最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

195話 一時の休息

「うそ……なんで?」

「さっきの人が一週間や二週間は目覚めないって……」


 少し体が重そうに起き上がったレオは間違いなくレオで、自我もしっかりしている。操られている類ではなさそうだ。


「全快だ。少し体はだるいがな」


 平然と立ち上がり、体の調子を確かめながらレオは言う。さっきまで瀕死だった人間が全快で立ち上がっている。なんの制限もなしにだ。


「やっぱりあの女、変なことを……」

「どの女かは知らんがカサドルに向かうぞ」

「え、でも……」

「少し眠って勘が冴えた。嫌な予感がする」

「……わかった。行こう、サエちゃん」


 今まで黙っていたリュウもレオに同意する。こういう時のレオの予感は当たると短い付き合いながら感じ取っているのだろう。


「ちょっと! ……わかったわ。ただし今日は休みしょう。また倒れられたら困るわ」

「わかった」


 サエの妥協をレオが飲み、三人は一旦湖の近くで休むことにした。この湖は上から見ると大魔森に半分入っている湖でかなりの絶景スポットとして知られている。
 移動と準備が終わる頃には日も傾き、焚き火を始めた頃にはもう辺りは夜のとばりに包まれていた。


「さっきの女の話、詳しく聞かせろ」


 パンを食いちぎりながら訊くレオに、二人は順を追って説明する。





「いてて……」


 不意に手を伸ばした時、治りきっていない肩が痛み、手を引っ込める。癒術で塞いでも、かろうじて塞いだに過ぎず、無理をすればまた開くとシエラに何度も釘を刺されていた。


「もう、言ってくれれば私が取るから!」


 今は宿の食堂で四人、飯を食っていた。あの日、リブ村が襲撃された日から思えばイザベラさんと暮らし、テリア山で雪崩に巻き込まれたあともなんだかんだ言ってもエヴァと二人で過ごしてきた。だから女性に囲まれても大して何も思わなかった。だが、いざ俺一人に対してエヴァ、シエラ、リンリとご飯を食べるとなると少し居心地は悪い。


「あ、ああ。悪いな」


 エヴァに食器を寄せてもらい、また食事を続けた。


「あ、そうだ」


 ふと思い出し、シエラやリンリの方に顔を向ける。


「レオとリュウ、来てなかったか?」

「いいえ、見ていなんし」

「私達も東門から入ってきて、冒険者ギルドに顔を覗かせたところをニルダさんという冒険者さんに声をかけられて」

「あとは知っての通りでありんす」


 あのおっさん、ちゃんと約束守ってくれたんだな。お礼しないとな。……あんまり期待してなかったっていうのは黙っておこう。


「そっか。じゃああの二人、本格的にどこ行ったんだろうな」


 四人で頭をひねるも、規格外過ぎるレオがいる以上予測は出来ないという決断に至った。
 その後、再開も果たした事でお互いの近状報告も済ませ、食事を終えた。この宿は昨日も泊めてもらった宿だが、出る時に今日の分を取っていなかった。ので、先にリンリに部屋を取ってもらい、その間に俺達は片付けを済ませた。
 それも終わり、宿のカウンターに行くとリンリが困った顔で駆け寄ってきた。


「ん? どうした?」

「あのー、二人部屋しかなくて、どうすればいいのかなと……」


 確かにリンリは今までブルーバードで過ごしてたし、宿を取るのは初めてだったもんな。


「あー、それなら」

「部屋二つ取れますか?」


 エヴァが慣れた様子で宿屋の主人と交渉する。エヴァと俺は普段から同じ部屋で寝ているが、リンリはそれを知らなかったのだろう。三部屋取るべきか迷ったんだろうな。
 そんなこんなで俺達は部屋に入り何事もなく眠りについた。





「なるほどな。癒術を極めた女か……まぁいい。今日はもう寝るぞ」

「え、突然ね。それはいいとしても大丈夫? ありえない回復よ?」

「ああ。ただ、気になることはある」

「なに?」


 傍らにおいた銀月に手を添え、一瞬目を落とすが、すぐに立ち上がって焚き火を踏み消した。

「見張りはおれがやる」

「じゃあ俺も途中で変わるよ」

「ああ」


 二人は眠りに付き、何度かの交代を経て何事もなく朝を迎える。
 サエは心の中でレオの驚異的な回復に驚き、また納得しきれていないが、カサドルへ向けて足を動かす。
 ちなみにサエの推察では昼間歩き続けて二日あれば到着するという距離にいるという事もわかった。少なくともクロト達と合流するまで、二日はかかるということだ。

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