最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

204話 反撃の太刀

「我流 獅子ノ太刀!」


 大振りな斬撃でハザックを狙うが、手の先から出現した結界に阻まれる。魔力消散域の範囲や効果を調節できるハザックなら、数秒のインターバルを挟めば連続展開も可能。
 だが、それをしないのはシエラとリンリがそこまでの脅威では無いからだ。


「そろそろ終わりにしましょう」


 結界が光り、明らかに嫌な予感がする。


「……ッ」

「リンリ……!」


 避けようとするも既に光はリンリを飲み込んでいた。
 ハザックが普段好んで使っている結界は攻撃にも転換できる魔法陣で、その魔法陣からは弱体版浄化の殲滅光ピュリフィケーション・ホロコースト・エードラムを発射できるのだ。
 レーザーの様に光が一直線に駆け抜け、地面が誘爆を起こす。リンリは弾き飛ばされ、シエラの少し後ろで倒れる。全身が光に包まれたというより炎に焼かれたような傷を全身負っている。


「リンリ!!」


 シエラは震える足を引きずりながらもリンリに駆け寄り、リンリの頭を膝に乗せ容態を確認する。
呼吸は小さく浅いが死ぬような傷ではない。


「癒術 癒やしの光ヒールライト!」


 シエラの両手から発せられる小さな光がリンリの傷を癒やしていく。
 一方、先程の違和感にハザックは疑問を捨てきれていなかったが、目の前の光景はまさしく自分が見てきた絶望だった。


「リンリ! ……リンリ!」


 目が虚ろなリンリに覆いかぶさるようにして何度も名前を叫ぶシエラ。
 多少自信をつけた冒険者が強い相手に遭遇し全滅するというのは昔からよくある話で、今回もそれにすぎない。


「ここまでですね」


 ウェヌス盗賊団に長く居るハザックに、もはや情は無い。
 一枚の結界とそれに重なるように二枚目の結界を作り出し、魔力を流し込む。この二枚目の結界は光を収束し聖術の威力を高める魔法陣。つまり殺傷能力を大幅に上昇させられるという事だ。


「……ああ、殺してしまう前に。貴女の女神の怒りゴッズ・エインガー、あれは月が近ければ近いほど威力を増すはずでしょう。夜に使えば勝機はあったかもしれませんが、昼間では……」

「それは……余計なお世話でありんす」


 リンリに被さったまシエラが言葉を遮る。そんなシエラの様子を見てこれ以上先延ばしても仕方ないと感じたのか結界が光りだす。


「これで……」

「全魔力解放!!」


 シエラの声に合わせてハザックを中心に地面に魔法陣が浮かぶ。シエラの手が丁度端に触れる程の大きさで、濃縮された魔力が肌で分かるほど漏れ出している。


「こ、これは……まさか!?」

「魔力消散域!!」


 ハザックの奥義でもある魔力消散域は理論上結界術に長けている者であれば使う事ができる。だが、先程存在を知ったばかりのシエラにそれが出来るとは予想だにしてなかったのだ。


「クッ……魔力が。何故だ……何故使える!?」


 冷静沈着なハザックが取り乱している。それはそうだ。


「この術はどんな魔術師でもこの術の前では無力になりんすよね」


 ハザックにももちろん有効である。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 立ち上がったリンリが持つテンペスターに轟々と炎が燃え盛る。


「行くでありんす……!」


 魔法陣が消えると同時にハザックの魔力も空気中に消え、トドメ用に出していた結界も消える。
 魔力消散域とは言っても見様見真似。まだ不完全である事は間違いない。発動してられる時間は多く見積もっても三秒。おまけに本来の能力では術者の体内にある魔力も根こそぎ奪っていく術なのだが、ハザックの展開した結界を消すだけで精一杯。次の魔術を使うまでに多少の時間はかかるだろうが、完全な無力化ではない。
 因みにハザックがこれまで使った魔力消散域も大きな消耗を避けるために根こそぎ奪うものではない。


「まさかさっき見たものをここまで忠実に……」

「我流奥義・改 竜舞の太刀!!」


 暴力的な炎を振りかざし、まるで竜が天を舞うような連撃がハザックを襲う。
 爆炎はハザックの姿を隠し、リンリの猛攻はそれでも止まらない。業火が身を焼き、剣が身体を斬り刻む。
 竜舞の太刀は代々リンリの一族に伝わる儀式的舞踊の一つを戦いに応用したもので、読みにくい挙動と連撃、そこにリンリの炎が組み合わさり完成する。


「はぁはぁ……」


 炎から抜けてきたリンリは力を使い果たしたのかテンペスターの重さすら支えられず、膝をついて肩で息をする。炎は未だにハザックを閉じ込め、燃え盛っている。


「大丈夫で……ありんすか……?」


 リンリのすぐ隣に駆け寄ってきたシエラはリンリよりも荒く息を付いている。それもそのはず、魔力消散域を発動させる為に全ての魔力を使い切ってしまっているのだ。
 リンリも竜舞の太刀に全体力全魔力を注ぎ込んでいる。正真正銘の二人の全力だ。


「シエラ……!!」


 シエラの肩を支えながら、炎を見る。
 これを自分がやったのかと思うと未だ実感は湧いてこない。だが、なんとか〈煌龍〉を倒したのだ。二人は言葉こそ交わしていないがお互いを労い、脱力している。


「勝った……」

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