最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

205話 癒術の才

「……いいえ、まだ勝っていません」


 炎は一瞬にして消え、中から無傷のハザックが現れる。


「な……」

「……うそ……ですよね……」


 全くの無傷なのだ。服は多少焦げたり、斬撃の跡が残っているものの、それがなければさっきと全く変わっていない。


「私にはいくつかの二つ名があります。好んで名乗っているのは〈煌龍〉ですが、〈始まりの大魔術師〉や〈絶対不可侵領域〉と……どれも私が付けたのではなく、私の功績を見た者がつけた名です。その中に〈再生の大精霊〉というものがあります」

「まさか……」

「確かに傷を受けましたよ。全身の極度燃焼、内臓もいくつかやられました。あと腕も一本飛びましたね、大したものです。しかし、すべて回復しました。いえ、再生と言ったほうがいいでしょうか」


 癒術を使えるシエラだからこそ分かる。そんなのはありえないと。かすり傷や小さな切り傷は一瞬で回復出来るとしても、大き過ぎる傷や内臓にまで付いた傷はいくら癒術と言えど回復しきれない。
 何日もかけて何度も行えばそれも可能だが、一瞬のうちにというのはまず不可能な話だ。


「圧倒的殲滅力と完璧な防御を持つ私が完璧な体の再生を行ったところでそんな不思議は無いでしょう?」

「いや……ありえないでありんす。火傷や内臓のダメージを回復できるまでは納得できるでありんすが飛んだ腕を丸々生やしたなんて癒術の範疇を超えてるでありんすよ」

「なるほど……やはりハッタリは通じませんね」


 思った通りと言うような顔で笑うハザックにシエラもリンリも違和感を覚えた。確かに癒術の範疇を超えているとは言ったが、ハザックなら可能なのではという気持ちもあったからだ。


「……ぐふっ……」


 突然ハザックが吐血し、服の内側から体が切れ、血が染み出す。左腕が肘のすぐ下から落ち、傷口は辛うじて塞がっているが片腕を失っている。


「何、が……」

「回復しきれていない……?」

「やはり……ダメージがでかすぎましたね。回復しきれないとは……」

「……あの〈煌龍〉であってもその傷は治せませんか」

「…………私には双子の妹がいました。何でも分け合ってきた大切な妹です」


 突然始まったハザックの話にシエラ、リンリ共に困惑を隠せなかったが二人共魔力はゼロ。遮って攻撃を仕掛けるという事もできない。


「妹と私は才能をも分け合っていました。そう、妹は癒術において天才的、いや神的な力を持っていました。それこそ飛んだ腕を丸々再生させるなんて事も可能でしょう。反対に私は聖術と結界術には恵まれましたが癒術の才は無く、初級魔法を生まれ持った魔力量で補っていたのです」

「クロトとの戦闘から連戦なのにも関わらず傷が全くなかったのはそういう事でありんすか」

「ええ、とはいえここまでの傷を負わされれば私も回復しきれません。私の栄光も陰ながら支えてくれた妹が居てのもの。現在では悪行を重ねる私に罪悪感を覚えるのかその癒術を人間の為に使っているようですが……」

「驚きでありんすよ。罪の意識があったなんて……」

「ふふ……少し傷を負いすぎましたね。まさか使えると思っていなかった魔力消散域の発動と強力な炎舞、見事でした。ここまでの傷を負ったのは久方ぶりです。この傷に免じてここは見逃したいところですが、ゼノンは仲間への攻撃を決して許しません。よって情けもかけれません。せめて一瞬のうちに……」


 ハザックが結界を出し、光を集める。今度こそ終わりだ。正真正銘魔力ゼロ。立ち上がる事さえ厳しい。


「眠れ」

「待て待て待て待てぇぇぇ!!」

「……?」

火竜砲カノン・オブ・サラマンダー!!」


 シエラ達から見て視界の左側。方角的には大魔森がある方向から炎が横切り、視界を埋め尽くす。ハザックも寸前で防御結界に切り替え、炎に向けたが予想以上の大きさで炎柱に飲み込まれた。





 ほんの少し時を遡る。
 竜鎧装りゅうがいそうを発動させたリュウの背にレオとサエが乗り、クロト達が戦っているであろう場所を目指していた。幸いにもエヴァの嵐神槍グングニルが天高くそびえており、場所はすぐにわかった。


「しかしこの量に囲まれてるのか……」


 眼下でクロト達の退路を塞ぐべく囲んでいる大量のウェヌス盗賊団を見て、リュウが呟く。巻き込まれると考えてか中心部分から離れ、円形に囲っている。


「おい、あれ」


 レオが指差した先にはハザック、シエラ、リンリが居た。この時既にハザックはボロボロだったのだが、遠くてそこまで判断できない。見えるのはハザックが発する光と、その光に照らされて二人で座っているシエラとリンリ。
 明らかなピンチ。


「リュウ!」

「わかってる! 待て待て待て待てぇぇぇ!!」


 リュウの声でハザックに一瞬の隙が出来る。


「アイツはおれが相手する」

「私とリュウはこの包囲している盗賊団を蹴散らすわ!」

「二人で行けるか?」

「あんたこそあの〈煌龍〉に一人で挑もうとしてるじゃない。任せて!」

「わかった。リュウ、炎だ」

火竜砲カノン・オブ・サラマンダー!!」


 リュウの手から放たれた炎がハザックを飲み込んで燃え盛る。
 炎が消えた後、ハザックは膝をついていたが炎自体は結界で防ぎきったらしく、ダメージは無さそうだ。


「行くぞ……!」


 レオがリュウの背中を飛び降り、腰の銀月に触れる。

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