入ってくるとは珍しい』
腹の底に響く、不快な声が聞こえ咄嗟に腰の刀を抜く。
最初は自分の不注意でこの保管庫に賊を侵入させてしまったのかと危惧した。が、賊の姿は無く、次に思いついたのは秘宝の暴走だ。数ある秘宝の中には人格を持っているものもある。
「誰だ!」
『交換条件だ。力をやるから外に出せ』
奥の保管庫へ通じる扉が勢いよく開き、黒く嫌なものが俺の体を駆け抜けた。
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