最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

213話 獅子vs龍、乱入せし鬼

「魔力はまだ残ってるらしいが……その傷はやっぱり効いてるんだな」


 レオの言葉にハザックの顔が再び険しくなる。
 牙をもがれた獅子と全身を打ち砕かれた龍。どちらも瀕死に違いはない。だが、一方は強き信念が。もう一方は歴戦で得た力と誇りがその体を突き動かす。


「あなた方を侮っていた事は認めます。白髪の貴女が最後に放った攻撃。武器を折られてなお戦い続ける貴方の人間離れした力と強い精神力……敬意に値します」


 至極冷静に言葉を紡ぐハザックにレオも動きを止めたまま、動かない。


「しかし……しかしっ! 私は大陸最強! 〈煌龍〉のハザック・エードラム!! 私の積み上げてきた功績、そして経験と力。そして私が唯一自分の主人と認めた団長に誓ってここで負けるわけにはいきません。私の最強魔術を受けても倒れない貴方にこれ以上……油断しない!」

「おれが目指すのは最強との戦い。そしてそれ倒し、最強の座にはおれが座る! 〈煌龍〉のハザック・エードラム。相手にとって不足無し……!」


 ハザックとレオの視線が交差したその刹那。
 二人の姿は肉眼では捉えきれない速度で動き、お互いに打ち合う。レオの折れた銀月はハザックの傷をえぐり、ハザックの光はレオを焼く。
 それでもお互いに引く事はない。先に打ち負け、倒れた方が死ぬ。


『いい力だ。強い信念、そしてその先にある野望。ここで無くすのは惜しい……力を、受け取れ』


 地の底から響いてくるような声がレオにだけ聞こえてくる。二人の攻防が停滞したその一瞬。空の彼方でキラリと何かが光りレオ目掛けてそれが飛んでくる。
 細長いそれは疾風の如く駆け抜け、レオの手に収まった。紫の模様が入った青い鞘。黒と紫が交差した柄。そして十字を象った鍔。


――『狂鬼零刀』





 地獄の更に深く、ハデスですら滅多に入らないその奥底には無限牢獄と呼ばれる牢獄が存在する。
 ハデスが所有する最大最強の地獄、無限地獄。そこに落とされた者はここへ来る。永遠に尽きない苦痛が受刑者を襲い、死ぬ事も許されないまさに地獄。そんな無限牢獄の最奥で不敵に笑みを浮かべる者が居た。


 その者はハデスに仕える元家臣で、優秀な鍛冶屋としても有名だったその男は、遠い昔に一本の刀を鍛えた。
 握った者を無条件で強化し、多大なる恩恵をもたらした刀。
 後に地上へ出たそれは大陸中の鍛冶屋を唸らせ、剣士がこぞって欲しがった。しかし、刀は幾つもの時代を経て人の血を吸い続けた結果、怨念が宿り妖刀へと姿を変えた。握った者は誰にも止められない力を得、殺人を繰り返す。その者が死ねばまた次の者へ。
 こうしてすっかり妖刀として有名になったのが『狂鬼零刀』である。





「…………」

「れ、レオ……?」


 刀を受け取った途端時間を止められたように動きが止まり、弱々しい声でシエラがレオに呼びかける。返事をするかのようにレオは両手を下げ、左手に持った二代銀月を鞘ごと地面に刺し、右手の『狂鬼零刀』を左手に持ち替える。


「シエラ、あれって……」

「……この間クロト達が奪取した……妖刀でありんす」


 シエラの言葉にリンリだけでなくシエラ本人も震えを覚える。クロトの話では触れただけでアウトな代物。それがよりにもよってレオに渡ったのだ。
 もしハザックと強化されたレオを同時に相手するとなると、ほぼ不可能に近い。


「まさか暴走ですか?」


 ハザックの言葉にレオがピクッと反応し、右手が高速で動き、気づけば横に伸ばした腕に『狂鬼零刀』が握られていた。だが、レオとハザックの距離は離れており、刀は届かない。
 と思いきや、ハザックが突如として右肩を抑えて数歩後ろへ下がる。右肩は切られ、赤い血が滲んでいる。


「おれの耳元で、頭の中で殺せ殺せと声がする……消え失せろッ! おれの精神を支配しようと蠢く亡者共……乗っ取れるもんなら乗っ取ってみろ!」


 レオがこの刀についてどれだけの情報を持っているか、この時この場に居たものにはわからない。だが、二人のホッとした安堵の声が静かに響く。


「まさかまだそんな武器があったとは……」

「牙をもがれた獅子は次に爪を使う事を考えるのさ。行くぜ大陸最強 さっきまでのおれと思ったらその腕その脚、揃ってもらうぞ!!」

「来い!! 浄化の殲滅光ピュリフィケーション・ホロコースト・エードラム

至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 奥義!! 薙払の型 『神薙麒麟暴かみなぐきりんのあかしま』!!」

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