最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

220話 しあわせ

「おーい、レオー」


 エヴァをもう一度寝かせ、俺は隣の部屋に寝ているはずのレオを尋ねる。
 先ほどからドアをノックしているのだが何の反応もない。人の気配もない。壮絶な戦いからまだ一日しか経ってないし、昨日は敵前で寝るほど疲労していた。
 やはりまだ回復しきっていないんだろう。
 俺は諦めて自室の向かおうとすると、俺とエヴァが寝ている部屋から何かが落ちた時のガタンっという音が鈍く響いた。慌てて扉を開くとベッドからエヴァが転げ落ち、地面に突っ伏していた。


「大丈夫か!? どうした?」


 急いで駆け寄り、エヴァの頭を抱えて様子を見る。先ほどと特に変わったようには見えない。
 だが突然悪化することも十分考えられる。と、色々な想定をしたが、次のエヴァの言葉でフッと体の力が抜けた。


「起きたら、クロトいなくて、ちょっとびっくりしたというか……どこにいるのかな~と思ったら体動かなくて」


 えへへと笑ったエヴァの頭を撫でながらベッドに寝かせ、俺も腰掛ける。レオのことはとりあえず置いとくとして、今は一緒にいよう。





「ちょっとー!   リューウー!」


 トボトボ歩くリュウを急かすようにサエが大声で呼ぶ。遥か先を行くサエを見ながら何故こうなってしまったのかとリュウは頭を抱える。


 時は早朝。クロトが起きるか起きないかその時間、隣の部屋では……


「……うー」

「普段はいびきかいてるのに本当に疲れると唸るんだ……」


 リュウは新たなレオの一面を発見していた。
 クロトやレオに比べれば比較的軽症だったリュウは早朝から目を覚まし、これからどうしたもんかと考えていた。そんな時、ドアがノックされ部屋の中の雰囲気とは真逆で、元気に振り切った様な声がドア越しに聞こえてくる。


「リュウ!   出かけるわよ!」


 そして現在に至る。
 道の先で手をぶんぶん振るサエを待たせないように小走りで向かう。サエ曰く、せっかく激戦を潜り抜けられたのだから平和を謳歌しよう!らしい。


「あ、そうそう」


 露店をちらほら眺めながらモツィを頬張るサエが振り向きながらリュウに話しかける。
 モツィというのは白くモチモチした食感の伸びるのが特徴の食べ物だ。この大陸ではよく食べられるおやつの一種で何気にサエの好物でもある。


「もぐもぐ……ん?」


 モツィを口いっぱいに詰めながらリュウは答える。


「そんなにいっぺんに食べたら喉詰まるわよ」


 サエの言った通り、リュウは喉を詰まらせゲホゲホとせき込む。モツィを食べる時、割とよくある場面だ。


「それでね、リュウ……私と一緒に行かない?」


 次の瞬間リュウは別の原因でせき込んだ。サエが何を考えているかリュウにはほとんど理解できなかったが、今の一言はもっと理解できなかった。
 短い間ではあったが今までの旅からいくらリュウでもある程度の事情は理解していた。


「そ、それって……」

「知ってるでしょ、私は今まで仲間に良い思い出がない。でもリュウ、あんたなら一緒に居てもいいと思えたの!」


 サエの限りなく本音に近い訴えにリュウの心が揺れる。
 これまでバイラス島でずっと暮らしてきたリュウだが、人並みに恋もしてきた。だから今自分がサエに抱いている感情が何なのか理解している。


「それ、は……」


 だがそれを素直に答えられない。
 リュウには七色の竜を倒すという目的がある。さらにクロト達と一緒にいればその目的を果たせる可能性がぐっと上がるのも事実。激しく揺れ動く思考の中でリュウは無言でサエを見つめる。お互いに目が合ったまま数秒の時が流れる。


「……ふぅ。ぷっ! 冗談よ冗談! アハハ!! そんな真剣に考えてくれるのね」

「え……えええ!? え、あ、え、冗談……??」


 激しく左右に揺れていたリュウの思考が突然殴られたように乱回転を始めた。ほぼパニック状態のリュウはサエが放った次の一言でさらに混乱する。


「あ、私、リュウと一緒に行く事にしたから!」

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