最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

223話 〈正体不明の霧〉

「まさか……あなたが姿を現しますか」


 三人とマスターボウの間に立っているのは今まで数回しか目撃されていなかったオリハルコン級冒険者〈正体不明の霧〉ミスト。輪郭ごと霧に守られているせいで姿は見えないがそこにいるのは間違いなくミストだ。


『この男に少し借りガアる。ここハ俺ガ相手にナろう』

「ほほう、我々を相手にしながら〈風神〉を守り抜けると?」

「ザシャシャ……あんたの実力は未知数だが、そりゃちときついだろ」

『生憎と一人じャナくテナ』


 言葉の意味を三人が理解するよりも早く屋根が崩れ落ち、上から無数の片手剣が降り注ぐ。それを全て影で受け止めたサーキンだが、下から来た高速の居合を受けきれず回避。
そのせいで影が消え、片手剣の嵐が始まる。
 まるで意思を持っているように片手剣は暴れまわり、三人はその場から数歩下がる。


「食らぇっ!!」


 先ほど居合を放った人影が片手剣の隙間を縫って移動し、再び居合を放つ。ベンケイの首を狙ったその一撃はベンケイの持つ刀によって軽く受け止められる。


「ザシャシャ、お前、〈風神〉とこの用心棒だな? 見たことあるぜ、その顔」


 まだまだ余裕があるのか、ジリジリと押し返しながらベンケイが笑う。


同胞リン!」


 サーキンを狙っていた片手剣たちが軌道を変え、ベンケイに向かう。それをサーキンが逃すはずもなく、片手剣が丸々影にのまれ、動きを止める。


「舐メルナ!」


 続けて新しい片手剣が投入されるもすでにサーキンの姿はなく、屋根の上から片手剣を操っていた者のすぐ近くに姿を現す。


「あなたも〈風神〉の仲間でしたね。確か名は雨刃」

「……ッ」

「遅い! 闘影武技 滅拳・夕影」


 雨刃の行動よりも早くサーキンの拳が雨刃の顔を捉え、そのまま下へ叩き落す。ベンケイと打ち合っていたリンもその実力差を埋めきれず、投げ飛ばされ、背中から地面に落ちていた。


「くそ、こうなったら……」

「暴殺螺旋刃ナラ……」

『二人とも、そいつを連レテ逃ゲろ』


 ミストは両手……と思わしき霧を纏った影を広げて二人を制する。


「ナニ!? ココマデ来テ退ケダト?」

『ああ、お前ㇻじャ実力不足。邪魔ダ』


 何かを言おうとした雨刃をリンが止め、首を左右に振る。


「ここは退こう。元々オーナーの救出が目的だ」

「……ワカッタ」


 雨刃がマスターボウを担ぎ、リンもそれに続く。


「あら、私たちがそれをみすみす逃すとでも? ここまでめちゃくちゃやられて即退散は許せないわよ?」

『お前タちガ許すカ許サナいカナど関係ナい すデにお前タちハこの空間カラ出ラレナいし、俺も倒セナい。試しテみるカ?』

「いい度胸じゃない」

「後悔しませんことを」

「ザシャシャ、今日はなんだか楽しいなぁ!!」





「シカシ、アノ男一人デ大丈夫ダロウカ」

「考えても仕方ない。私達では手も足も出なかった」


 雨刃とリンがミストと出会ったのはつい先程。
 オーナーマスターボウの帰りが遅い事を心配していた二人の元に突如として現れたのだ。


『〈風神〉が危険ダ。一緒に来ルか?』


 半信半疑であった二人も〈鬼帝殺し三極柱〉の名を聞き、二つ返事で了解したのだ。そこからすぐに旧冒険者ギルドに駆けつけ、現在に至る。


「それにオリハルコンと戦えるのはオリハルコンのみと昔から言われている。例外も多いがな」


 未知数ゆえに『STRONGER』でもほぼ取り上げられることのない〈正体不明の霧〉ミスト。しかし以前、マスターボウがミストの事を高く評価しているのをリンは覚えていた。
 だからこそあの場はミストに任せると決めたのだ。


「傷の具合はどうだ?」

「脇腹ノ斬り傷ハソウ深クナイ。スグニ塞ガルハズダ。ダガ、腹部ノ打撃ハカナリ重イ。内臓ガイクツカヤラレテルカモナ」

「そうか……仕方ない。一旦グラブス達のところまで戻るぞ」


 一切速度を落とさず走っていた二人は背後からの爆発音に足を止める。
 先ほどまで自分達が居り、今もなお四人のオリハルコンが戦っている場所。旧冒険者ギルドが粉々に吹き飛ぶほどの爆発が起き、黒い煙が昇っている。


「……構わず行くぞ!」

「アア」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品