最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

210話 今、雷神を超える

 薄れゆく意識の中、俺は確かにソレを見ていた。
 実戦の中ではあるが氷纏・姫装束イエロ・プリンセスコートを完成させ、発動したエヴァが巨大な毒の化け物に変化したゼノンと戦っている様子を。とは言っても、実際に俺の目で見ていたわけじゃない。
 俺の目で見ていたらこんなアングルで見えていないはずだ。ゼノンの足元に転がってるわけだし……
 じゃあ俺はどこにいるのかって? まぁ一言で言えば精神世界だな。あたり一面真っ白。地面とか天井とか、壁とかって概念はなさそうだ。こんなにのんびりしている場合ではないのだが、のんびりせざる得ない。ここに来てすぐ何度も戻ろうとしたが俺の意思では戻れないらしい。


「こんなことをしてる場合じゃないのに……俺はエヴァを助けないと行けないんだ!」


 永遠に広がっているこの空間でいくら叫んでも誰にも聞こえないし、反響して返ってくることも無い。
 そもそも俺は帰れるのだろうか。ゼノンの毒をもろに食らったはず……帰れたとしても戦える体なのだろうか……


『戦えるわ』


 今まで何も聞こえてこなかった空間に、俺以外の声が響く。
 その声の主に俺は覚えがあった。だがあまりにも突然、そして意外で咄嗟に返事はできなかった。


「も、もしかして……」

「……クロト」


 白い空間の一部が黒に侵食され、赤皮膚の巨人が現れる。ハデスの突然の登場に驚いたが、そんな事よりも聞きたいことが山積みだった。


「なんでここに……」

あの者ゼノンの毒を受けて、お主の魂は地上と地獄の狭間まで来ておる それがここ」

「死んだ……ってことか?」

「正確には違う。獄化・地装衣インフェルノトォールを発動したまま、つまりは地獄の門を開いたまま致命傷を受けた。本来なら肉体が死ぬまで魂がこちらに来ることはないが、偶然にも門を通過してここに来たんじゃ」

「じゃあ、帰れるか?」

「それも可能じゃろう。現にお主の体はすでに回復を始めている。あとは意思次第で戻れるじゃろうよ」

「回復? なんで?」


 今も俺の体はゼノンの下にいるはずだ。


「うーむ……お主の体には微弱ではあるが別の者の魔力が宿っておる。本当に弱く、小さいが故に何も違和感はないじゃろうが、ここに来て効果を発揮したようじゃな」

「はぁ……? なんでそんな魔力が?」

「二ヶ月ほど前、魔王と対峙した際の事を思い出せ。最愛の師と再開を果たし、そして別れた瞬間を」


 ハデスに言われ、俺は記憶を遡る。確かあの時は……






最後、イザベラさんの聖域サンクチュアリを剣狼で破り、俺はシュデュンヤーをイザベラさんに突き刺した。


「癒……術……」


 震える手で俺を抱きしめるように手を伸ばしたイザベラさんが意識も朦朧としているのであろう、掠れる様な声で癒術を使う。


「…………聖人のセインツ……祝福ブレェスィング


 温かい緑色の光が俺を包み、そしてイザベラさんは二度目の死を遂げた。





「そうか、あの時のあれ……てことはさっきの声!」


 もしかしたら居るんじゃないかと思い、辺りを見回しても、当然その人は居ない。


「そう……だよな……」

「何を落ち込んでおる。死してなお、お主を守るその意志の強さ。誇らずしてどうする!」

「ああ、わかってる……わかってるさ。俺は戻ってエヴァを助ける」

「うむ」

「でも、どうすれば……武雷針ですらあいつの毒には届かなかった」

「ガッハッハッ、何を言うか。お主にはあんな術よりも強い術が山ほどある。あれを使え、獄化・地装衣インフェルノトォール、第二のモードを」


 言われて思い出す……というよりも意図的に忘れていた。獄化・地装衣インフェルノトォールはモード雷神の他にもモードがある。


「……やるしかないよな」

「今更恐れるな! 地獄は人間の恐怖が具現した姿。お主が恐怖を乗り越えれば必ず力になるだろう。我らの事を忘れるな、仲間を忘れるな」

「ああ……そうだな。ちょっと、行ってくるぜ!」


 体から力が湧き上がるのを感じ、それとは反対に意識は薄れゆく。
 その最後の最後、もうハデスの姿すら霞んで見えなくなっている時、イザベラさんが笑いかけているような気がした。

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